第3話 残像

 食べ終えられた皿には少しだけ、ケチャップが残っていた。僕はずっと椅子に座り、先生の面影を探していた。


 けれども、その像ははっきりとしていなかった。ただ、手の甲だけがありありと頭に浮かんだ。まだ、僕が先生と出会って、まだ三回目だからだろうか。だとしても、あまりに像が不鮮明な気がした。


 皿を洗っているうちに、少しだけ像がはっきりしてきた。茶髪の長い髪。高い身長。あらゆる像がバラバラに浮かぶ。


 けれども、決して統合された像としては、頭に浮かばなかった。あらゆるパーツが脳の中で飛び交うだけだった。


 僕は先ほどの問題に取り掛かった。あれほど分からなかった問題がスラスラ解けた。


 どうして?さっき解けたら、よかったのに。急に頭が良くなった気がした。そのまま、他の問題もスラスラ解いた。


 あっさりと時が過ぎた。時計は22時を指している。玄関が開く音がわずかだけ、二階にも届いた。母が仕事から帰ってきたのだ。


 けれども、いつも通り、ガチャっと扉が閉まる音がするだけで、他には何の音も出なかった。


 僕はベッドに横になった。白い壁面を見ていた。白い壁には薄い影が差していた。僕はぼんやりとその影を見ていた。眠れなかった。いつもと違って眠れなかった。反対側に寝返りを打った。勉強机がそこにあった。それと同時に先生の姿が浮かび上がった。


 眠れないのは、どうやら先生のせいらしい。


 けれども、先生の何が悪いのかがよく分からなかった。そう思いつつも、何が悪いのかをはっきりさせたくないような気がした。はっきりさせたら、さらに眠れなくなりそうだ。


 こんな夢を見た。深い緑。森にはわずかだけ光が差している。その森の木の陰から、見つめる視点。それが僕の視点だった。僕の視点はそこから、動かなかった。赤ずきんをかぶった少女と猟銃を持った男が並んで歩いているのが目に浮かんだ。その二人はだんだん僕から遠ざかっていった。


 離れていくのを見るにつれ、僕は少しずつ彼らを追いかけた。気づかれないようにこっそりと。彼らは振り向かなかった。そのおかげで、距離が近づいた。彼らは大きな切り株の上に座った。僕はとっさに木の陰に隠れた。ただ二人の様子を見ていた。どちらの顔もはっきりと見えなかった。何を言っているのかも分からなかった。


 けれども、二人が親密なことだけが分かった。

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