第12話 後悔

十二

 例の日が今年も近づいてくる。本田は自宅のアパートで考え込んでいた。何年経っても、嫌な心持がする。釈然としない。


 「ねえ、どうしたの?」

本田の妻は心配になっていた。

「何でもない」

本田は妻に何も話すことができなかった。

「カウンセリングで何かあったの?」

「そんなとこかな」

と本田は言葉を濁した。


 けれども、本田の妻はその反応だけでは納得いかなかった。本田は本当のことを言おうとしても、言うことができなかった。言おうとすればするほど、後悔の念が起きるからである。どうして、あの人を救うことができなかったのかと。


 本田は考え事にふけりながら、妻とともに食事をした。本田が放つ暗い雰囲気のせいで、沈黙が訪れていた。妻はこの雰囲気にただならぬ何かを感じ取った。同時に、本田は妻を不安にさせていることを悟った。


 「恋愛で悩んだことってある?」

本田は今日のカウンセリングを踏まえて、妻に話題を振った。

「ないよ。うーん。恋愛にそんな興味なかったし」

「今日のカウンセリングが恋愛の話でさあ。なんで、そんな悩むのかなって」

「共感するのがカウンセラーの仕事じゃないの」

と妻はからかった。

「カウンセラーにだって、出来ることと出来ないことがある。とりわけ、恋愛の悩みは苦手だ」

「どういう悩みだったの?」

「それ以上は守秘義務だから、言えないよ」

「女の子、それとも男の子?」

「女の子」

「やっぱり」

「別に男の子だろうと、女の子であろうと恋愛の悩みは難しい」

「ちゃんと聴いてあげたの?」

「まあね。来週もその子のカウンセリングだ」

「大変ね」


 こうして、場の雰囲気が和んだ。けれども、本田は別のことで頭がいっぱいだった。本田はそれを妻に悟られないようにした。


 「本田くんには分かるわけないよ」

その言葉が本田の胸に浮かんだ。本人の言う通り、本田には分からなかった。けれども、分かってあげたかった。ずっと、こうした無念を持っていた。


 あのとき、どうすれば正しかったのか。激しい後悔の念が本田の周りを渦巻いた。本田は考えながら、立ち眩みをしてしまった。


「大丈夫?」

「ちょっと、めまいがしただけだよ」


 本田は気を紛らわそうと、テレビを見た。けれども、後悔の念は止まることがなかった。また、今年もあの場所に行かなくてはならない。本田は決意を固めるしかなかった。

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