第3話『世界情勢 6月~7月』



 六月一日 ネットコラム


『世界の奇跡、原発事故件数は0!


 レヴィアンが地球に落下し、環太平洋に致命的な傷を負わせてもうすぐ二ヶ月が経とうとしている。


 落下に伴う災害で、ある意味最悪となったであろう原発事故は韓国を含めて一件と報告が出されていない。


 これはインディアナによる軌道変更作戦が失敗してから、被害対象国は不眠不休で原発から使用中、使用済み核燃料の避難を始めたからだ。


 日本は巨大津波でも耐えられるよう対策を講じていたらしいが、他の国もそうできるとは思えない。万が一原発事故がチェルノブイリ以上の規模で起きてしまえば、太平洋は死の海となってしまって立ち入りも困難となり、放出した放射能でさらに大勢の人がガンなど健康不安を抱いたことだろう。


 幸い、落下するまでに核燃料は全て被害地域から避難または地中深くに処分できたことで、巨大津波による被害を免れた。


 まだ人類はひん死ながらも延命できる』



 六月二日 安保理


『中国、拒否権発動


 国連安保理は先日、中国による独断による治安維持活動を巡り制裁を科すべきだとアメリカが提訴した。他の常任理事国であるイギリス、フランスは可決に合意。ロシアは中立を保ち、中国は常任理事国に認められている拒否権を発動した。


 この拒否権により可決が過半数を得たとしても可決することは出来ず、制裁は否決された。


 アメリカはこれを不服とし、ホワイトハウスは今後無期限で中国に対し経済的取引は全面的に行わない声明を出した』



 六月四日 国連


『国際環太平洋復興機関(IPRO)設立


 国連総会は新たな国際機関として、環太平洋に属する国々の復興を支援することを目的としたIPRO設立を可決が過半数を超えたことで可決した。


 その内容は国家群を三つに分けることから始まる。


 まずは直接被害を受けた環太平洋に属している国々を〝被災国家群〟。


 次に落下地から中距離ほど離れて被災を免れた国々を〝衛生国家群〟。


 最後にグランドゼロから離れた大西洋に属する国々を〝通常国家群〟。


 この三つの国家群がそれぞれ役割分担をして復興に協力をする。


 被災国は人材を。衛生国は物資を。通常国は両方を折半して援助することで合意。


 世界経済復活に環太平洋の復興及び活性化は欠かせないため、IPROの指示の元で復旧復興を果たす。


 透明性と実効性、中立性を保つため、IPROのトップは衛星、通常国家群の非常任理事国から選ばれる。常任理事国は五ヶ国中三ヶ国が被災国家群に含まれるため、自国に優先的な復興を指示する可能性を踏まえた結果だ。尚且つ大国であるため支援は他国より少ない見通しでもある。米中ロはこの決定に反対したが、逆を言えば他国に支援をする必要もないとして合意となった』



 六月四日 国際司法裁判所


『日本国籍者の処遇に苦慮


 世界各国は、各国に永住している日本国籍の人々の対処に難色を示している。


 日本が消滅した今、日本人を日本人として証明する機関がないのだ。


 日本国のパスポートも自動的に無効化され、事実上帰化していない日本人は全員無国籍となった。


 先進国が突如消滅し、その国の国籍が消滅した例はない。


 そのためどう扱うかは各国に委ねられる。


 出来れば人道的な対処を求めたい』



 六月五日 アメリカ


『西海岸復興計画を発表。復興期間は十年


 ホワイトハウスは巨大津波で破壊された西海岸一帯の復興計画書を公表した。


 アメリカはIPROに加盟しても支援は受ける規模は少ないために自力復興が求められる。代わりに支出も抑えられるわけで、その支出分を復興に充てることを決定した。


 復興期間は十年と定め、塩害への対応とがれきの除去、都市再開発計画を進めて避難した住民を戻す予定だ。


 大統領はこの計画の発表に踏まえ、サンフランシスコなどかつての大都市を超える大都市にし、ニューヨークに匹敵する経済都市にすると宣言した』



 六月十一日 NASA


『レヴィアンの被害は想定の半分以下だった


 小惑星レヴィアンが落下してから二ヶ月が経ち、NASAは被害範囲の誤差について論文を出した。


 NASAの計算ではレヴィアン落下のによる被害は、例え分散したとしても二倍の被害が出ているはずだった。それが計算の半分以下の被害しか出ていないのは、レヴィアンを構成する物質の特性が関係している。


 レヴィアンを構成する物質。便宜上レヴィニウムと呼称するが、レヴィニウムは極めて優秀な熱電変換機能を持っており、それによって大気圏突入時の断熱圧縮の空気加熱と、落下時の衝撃による加熱で落下地点は非常に高温になることを防いだ。


 それによって巨大小惑星が落下した際に発生した岩石蒸気を含むあらゆる熱波災害が軽減され、熱量の低い衝撃波と津波だけとなった。


 落下を防ぐことは叶わなかったが、いま人類文明が致命傷を負いながらも存続で来ているのはレヴィニウムの存在のお陰だ。


 レヴィニウムは地球上にある物質よりも融点が高く、靭性は鉄と同等とされるため、ダイヤと違い大きな塊として落下地点に残っていると思われる』



 六月十二日 国連


『レヴィニウムは国連が管理するべきだ


 NASAの論文の公表によって、各国のレヴィニウムへの関心が高まっている。


 現在のところ日本がどうなっているのか宇宙からも朝鮮半島からも確認が取れていない。


 ゆえに日本に落下したレヴィアンがどうなっているのか分かっていないが、推定八十パーセント近い質量が日本付近にあると見られる。


 大気圏に突入したレヴィアンの質量は約二兆トンとされ、それら全てが熱電変換機能を持っていると思われる。


 熱を高効率で電気に変換する鉱物は、地球社会にとって革命的な恩恵をもたらす。


 従来の非効率的なエネルギーからの脱却が確実で、これまでの半分から四分の一以下の省エネ効率が期待が出来るのだ。復興資源として申し分ないレヴィニウムは調達合戦の争いの元となりかねない。


 だからこそレヴィニウムは一括で国連が管理し、必要に応じて分配するべきだ』



 六月十三日 イタリア


『国連総会と安保理で温度差


 レヴィニウムの扱いで国連総会と、国連の一機関である安全保障理事会で温度差が出始めている。


 国際法に則ればレヴィアンの所有権は大よそ領土領海排他的経済水域内に落ちた日本にあるが、日本から生存者の連絡は二ヶ月経っても一切ない。チリの濃度から衛星からの観測は出来ず、朝鮮半島からも日本から明かりは確認できない。


 さらに落下直前に起きた謎の事象と、それらを鑑みると日本はもうないと考えてしまう。友好国として日本の安否は気になるが、いまだに調査に行けないのが悔やまれる。


 そうなるとレヴィニウムを始め日本跡地はどこが管理するのかが重要だ。


 少なくとも中国とロシアは手を挙げるだろう。そのために中国は朝鮮半島の事実上の宗主国となった。


 ロシアは広大な国土もあって被害はグランドゼロの近くではないからひどくはない。ゆえにインフラ設備を提供するとして中ロで日本跡地を分割統治するとも言い出しかねない。


 ロシアは沈黙を保ったままだが、ありえない話ではないだろう。


 つまり、救世主的資源となるレヴィニウムを二大国が独占する恐れがあるのだ。


 それをアメリカが許すはずはないし、イギリスもフランスも良しとするはずがない。


 三ヶ国も日本の管理に動くことだろう。


 これが公平性を見ての国連と、独占性を見ての安保理の温度差の真意だ。


 日本地域の実効支配が、今後の世界情勢の覇権を握るのだ。過去の栄光に縛られる五ヶ国は強硬策を取ってても日本に躍進するだろう。


 一億二千万人の日本国民、さらには一億人の環太平洋の人々の命を踏み台として』



 六月二十日 NPO海洋調査団


『琉球諸島壊滅!


 海洋資源調査を目的としたNPO団体は、暗黒領域となっていた日本近海に調査船を派遣した。無数の瓦礫により船体は幾度と損傷を受け、いつ致命的な傷を負ってもおかしくない中、船員は細心の注意を払って航行。ついに日本近海へと達し、三日間に渡り調査を行った。


 想像以上に船内物資の消費が激しく、三日間しか滞在できないため三日間の調査だ。


 結論から言って、日本に起きた謎の事変を免れていた琉球諸島は壊滅していた。


 謎の事変の解明は次回に持ち越しだが、日本国沖縄県は巨大津波によって一切が薙ぎ払われていた。


 草木も建造物も何もない。


 ドローンで撮影したが、地面以外何も残されていなかった。


 NASAの発表では沖縄は初波で五十メートルの津波が襲い、さらに太平洋に落ちた最大レヴィアンで三百メートルから四百メートルの津波が後波として襲った。


 沖縄の標高は海抜から五百メートルなので、ほぼ全域が襲われたことになる。


 三百から四百メートルの津波に襲われて生き残る建造物はない。


 道路は土砂に覆われ、建物は根元からなぎ倒されて基礎が辛うじて見える程度。


 二ヶ月が経った今、動く生き物は何一つとない。完全なる無人島となった。


 記録では沖縄を含む日本はグランドゼロであるのと、一億人の受け入れ先がないことで国外避難はしていない。沖縄県民も避難はしていないことから、琉球諸島に住む約百五十万人の死が確定したことになる。


 物資の問題、船体の問題からインド近くまで引き返さなければならず、補給と修繕を行えば日本本土の調査に向かう予定だ』



 六月二十三日 アメリカ


『日本との同盟を守るため、沖縄に軍を派遣することを決定


 沖縄の現状が海洋資源調査NPOより発表されたことを受け、ホワイトハウスは無人となった日本の沖縄に三隻の駆逐艦を派遣することを決定した。


 派遣する駆逐艦はノーフォーク海軍基地所属の〝ジェームズ・E・ウィリアムズ〟〝ベインブリッジ〟〝マクファール〟の三隻だ。


 派遣理由はいかに安保条約が破棄しようと、日本との同盟は揺るがない。日本本土に起きた事象はまだ分かっていないが、破壊された沖縄を放置するわけにはいかない。


 海に投げ出された遺体の収容及び、沖縄の保全。さらに日本本土の調査への前線基地とするためだ。


 沖縄に最も近い米軍基地があるのはグアム島だが、そこも巨大津波で破壊されるため米艦隊は全て本土に帰国していた。


 極東地域の治安維持と日本の調査のため、三隻のアメリカの駆逐艦は文明の残骸が覆う太平洋を横断する』



 六月二十四日 中国


『人民解放軍海軍、尖閣諸島に揚陸艦の派遣を決定


 共産党はアメリカ軍の動きを見て、大津波であらゆる意味で洗い流された尖閣諸島に向けて071型揚陸艦〝四明山〟の派遣を決定した。当艦は巨大津波の被害に幸いにも小破で済んだことで修復作業を行い、二十三日に所属する東海艦隊の軍港を出航した。


 目的は長年の悲願であった尖閣諸島の実効支配と、暗黒地域となっている日本への前線基地にするためだ。沖縄と比べて面積は少ないが、前線基地として機能させるには十分な広さを持っている。


 まずは対空防衛設備を設置し、ヘリポートの設置を行う。


 その後基地化を果たし、継続的な日本海域への海路の確保に努める』



 六月三十日 EU


『世界中で治安が悪化


 レヴィアンが衝突する間際の終末期、次がない故の悲壮感から治安が急激に悪化した。殺人、強盗、性犯罪、およそ犯罪と呼べる事件が例年の十倍近くに引きあがった。


 治安を維持する警察官が辞めてしまい、市民による自警団が組織されて警察の代わりに秩序のない取り締まりを独断でし始めたのも悪化の原因と言われている。


 レヴィアンが落下した直後、比較的被害が少なかったことで希望的考えから治安は落ち着いたが、世界経済が破たんし、環太平洋周辺国復興に力がそそぐため資金も物資もEUから多く輸送される。


 もちろん資金も物資も財政を圧迫しすぎない範囲としているが、元々EUで財政がまともなのはドイツくらいしかない。そのドイツもレヴィアン終末期で経済が破たんしていたので、大量の失業者を出している。


 自国再建よりも他国援助に力を注ぐEU政府に不満を抱き、経済不安による失業も相まって治安が再び悪化した。


 この連鎖は世界中に波及し、終末期を超える過去最悪の治安悪化となった。


 レヴィアンによって一億人を殺し、経済で人を殺し、人が人を殺す。


 負の連鎖はどこまで続くのか』



 七月四日 海洋資源調査NPO


『日本は第二のアトランティスとなったのか


 海洋資源調査NPOは第二次日本調査を行い、その報告を公表した。


 接近場所は九州沖からだが、座標では日本の排他的経済水域内のはずが陸地を発見した。


 従来の海底の地質とは異なる植物に覆われた緩やかな傾斜の海底が続き、日本領海よりも沖から陸地が海面から露出して丘を形成している。


 緩やかな丘なので上陸は不可能ではないが、大量の漂流物が渚に流れ着いていて上陸は困難だった。ゴムボートではすぐに穴が開いて沈んでしまうだろう。


 安全に上陸をするには空からしかないが、残念ながらヘリはないため上陸は断念。代わりにドローンによる撮影を行った。


 ドローンが撮影した映像は、知られた日本の風景とはかけ離れたものであった。


 とにかく何もない。


 撮影できる範囲であるのは背丈の低い草に覆われた草原だった。


 津波が襲った範囲からドローンが抜け出せていないのもあるが、日本の海だったところに現れた陸地には植物以外の生物が見つからなかった。


 まず考えなければならないのが、この陸地は日本列島のものであるかだ。


 GPSが使えなくなったため古典的な航海術で当海域へと来たが、少なくともユーラシア大陸に誤って来たとは考えられない。


 この海域に来るまでに琉球諸島を経由して来ているため、やはり今いる場所は九州沖の排他的経済水域、より正確に言えば屋久島付近である。


 屋久島から北東に向けて海だったところが謎の陸地となっているのだ。


 これは、日本列島が消えて謎の陸地が現れた確たる根拠と言える。


 伝説上の話で、一夜で水没したアトランティス大陸やムー大陸がある。


 日本はまさに一夜どころではない。一瞬にうちに消失し、謎の陸地に入れ替わったのではないだろうか。


 詳しい調査を今後必要とするが、是非ともこの考えが壮大な間違いであってほしいと抱かずにはいられない』



 七月九日 海洋資源調査NPO


『日本に現れた陸地は別世界!


 CGによる捏造映像と言われても仕方ないが、ドローンによる調査を行った結果、地球上には存在しない超巨大生物の撮影に成功した。


 恐竜の比ではないこの巨大さは、カイジュウと呼称して差し支えないほどだ。


 概算で全長五十メートルはあるだろう。全高も三十メートルは優に超えていた。


 地球上で最大の生物はシロナガスクジラは最大でも三十メートルで、自重に耐えるために海洋生物へと進化をした。


 しかし今回発見した新生物は、シロナガスクジラをはるかに超える生物が自重を支えて闊歩している。


 かつて地球上で存在していた最大級の生物は五十から六十メートルはある恐竜のアンフィコエリアスと呼ぶ竜脚類であるが、今回発見した生物は象に近く、体積は二倍から三倍はあるほど横と縦両方で恰幅がいい。


 少なくとも体重は千から二千トンはあるだろう。


 これをカイジュウと呼ばずして何と呼ぶ。


 さらには直径が数十メートル。高さが数百メートルとある巨大な木の群生も発見した。


 日本があった場所に現れた謎の陸地は地球の物ではない。


 異星、または異世界、異次元の陸地が現れたとしか説明のしようがなかった。


 少なくとも落下したレヴィアンと共に来たとは考えられない。


 推定七十万平方メートルの陸地には謎の生態系が出来ている。


 もしかしたら地球人ではない人間も?』



 七月十三日 国連


『日本への立ち入り制限を議論


 国連は海洋資源調査NPOの報告を受け、国連総会は日本に対し立ち入りを制限する議題を開始した。


 その上でアメリカと中国に活動を自粛するよう求めた。


 既存の陸地と異なれば何が待っているのか分からない。暗黒地域を掌握するためことを急ぎ、事態を悪化させる行動は慎むべきと事務総長は声明を挙げた。各国の国連大使も同調する。


 しかしアメリカと中国はコメントを出さず無視をする。


 日本に現れた陸地が異次元のものであるなら生物学的にも宝の山、レヴィニウムもあれば新元素がまだあるかもしれない。


 今後の世界の情勢を見据えた先見の明と言えるが、地球とは異なる地があり、地球の生物とは違う生態系が出来ている以上慎重に動くべきだ。


 現段階で巨大生物の情報が各国からないことから、巨大生物は暗黒地域から出ないのかもしれない。だが米中が上陸して生物の採取などをすれば、地球に地球外生物の遺伝子を外来として持ち出すことになる。


 島として隔離されていることを考え、暗黒地域に干渉することを避ける判断をしてもらいたい』



 七月十八日 中国


『中国、魚釣島の実効支配化を宣言


 中国外務省は、魚釣島の実効支配をしたことを発表した。


 魚釣島は古来より我が国固有の領土であり、一八八五年に突如日本に実効支配され続けて来たが、奪取し我が国の領土とすることが出来た。


 日本に起きた事象には哀悼の意を捧げるが、魚釣群島は我が国固有の領土であるため実効支配をさせていただく。


 そして被害となった日本に敬意を払い、沖縄を含む残る日本領有の島もまた領有権は主張しない。


 尚、制定している対米防衛戦略である第一列島線、第二列島線は維持する』



 七月二十日 邦人団体ジパング


『日本人よ、立ち上がれ


 世界有数の動画サイトに挙げられた動画が話題となっている。


 日本列島に住む一億二千万人の行方は分からないが、レヴィアン問題が起きる以前から海外に永住する日本人が約百五十万人がいる。


 その百五十万人のうちの一人が世界中に散らばった日本人同士を一つになるべく動画が挙げられた。


「こんにちは。レヴィアンが落下してから三ヶ月と立ちましたが、まだ世界中で混乱が続いています。私も家族を含めて、来月がどうなるのか分からない生活をしています。決して豊かとはいえません。いつも子供たちに少しでも多く食べ物を与えられないか考えています。


 ですが一人の日本人として、日本に起きたこと、日本を良心の目で見ない国々の情報を見て、どうしても我慢できずにこの動画を撮影しました。


 私たち日本国外に住む日本人は、仕事のため、生活苦のため、余生のため、信念のためと海外での永住を決意し、今回のことでも母国ではなく現地で死ぬことを覚悟して日本に戻りませんでした。


 いわば裏切り者と本土の人達は思うかもしれません。


 私は生き残ってからこの瞬間までずっと、罪悪感を覚えながら暮らしてきました。


 ですが、日本に起きた天変地異の報道を見て、考えを改めました。


 日本に住んでいた人々がどうなっているのか分かりません。


 全員レヴィアンによって死んでしまったのか、それとも謎の陸地と入れ替わる形で別のところにいて生きていられるのかもしれません。


 ただ、一つ確実に言えることは、日本……いえ、大和民族は世界中に散らばった私達だけです。一億二千万人といた日本人は、この地球上でわずか百五十万人しかいません。


 日本人としての意思、血筋、文化、文明をこの星で残せるのは私達しかいません。


 今は別の陸地であっても、日本がその場所にあった事実は決して変わりません。


 あそこは私達の土地です。異世界の土地だろうと、あそこは私たちの父や祖父、先祖が生まれ育った場所です。


 それを、異世界の土地と言う理由だけで他国に管理される謂れはありません。


 私は独りでも主張したい。


 日本列島があった場所の主権は、日本国憲法に則り主権たる日本人にあると。


 レヴィアンによって日本政府が消滅し、帰化していない日本国籍は無国籍となりました。


 ならばあの日本があった土地で、私たち日本人が新たな日本を作るべきではないでしょうか。


 NPOの調査で、日本があった土地には未知の生態系があることは知っています。ですがあそこは日本です。世界中があそこを未開の地、暗黒地域と呼ぼうと、あそこは日本です。


 日本人としての誇りを守るためにも、私は新たな日本作りをします。


 賛同、非難と賛否両論は覚悟していますが、私はどのような圧力を受けようと折れるつもりはありません。


 そして、この考えを強要するつもりはありません。自分の意思で日本再生を考える人達だけ、参加をしてください。残る人を非難するつもりはありません。


 日本を再生したい、ただその強い気持ちを持つ人達だけ、どうか力を貸してください。


 以上です」


 この男性の動画は瞬く間に再生回数を増やし、無国籍となった元日本人は賛同するコメントを投稿している。


 動画の男は法人団体ジパングを組織し、平和的な暗黒地域への移住を模索すると言う。


 国連はこの動画に対し、極めて遺憾で未知の陸地への上陸は許されないとコメントをしている。


 ただ、現段階で特定の国へのテロ等への扇動はしていないため、逮捕などは出来ないと言う。


 しかし、組織が拡大すれば逮捕がありえるため、慎重な舵取りが求められる』



 七月二十五日 アメリカ


『アメリカ海軍、沖縄で前線基地の設置を開始


 中国に一週間遅れでアメリカ海軍は沖縄での前線基地の建設を始めた。


 沖縄には海兵隊、海軍基地とあったが、巨大津波で施設は根こそぎ破壊されてしまった。そのため新たに作らなければならず、アメリカ海軍は三隻の駆逐艦の派遣後、物資を乗せた揚陸艦及び補給艦を派遣していた。


 その揚陸艦と補給艦が沖縄に到着し、うるま市のホワイトビーチで再築を始めた。


 当然ながら日本人の姿は一人もいない。


 早ければ八月初めには海軍基地として最低限の稼働は出来るとのことだ。


 ただし、燃料の補給は当面補給艦に委ねれる』



 七月二九日 国連人口基金


『世界中で経済破綻が加速


 IPROの発足で環太平洋周辺国に人や資金が移動し始め、レヴィアン問題の前後で悪化した経済状況がついに限界に達する国々が続出した。


 不況と言いながらもデフォルトになる国はなかった二〇一八年四月以前と違い、インディアナの任務失敗を機に経済が回らなくなったことで財政が圧迫し、先進国及び新興国の区別なくデフォルトをしている国々が出始めた。


 先進国ではギリシャとイタリアがデフォルトした。


 IPROの規約ではデフォルトなど規定を満たした国々は支援を免除されるため、この二ヶ国は自国の経済再生に重視する』

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