第4話 孤独

 夢といっても、悪夢ではなかった。そのおかげもあってか、いつものように規則正しく、6時30分に起きた。


 一階に下り、適当に食パンを電子レンジのトースターで焼く。ゆっくり回る食パンを眺めていた。そして、食パンにバターを塗って食べる。ただそれだけの簡単な朝食だった。


 母を起こさないように、そっと家を出た。速足で駅に行き、電車の座席に座る。


 誰とも視線を合わせないようにするため、本を読んだ。活字にだけ目がいって、他のどうでもいい情報が入ることがなかった。


 けれども、いろんな話し声が飛び交う。活字が頭の中に入っても、音がその活字を粉砕した。そのせいで、小説の内容が頭に刻まれることがなかった。正直なことを言うと、うるさいのだ。その中でも、自分と同じ高校生のグループが最もうるさかった。


 何ついて話しているのかは、僕には分からなかった。けれども、何かを共通の話題にしていることだけははっきりしていた。おそらく、人の悪口だろう。なんだか、楽しそうだった。というのも、高校生のグループが全員笑っていたからだ。余程、その悪口が的確だったのだろう。


 その時に、僕は言いようもない悲哀を感じた。寂しい気がした。最近になって、僕は誰とも笑っていないような気がした。そもそも、最近楽しいことがあったのだろうか。そう思い始めた途端に、なんだか切なくなった。


 切ない気分のまま、電車を降りた。高校までは一本道だった。


 人が群れているのを見ながら、なんだか自分だけ取り残されている気がした。孤独がもたらす寂しさというのは、たんに一人でいるから感じるのではない。自分が一人でいることをどうでもいい有象無象の他人が間接的に教えてくれるから、寂しさを感じるのだ。


 学校に行ったところで一人だった。教室の扉を開けた時に嫌な感じがした。誰とも目が合わなかった。多くの人に囲まれているのにもかかわらず、一人だった。あらゆる群れがある中で、自分はどの群れにも属していないことをひしひしと感じた。僕はそのことを意識するのが嫌で嫌で仕方なかった。だから、誰も見ないようにして、席に座り、先ほどと同じ本に目を移した。


 決して誰かにいじめられているわけではない。意図的に仲間はずれをされているわけではない。ただ、どの群れにも属していないのなら、早く一人になりたかった。


 そもそも、最初から一人だったら、孤独という観念が頭に浮かばない気がした。

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