第13話 恋情

十三

 「本田さん」

サエは楽しそうに笑っていた。先週とは見違えるようである。本田はサエの様子に驚いた。


「先週より、元気そうだね」

「そう見えますか?」

「うん」

サエは上目遣いで本田を見た。本田はそのことに気づかなかった。


「何か心境に変化でもあったの」

「ちょっとだけ」

「へえ。よかった。先週は落ち込んでいたから」


 サエはずっと本田を見つめていた。本田はその視線に耐えられなくなって、目をそらした。


「なんか、本田さんにいろいろ話したら、気が楽になったんです」

「役に立てたのかい?」

「大助かりですよ」


 本田はサエの心境の変わり方に不信感を抱いた。うまく言えないが、サエの精神的な回復が表面的なものに見えた。


「好きになる人を間違えたのかなと思って」

「そんなすぐにそう思うようになったの」

「はい。いつまでもグズグズしていても仕方ないですもん」

「立ち直りが早いね」

本田はサエを褒めたが、本心からではなかった。


「違う人を好きになったんです」

「早すぎない」

本田は普通に驚いてしまった。

「そういう気持ちになったら、仕方ないじゃないですか。今でも、ドキドキするんです」

本田は夢見がちなこの少女にかける言葉が見つからなかった。

「部活の先輩なんです。わたしが友だちに彼氏を取られて、悩んでいた時に相談にのってくれたんです。こんなに優しい人いるんだなあと思ったら、好きになっちゃって、眠れないくらいなんです」


 サエは本田が質問しなくても、しゃべり続けた。自己評価が下がったサエはちょっと優しくされただけで恋だと錯覚してしまったのではないかと本田は推察した。

 もしかしたら、サエは恋愛体質なのかもしれない。


「こういう風に、一目惚れみたいなのがよく起こるの?」

「これで、四回目です。中学生の時も、高校生のときも、大学になってからも」

本田の推察が少しだけ確証された。


「付き合うことができたら、長く続くといいね」

本田はそう言いつつも、長くは続かないと感じた。


「まだ、好きになっただけで告白とかしてないですよ」

「相手がどういう人か知るところから始めないとねえ」

本田は忠告するように言った。

「先輩はかっこよくて、頭良くて、優しい人なんです。今度こそは、他の人にいかないような人だと思います」


 本田はサエが恋に恋をしているだけのように見えた。サエは頭にある表面的なイメージでしか恋愛することができないようである。

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