第102話『新時代への発破』



 エルテミア暦二二一年、四月二十九日。



 日本政府はこの日、国土転移して初めての叙勲を行った。


 前回の叙勲が『秋の叙勲』で地球時代の二〇一八年の十一月で、日本は翌年の四月に国土転移してエルテミア暦二二〇年八月に暦を変えたため、一年以上の間を開けての実施となった。


 普段なら一般的な年間行事の一つとして数分の報道程度で終わるところ、転移後の叙勲とその受賞者の内容から大きな話題となった。



『こちらの映像は本日午後に執り行われた、国や社会に貢献した人を国が表彰する春の叙勲の映像です』



 JHKは午後五時四十五分頃に特集を放映した。


 画面には右上に本日午後十三時頃とテロップが映し出され、皇居宮中の松の間にてモーニングスーツを着用する佐々木総理が、同じくモーニングスーツを着用する言語学者の羽熊洋一博士に八方向へ伸びる旭光を持つ日章の乗った台を手渡される。


 神妙な面持ちで羽熊博士は台を受け取り、総理に対し会釈をした。



『ご覧になられているのは佐々木総理大臣より言語学者の羽熊博士に伝達される旭日重光章の様子です。旭日重光章は先に行われた大綬章に次ぐ勲章でありまして、原則七十歳以上が受章する同章の中では史上最年少とのことです。閣議決定で今回の叙勲に限り、年齢に囚われずこの国難に対し著しい貢献をした方々が受章対象となっております』



「混迷極める国土転移に対し、国家存続のため持てる能力を活かし多大な貢献してくれたことに深く感謝いたします」



『佐々木総理は言語学者の羽熊洋一さん含む旭日重光章受章者十五名に言葉を述べられました。史上最年少での受章となりました羽熊洋一さんは、国土転移した当初からユーストルに調査に向かい、初の異星人とのファーストコンタクトを果たしました。その後惑星フィリアの言語の一つでありますマルターニ語を習得し、政府間での通訳をしたことで外交に大きな貢献を果たしまた。政府高官によりますと彼がいなければ今の日本はなかったと言われるほどで、年齢を理由に勲章がもらえないのは恥以外ないとのことで、今回の異例の叙勲に繋がったとのことです』



 画面は切り替わり、須田空港の屋上が映し出される。



『日本政府は春の叙勲に初の異星人を対象する決定をし、代表としてイルリハラン王国の駐日エルマ大使、初のファーストコンダクターであるルィル・ビ・ティレナー上級曹長、その部隊長を務めていましたリィア・バン・ミストリー少佐が、須田空港屋上にて笠原防衛大臣より勲章が授与されました』



 晴天の須田空港の屋上にて、クロスする日本とイルリハランの国旗を背景に笠原防衛相はエルマ、リィア、ルィルにそれぞれ旭日章を手渡す。



『なお勲章はエルマ大使には旭日大綬章を、リィア少佐とルィル上級曹長は旭日単光章が授与されます』



 三人の肩には自衛官によって紅白の帯が掛けられ、脇腹部分に旭日章が取り付けられる。



「本日は日本の勲章を皆さんに授与することができて大変光栄に思います。日本とイルリハラン、地球とフィリアの友好的な関係を、これからも守られることを強く望みます」


『笠原防衛大臣の言葉に、エルマ大使は――』


「異星国家日本からの勲章の授与はこれ以上のない大変な名誉であります。イルリハラン、そしてフィリアを代表してこの勲章の持つ重みを強く感じつつ、日本との平和で友好的な関係を恒久的に続けるよう、日々尽力する所存です」


『と流ちょうな日本語で答えました』



 発言するアナウンサーが交代する。



『本日は特別な許可を頂きまして、本日受章しましたイルリハラン王国代表者三名と、伝達式より戻られました羽熊博士を交えてのインタビューを致します。栄田さん、栄田さん聞こえますか?』


『はい、こちら須田空港屋上に来ております』



 画面の左上にはLIVEと須田空港屋上と、栄田一成とリポーターとテロップが出る。



『今いる場所は日本本州から東に二百メートル離れた須田空港屋上で、空を飛ぶリーアンへの配慮で屋内ではなく屋外でインタビューをいたします』



 リーアンも建物の中で生活するから、広い空間内であれば別段屋外である必要はなかった。しかし、まだリーアンへの理解度が低い国民のため、許可が出た際に屋外でと念を押されていたのだ。


 空は夕暮れで太陽は地平線に沈もうとし、薄暗くなっているのでライトアップして明るさを確保している。その中でエルマたちリーアンは宙に浮く椅子に座り、東京から戻ってきた羽熊も同じく宙に浮く椅子で屋上から二メートルほど浮いて待っていた。四人は全員テレビ映えとして勲章を身に着けている。


 栄田リポーターやカメラマンもすでに宙に浮いており、スタジオからの声かけからインタビューが始まった。



「お忙しい中、インタビューを受けて頂きありがとうございます」



 座ったまま栄田リポーターがお辞儀をすると、四人もお辞儀をする。



「異星人として初めて異星国家である日本の勲章を授与されましたが、実際に手に取られてどのようなお気持ちでしょうか?」



 答えるのはリーアン代表のエルマ大使。



「大変名誉であり、同時に重いものと認識しております。この勲章はイルリハランと日本の関係の象徴ですので、この勲章を手放すときは両国の関係が破たんした時です。そうならない責任を改めて背負った気持ちですね」


「ありがとうございます。しかしながら大変流暢な日本語ですね。イントネーションも完璧で日本人と話しているのと変わらずに聞こえます」


「外国語と違い、日本語は過去に存在しなかった言語ですからね。意思疎通を確実にするには政治、外交に携わる人が直接会得するしかありません。ですので通常の業務以外は日本語の勉強に集中しました。特に私より先に日本語を習得したルィルさんには助けられましたね」


「ルィルさんはリーアンとしては初めて日本人と接触しましたが、初めて接触した時はどのような気持ちでしたか?」



 栄田リポーターはルィルに質問をする。



「そうですね……最初はやはり日本が敵かそうではないかの判断に苦慮しました。私自身はその判断をする権限はなかったのですが、私がファーストコンダクターとなった以上は最悪撃たれる覚悟はしました」


「同じく日本側のファーストコンダクターであります羽熊さんも同じような心配はされましたか?」


「しましたね。見ただけで軍人と言うのは分かっていましたので、ここは民間人である私が間に入って敵意がないことを伝えなければと考えました。とにかく自己紹介と攻撃をするつもりはないことを念頭にジェスチャーをしました」


「ジェスチャーですか?」



「言葉が伝わらないのですから体で表現するしかありませんでした。幸いルィルさん達も察してくれて攻撃をしあうと言う最悪のシチュエーションは回避しました」


「羽熊さんが間に入ったのは、当時の調査隊隊長の判断ですか?」


「いえ、私が間に入ることを隊長に提案しました。その時はルィルさん達に会う直前で、上からの指示を待っている余裕はありませんでしたね。ただ、いま思うと民間人の身で勝手なことをしたと思います」


「ですが軍人同士で素性も分からなければどうなるか分かりませんでした。例え独断であったとしても、博士の判断は適切だと今でも思います」



 エルマを除いて当時のことを知るルィルとリィアは羽熊の判断が正しかったことを証言する。



「お互いに戦闘職ですからね。敵意があるかも分からなければ間に入る誰かがいない限り膠着状態が続いて、何かのはずみで攻撃しあっていた過去は十分にありました。なので羽熊博士の行動はまさに未来を決めたと言っても過言ではありません」


「なのでお互いに警戒を解いた時は本当にホッとしました」


「ありがとうございます。羽熊さんに質問です。今回は特例で年齢を撤廃しての春の叙勲となりましたが、史上最年少での旭日章を授与された今のお気持ちはいかがでしょうか」


「個人的には実感がない、と言うのが率直な気持ちです」


「実感がない、ですか」



 意外な問いに栄田リポーターは聞き返す。



「結果的に私の功績は国家滅亡を回避して、これほどの立派な勲章を授与するほどのことでしたが、私個人としてはそこまでのことをした実感がありません。ただ、自分の技量に沿った仕事を我武者羅に頑張っただけなのです。これをあと四十年続けての受章であれば思うことは違うかもしれませんが、一年もしない活動での受章ではそう思ってしまいますね」


「功績とはその人の歩みを大勢の人が認めてのことですからね。数十年の歩みと、一年の歩みでは本人が抱く実感は違うと言うことですか」


「だと思います。四十年頑張ればこれだけ頑張ったのだからと思うのですが、一年未満ではこれだけのことでと思ってしまいます。もちろん受章をしたからには、それに恥じない活動をするつもりです」


「ありがとうございます。次の質問ですが、これはSNSなどでよく言われていることですが、フィクションではファーストコンダクターは惹かれ合うとされていますが、実際のお二人はどうなのでしょうか」



 いまだに根強くあるネットの話題を、せっかくの公共電波を使ってのインタビューで聞かないわけにはいかなかった。


 羽熊もルィルもテレビに出ることはまずなく、特に羽熊は取材嫌いで有名だ。何度取材申請をしても時間がないの一点張りで許可が下りず、それでもめげずに申請し続けて今回特別に許可が下りたのだ。


 その機会を大切にするべく、解消されていない質問を投げかける。



「その話は私たちも耳にはしていますが、私とルィルさんの間でそのような感情は一切ありません」



 羽熊は長年抱かれて問いにあっさりと否定の形で答えた。



「仕事仲間としてリーアンの中では一番の信頼は置いていますが、異性としては全く見ていません」


「私も同じです。羽熊博士は最も信頼できる人ですけど、異性として好きかと言われれば否定します。これはお互いに分かりあっているので侮辱とか差別と言う意識はありません」


「では今後そうしたことは……」


「ないと断言できます。なにより羽熊博士は先月から交際している日本人女性がいますので、尚の事ありえませんね」



 そのルィルの返答に栄田リポーターは食らいつく。



「羽熊さん、それは本当ですか?」


「え、そこに食いつくんですか? ええ、まあお付き合いはしています」


「それはおめでとうございます。もしよければ馴れ初めとか伺っても?」


「すみません。それは控えさせてください。ただ交際をしているのは確かです」


 芸能人ならまだしも、一般人である羽熊にグイグイと質問するのは避けなければならない。ここで答えないなら潔く引くしかなかった。


「ありがとうございます。えー、午後六時より佐々木総理の記者会見がはじまるので、次が最後の質問となりますが皆様にお聞きします。今後日本とイルリハランの関係はどうなると思いますか?」



 その最後の質問にエルマが答える。



「史上初の異星国家の国土転移に伴う政治、経済的変革は予測が困難で、明日何が起きるか分からない状況です。ですが、今後は日本を中心とした新たな基盤整形が必須なので、我が国としては日本との平和的友好関係を維持する所存です」


「羽熊博士はいかがですか?」


「私は政治家ではないので一般市民としての考えですが、日本もイルリハランも、どの国とも争わず誰も死なない国際関係が続けばいいと思います」


「ありがとうございます。それではそろそろ午後六時になりますので、映像をスタジオにお返しします」


『以上、須田空港屋上からでした。まもなく午後六時より佐々木総理による記者会見が始まります』



 画面がスタジオに戻るとアナウンサーらは最後の挨拶をしてお辞儀をすると、左上の時計が五時五十九分から六時になると同時に首相官邸の記者会見会場へとさらに切り替わった。



『総理大臣官邸です。これより記者会見が始まります』



 アナウンサーの声掛けと共に画面の端から佐々木総理が現れ、閣僚、職員らがお辞儀をする。カメラは総理を追いかけ、壇上に上がる前に日本国旗にお辞儀をして壇上へと上がった。



「只今より、佐々木源五郎総理大臣によります記者会見を行います。初めに総理よりご発言があります。そののちに質問を受けさせていただきます。それでは総理、よろしくお願い致します」



 職員の挨拶の後、佐々木総理が会見を始めた。



「空前絶後の国土転移から九ヶ月が過ぎました。本日に至るまで個人、家庭、企業、社会を支えた国民の皆様。誠にありがとうございます。政府を代表して感謝を申し上げます。


 この日本列島が沖縄及び小笠原諸島含む一部地域を残して異星に転移すると言う前代未聞の事象に対し、国家として存続してきたことは偏に全国民の一致団結した活動に伴うものです。そうでなければ、今の日本はなかったことでしょう。


 特に初の陸続きとなった茨城県神栖市須田浜、通称接続地域で活動する国防軍、関連省庁、関連企業に勤める人々の責任感ある行動には感謝の言葉しかありません。



 しかしながら依然と経営が苦しい企業及び、仕事がなく明日の食事にも覚束な人々の声もまた届いております。


 政府は一人でもその苦しみを取り除くべく、あらゆる制度を多用、または新規創設して一日でも早くレヴィアン問題が起こる以前の生活に戻るよう努めてまいります。


 食料の配給は今後一年は継続し、家賃やローンの一部支援も継続していきます。



 我が国は地球からかけ離れた星に単一国家として転移したことにより、国土と国民、財産に対する安全保障は大きく変わりました。


 空に生活圏を置くフィリア社会と、地上と海上に生活圏を置く地球社会ではあらゆる軍事が異なるからです。イルリハラン王国の支援があるとはいえ、安全保障条約を結んでいない我が国は自力での防衛手段を獲得しなければなりません。


 そこで政府は先月より『海上自衛隊』及び『航空自衛隊』を統廃合し、新たなる自衛隊である『天上自衛隊』を創設する自衛隊法改正案を国会に提出して審議入りさせました。陸上自衛隊は国土防衛として残ししつつ、新たに空間連隊を創設。戦車や戦闘ヘリなど一部装備の浮遊化をし、さらにレヴィロン機関を搭載した日本独自の新装備を開発してさらなる強固な防衛を敷いていきます」



 画面のテロップに海上・航空自衛隊を廃止。新たに天上自衛隊を創設、と出る。



「その財源には、今後確実な需要の見込みのあるユーストル開発及び、異星国家だからこそ価値のあるの製品を惑星フィリアの社会を乱さぬ範囲で輸出して充てる予定です。


 レヴィロン機関に関する技術はすでに会得しており、改修費用も高くない浮遊化は財政を圧迫しすぎることなく充てることができ、他の分野に予算を回すことは出来る見込みです。


 国民の生活を無視して軍事費に充てる国に発展はありません。過去の大戦の反省を生かし、バランスを考えた運用をお約束します。


 この九ヶ月で国難を正すため、様々な政策を実施しました。



 しかしその中であまりにも不評である政策があります。


 小惑星レヴィアン落下の際、日本で死ぬことを選んだ在日外国人及び、共に転移した北方領土に住まうロシア人の方々への国籍政策です。


 無国籍を解消するため、対応策として日本国籍を与えて元々の国籍を併記する限定的日本国籍案でしたが、それでは強制的に日本国籍を与えてしまうと言う非人道的な案でした。


 これにより行政機関での手続きは可能とは言え、母国の国籍を奪われた印象はぬぐい切れません。それによる批判は当初から聞いていましたが、代替案が出るまでは続けてきました。


 今回一つ案が生まれ、国籍に囚われず多くの識者からの意見を取りまとめて自衛隊法改正に合わせて国会に提出しました。


 この国籍の懸念は、各国の政府が存在しないがために国籍の保証が出来ないからであり、唯一政府である日本国籍を与えることで無国籍になることを回避しました。しかしそれは望まぬ国籍でもあるため批判の理由となっていました。


 ですが、日本政府は『日本』だけでなく、もう一つ保証することが出来ることに気付き、多くの国籍を持つ識者の賛同を得たことで改正案を国会に提出しました。



 それは私たちが日本人だけでなく『地球人』でもあることです。


 この改正案は主な国籍を地球と明記し、日本及び元々の国籍を併記する案です。


 つまり今までは日本国籍の人は対象外だった国籍の併記を、日本に住む全員が対象とするのです。


 星そのものが違う以上、重要なのはどこの国で生まれたのかではなく、どこの星で生まれたかです。生まれた国でのアイデンティティは人それぞれ違えども、生まれた星は誰もが等しく、その事実は決して変わりません。


 地球人とリーアンの間で生まれたハーフのアイデンティティを守るためにも、今後主眼を置くのはどこの国ではなくどの星で生まれたかです。二十ヶ国以上の国籍の識者から支持を得たことで国会に提出し、通れば各身分証の更新に合わせて修正していきます」



 テロップは変わり、国籍に地球と明記。各国の国籍は併記となる。



「我が国はまだ転移に伴う多くの難問を抱えています。傾斜問題、不純妊娠問題、海洋生物問題、寒冷不作問題などです。どれもが近年で解決出来る問題ではありませんが、解けない難問ではありません。この国にはそれらを解決する人材、技術、精神が全て揃っていると確信しています。


 国土転移を経て九ヶ月が過ぎ、国際情勢が落ち着いた今、日本は今までにない新たな時代を迎えました。


 私はここに至り、転移以前から続く旧時代から脱却し、新たな時代を歩むため、転移に伴う混乱から正式に定めなかった総裁期限を来月五月末とし後日閣議決定を経て、先に提出した二つの法案が可決した翌日に、衆議院を解散いたします」



 発言直後に佐々木総理の辞任表明。衆議院解散とテロップが変わる。



「新時代を迎えるのに旧世代の議員が居座っては未来は切り開けません。正真正銘の新世代を引き込むことで新たな日本の門出となりましょう。国民一人一人が真剣に旧、新世代議員の声を聞き、各党の政策を吟味したうえで投票し、新たな日本の在り方を決定したいと思います。


 私からは以上です」



「佐々木総理からの記者会見からでした。いま佐々木総理よりありましたが、総裁としての任期満了、そして条件付きの衆議院解散を表明しました」



 映像がスタジオに戻ると、いましがたの会見についてのポイントの解釈が早速始まる。


 特に二つの改正法案である、海上、航空自衛隊の統廃合により天上自衛隊を創設することと、不評の代表格であった国籍対策の再改正案に焦点が上がる。


 本来なら衆議院解散が第一に来そうなのだが、そこは日本政治のお家柄。佐々木政権が政権を取るまでは一年前後で解散していたので、特別感はあまりないのだ。


 自衛隊は当然ながら発足して以来三自衛隊として日本を防衛し続け、国防軍に改変しても自衛隊の名は守り続けた。それを統廃合して新たな自衛隊を発足するのだから注目しないはずがなかった。


 なぜ『天上』の名前が付くのかの議論が起き、政治専門家はこう考察する。



「おそらく海の上、空の上として天の文字を用いて天より国土を自衛する意味合いがあると思います。そして海上、航空自衛隊に所属する自衛官の人達への配慮もありますね」



 海上の上、航空の意味合いを持つ天を合わせることで海上、航空自衛官たちの反発を抑える意味もあると言う。吸収合併ではなく、一度組織を廃止して統合、新たに創設するのだから片方に寄り添っては不満が出てしまう。対等に最初から始まるのだから、二つの組織を合わせた名前にして不満を出さないようにした配慮なのだろう。


 戦闘の舞台は空でも母艦は海自の護衛艦になるから、装備品の面でも不満は出しにくい。


 その考察の途中で、なら元々ある日本の海の防衛はどうするのかと言う質問が記者会見の質疑応答で出て、佐々木総理は日本の海には気体フォロンがないため、異地の乗り物が侵入する心配がない。よって日本の海は海上保安庁が警護すると回答が出た。


 話は次の国籍に変わる。



「国籍を地球に書き換えて日本やアメリカを併記するとは、日本政府としては大胆な案ですね。『日本』政府である以上、日本国籍はそのままに他の国籍を併記するのは自然の発想なのですが、それをもっと上の地球に置き換えてしまうとは……」


「前策の不満点は、日本はそのままに外国籍の人は強制的に日本国籍を与えられることですからね。ですが地球人は絶対に変わらない転移した人々の身分なので、国ではなく星と見たわけですね」



 ネットでも会見の内容は概ね好評であった。


 中には第四の自衛隊とするべきともあるが、コストダウンを考えて統廃合は妥当と言う考えや、統廃合しないでそれぞれで異地の装備を用意すればいいと言う賛否両論が繰り広げられた。


 国籍問題はその手があったかとか、佐々木政権のファインプレーとか好意的な意見が多い。テレビの解説の通り地球の一地域である国で区分するのではなく、その上位である地球人で一律にすれば誰も不満を言わない。なぜなら全員がまぎれもない地球人なのだからだ。


 国土転移した状況からして、これ以上の身分はない。



 そして総理の任期満了や衆議院選挙に関しては、普段なら政権批判が絶えないSNSも真剣に考えるコメントが過半数を占めた。


 国難の山場を越えさせた佐々木政権が退いで新たな政権が近々生まれるのだ。新政権次第ではないはずの山場が突然生まれる恐れがあり、真剣に考えないと今の生活よりももっと苦しくなるとなれば、面倒や興味がないと言って避けるわけにはいかない。


 それは幾度と当選をして胡坐をかいている熟練高齢議員も同じだ。


 今回は投票者の平均年齢が大きく下がる可能性があるので、いつものように高齢者向け政策をすれば当選するとは限らないのだ。若者向けへの政策もまた考えなければ当選しない可能性が生まれ、決して油断が出来なくなる。


 まさに佐々木総理が言ったように日本は新時代を迎えるべく、多くの人々に認識させるよう発破をかけたのだ。



 国家滅亡の瀬戸際に国土転移をして難を逃れて九ヶ月。


 日本の総力を挙げてこの国難を乗り切り、新たな時代を迎える。

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