第87話『観光三日目の朝』



 異地社会ではスポーツがあまり栄えていない。


 その理由はスポーツの多くが道具を使うからにあり、道具の全てが地上に落ちてしまうからにあった。



 地球で最たるスポーツの道具であればボールだ。



 大小形に材質と千差万別な違いがあれど、ボールほど優れたスポーツ用品はない。


 だが異地社会ではそのボールが発展していなかった。


 どうしても地上に落ちてしまい、地上を拒絶する本能から取りに行くことも嫌がるからだ。



 レヴィロン機関が発達してボールの弾性を維持したまま浮遊させることが出来ても、ベンチャースポーツとしても採用されることは少ない。


 いくら浮遊させ、無重力のような移動を可能とさせてもプレイによって地上に落ちることには変わらないためだ。


 卓球のようなテーブル上のスポーツも同じで、テーブルゲーム自体はあってもスポーツはやはりない。


 その代わりに発展したのが、体のみを使ったスポーツである。



 地球で言えば陸上競技等だ。


 ボクシングやプロレスもなくはないが、気絶をすると無意識浮遊も出来ずに地面に落ちてしまい、最悪死亡する場合もあるためやはり人気がない。


 なので比較的安全であり、画的にも迫力がある自分自身を使ったスピード系が異地社会で主なスポーツである。



 ヴィッツはスピード系スポーツの中で世界規模の人気を誇る障害物レース。内容を地球的に言えばパルクールが当てはまる。


 定められたコースにある障害物を最小限で避けながら移動しつつ、チェックポイントを通過して先にゴールした方が勝つものだ。


 それだけなら見栄えはしないがコースはランダムに変えられ、スタートまで選手には伏せられているので、自分の経験と勘で瞬時に判断しながら進まなければならない。つまり選手によってコース取りが違うから先が読めず盛り上がるそうだ。



 異地社会では多目的スタジアム天空島を持つことが国力のスタンダードらしく、先進国に分類するイルリハラン王国でもスタジアム天空島を所有している。


 そして、その天空島はイルフォルン観光三日目で来た。



「ワオ。あれが異地社会デのスタジアム用天空島デスカ。見た限りデは地球と違いないデスね」



 トムはまるでショーウインドウに並べられた商品を欲するかのように、僅かにしか開かない窓に手を当てて変化した景色を眺める。


 地球であれば鉄則として不動である建築物が、一夜にして土地ごとやってきたのだ。


 異地を知っても理解しきれていない一般市民は、こうした光景に慣れていないため自然と興奮する。



「琴乃サンも見てくださいヨ。すごイですよ」


「私はいいです」


「そんナコと言わズに見ましょう? 次にこれルか分からないんでスカら、見ないと勿体ナイですヨ」



 トムの問いかけに須川はベッドで体育座りをした状態で拒否をする。その顔は首都観光初日の夜からどんどん悪くなっていく。


 移動途中ではスキンケアなどをして歳相応の綺麗さを保っていたが、一昨日の夜からそれをしなくなったのだろう。化粧もせず様々なケアもしないから十から二十は老けているように見える。


 なにより寝ていないのが分かるほどに隈が凄かった。


 母国日本から遠く離れ、ほぼ初対面で年上の外国人と偽装と言って差し支えない結婚をして来ているのだ。ホームシックに近い心理状態となっても不思議ではない。


 しかし、トムのこれまでの経験から、須川が抱えている何かはそれだけではないと直感していた。



 大人として尋ねることは出来る。


 だが必然的に孤独である須川に、周りが「悩みを聞くよ」と言っても本音を吐いたりはしない。いま心にこれ以上ないほど何重に鎖を巻いて、いくつもの錠をかけている状態なのだ。それら全てを解かなければ本音を聞くことは出来ないだろう。


 ある程度雪解けするまで待つ手もあるが、一人にしてよかった試しはあまり聞かない。


 愚痴でも自慢でも、胸に抱えていることを出さなければ人はどんどん落ちていく。


 トムは自分の会社でそうして辞めていった人を三桁以上見てきた。


 赤の他人ならトムも放置するが、須川はトムの妻なのだ。仮初でも放置はできない。



「横、失礼シマスね」


 トムは一言告げて須川の座るベッドへと腰かけた。


「……説教でもするんですか?」


 言うより先に言われた。開き直った態度が相当落ちていることを告げている。



「それで明るくなルならしますケド、しても変わらなイノは分かっているのデしないデス」


「ならなんですか」


「貴女がなにを抱えていルノか私は知りませンが、見た限り悪い方なのモ分かってます。けどそれを話しテクレるほど、私とあなたニ信頼関係がなイコトモ分かっていマス」


「なら聞かないでください。これは私の問題なので」


「ですが、見る見るやツレていく貴女を見過ごすことも出来まセん。私はあなたノ夫ですから」


「夫って、紙一枚だけ出しただけでしょ」


「それでモ夫です。でも、琴乃さんの心ヲ聞くつもりはナイデス」


「なんですかそれ」


「人は生きていたら人には言えない秘密が沢山あります。良い事も悪い事も」


「良い事は言えるでしょ」


「ある時まで秘密にしナイといけないこととカアルデしょ? 例えばある歳まデ言えナイ事とか」



 親が遺した手紙を子供が条件を満たすまで見せないのは良い事での秘密だ。満たす前に見せては意味がない。



「悪い事はもちろんですけど、その悪い事でも言った方がいいことがあります」


「ないわよ。そんなの」


「ありますよ。死ぬまで言わなくテもバレない秘密と、近いうちにバレてしまウ秘密です。そして近いうちにバレる秘密は、絶対に後回しにするほど取り返しがつかないことになります」



 後者は仕事をしている人なら必ず経験することだ。


 仕事でミスをして、すぐに上司や同僚に連絡をして修正すれば大した被害にはならないのに、一時怒られることを恐れて秘密にし、自分で対処しようとして出来ずに問題が拡大して上がしることには取り返しがつかなくなる。


 須川が何を秘密にしているのか知らないが、確実にいま言わなければ取り返しがつかないのは分かる。



「ただ、信用されてない私に言えナイことも分かっています。なのでいま聞くツモりはないです。どうしてこの異星国家の首都観光中でソんな悩みを抱えていルノか知りませんが、取り返しがつくうちニ誰かに相談をするこトを進めます」


「取り返しなんてもうつかないわよ」


「それは、琴乃さんだけ? それとも他の誰かもデスカ?」


「…………」



 須川は何も言わない。こればかりはどちらなのか判断はつかなかった。


「琴乃さん。今も言いましたけど、言いたくない秘密を詮索するつもりはないです。ただ、これだけは覚えておいてください」


 トムは一呼吸置いて、言った。



「私は貴女の味方です」



 その言葉を聞いて、須川はわずかに反応を示した。


「またお互いに信用が築けていナイですし、夫婦も書面上での繋がりデす。ですが、それは〝まだ〟がついてきますし、私があなたノ夫である事実は変わりマセン。人との付き合い方で問題の解決方法は違います。他人は問題を言わす、友人は問題を先送りにして忘れます。恋人は問題を秘密にして、夫婦は問題を解決します。他人であり、夫婦である私たちはイレギュラーと言えますが、少なクトも私は貴女の秘密にする問題を知って解決シタい。例え貴女が話すことで辛くなることでも、私は貴女の味方とシて解決しタイと思ってマす」



「結局説教じゃない」


「どうするカは琴乃さん次第ですよ。ただ、自分は一人じゃナイとだけ分かってテください」


「……どうして私の味方をするんですか。つい最近まで他人で愛情とか親愛とか一切ないのに」


「言ったでしょ? 夫だッて。それ以外ナイですよ」



 この先の判断は須川自身が決めなければならない。


 トムは時計を見て立ち上がった。


「気分はどウアれ朝ご飯は食べニ行きましょ。ご飯を食べないと悩むことだってできまセンよ」


 須川は首を振って拒否をするが、トムはうずくまる彼女の手を取った。


「食べて悩んで、あなたにとッて良い答えを出してクダさい。さ、行きマしょ」


 微笑みつつも握る手は強く離さず、最後に須川の方が折れて客室を後にした。



      *




「おはようございます。〝羽熊博士〟」



〝ひたち〟の中央に位置する大食堂では、朝食の時間となりバイキング形式で各々好きな食べ物をさらに乗せて談笑しながら食事を行う。


 料理は日本とイルリハラン料理が半々で並べられ、しかし味付けは日本よりと関東を中心に浸透しているから減り具合は同じだ。


 羽熊も異地の料理には食べ慣れているから抵抗なく取っていき、空いている席へと座って食事を取る。


 基本的に総理を含む政府幹部と民間人が同じ食堂で食べることはない。とはいえ五十人近い人が個室で食べるのは非効率であるため、総理を含む幹部五人は客室より少し大きい部屋で食事を取っている。


 知名度の高い羽熊にも別室での食事が勧められたが、政府幹部と息苦しい食事をするつもりにはなれず、断って大食堂で食事を取っていた。



「ああ、おはよう、〝鍬田さん〟」



 食事を取っていると向かいの席に鍬田が座って声を掛けて来て、羽熊もそれに応えた。


「今日はヴィッツの観戦ですね」


「わざわざ日本のためにスタジアム用天空島を呼び寄せて、イルリハランでトップ選手が来るって話らしいね」


「トップが来ると言われても私達はその人らのこと知らないですけどね」


「まあどういったスポーツなのか分かってもらう親善大会だからね。でもトップが来るってことは迫力あるレースが見れるんじゃないかな」


「博士や総理も来るんでしたっけ?」


「そうだよ。総理だけじゃなく、ハウアー国王らも観戦する予定だね」


「ヴィッツはサッカーや野球並の人気なんですね。地球じゃパルクールくらいじゃまず来ないんじゃありません?」


「どっちかというとヴィッツは相撲じゃないかな」


 相撲ならトロフィーを優勝者に渡すために総理が登場することはよく目にする。


「ああ、なるほど」



 鍬田はパンと自分の手を叩いて納得して朝食を取り始める。


 羽熊と鍬田は正式に昨日の深夜から交際を開始したのだが、公衆の場では交際関係は慎むよう徹底していた。


 その理由は簡潔に言って、羽熊と鍬田の立場によるものだ。


 羽熊は准教授で鍬田は院生。分かりやすく言えば教師と生徒の間柄だ。


 年齢こそ鍬田は成人しているから問題がなくとも、その立場が困った状況を作ってしまう。



 元々羽熊と鍬田は大学が違うから単に年の離れた男女で済ませ、たまたま准教授と院生だったと言えるが、個人的にとはいえマルターニ語の家庭教師をしているため、公に交際をするわけにはいかないのだ。


 日本で一番マルターニ語を理解している羽熊を、無理やり独占した挙句に交際したとなれば世間は良い目で二人を見ない。贔屓しているとか立場を利用しているとまず言われるだろう。



 ネットの炎上は確実だし、その炎上が原因で接続地域を追い出されたり内閣官房参与、最終的に准教授の辞職を迫られる可能性があった。


 羽熊としてはそれは阻止せねばならないから、基本的に接続地域以外では知り合い程度で呼び名も以前と変わらないようにすることにしたのだった。


 鍬田も最初はこの提案に文句を言ったが、自分のわがままで職を失うことを考えたら我慢しようと諦めて、羽熊のことを以前の呼び名で呼んでくれている。



「でもピンときませんね。パルクールとか見てて面白いんですかね? プレイヤー目線だと冷やっとするのは感じたりしますけど」


「それを言うならスポーツ全般言える事じゃない? サッカーならボールを蹴って何が楽しいのとか、野球はボールをバッドで打って何が楽しいのとかさ。人それぞれ趣向が違うから鍬田さんは面白くなくても他の人は面白いと思うかもしれないよ?」


「そうですね。偏見はよくないですよね」


「俺だってプロレスやボクシングの良さとか分からないし」


「私はカーレースの良さがよくわからないです」


「だからヴィッツを見ても面白くない人もいれば、チケットを買って生で見たいくらい好きになる人もいるから、自分の基準が世間の基準と思わないように」


「はーい」



 そうして向かい合わせの朝食を取る。


 専属護衛をしているルィルはさすがに一緒には出来ないので、リーアン用従業員食堂で朝食を取っている。



「……博士、あの女から何かコンタクトありました?」


 鍬田は数口朝食を食べたあと、周囲を見渡して囁くように尋ねた。


「いや、気配もしてないよ」


 警戒はし過ぎるくらいがちょうどいい。何か企みがあることは分かっているから警戒をしていたが、少なくともこの旅行中では一度として気配も感じ取ってはいなかった。


「気を付けてくださいよ。絶対になにか狙ってますから」


「その何かが分からないんだよ。狙いがあって去年から関わって来てるけど一切返信もしてないからさ」



 連絡を取り合っていないため、相手の意図が全く分からないのが現状で憶測しか立てられない。少しでもやり取りをしていたら方向性がつかめたかもしれなかったが、文字通り一切していないと分かりようがなかった。



「アークの代表と結婚したってことは、アークの作戦なんですかね」


「だとしても須川である必要はないだろ。もっと有能な人がいいはずだ」



 羽熊の知る須川はごく普通の女性だ。自身の能力も突出するものはないし、親も特別な役職についているわけでもない。なにより過去一年の話が事実なら勘当されていて頼ることも出来ないだろう。


 そんな孤立無援の須川を利用するのはデメリットしかない。


 捨て駒と考えるのが妥当だが、捨て駒にする理由が分からないし、結婚をしてまでここに来るなら夫であるトムにも共犯の容疑が掛けられる。


 むしろトムが主犯とも言えて、それをミスリードする策とも考えられる。


 はっきり言って可能性があり過ぎて絞り込みが出来ないのだ。


 明確な証拠があればまだしも、この疑いは感情によるものだからし過ぎるだけ意味がない。


 受動的になってしまうが、事が起きるまでは気にとどめておく程度でなければ無駄に疲れるだけだ。



「考えるだけ疲れるからやめよう。せっかくイルフォルンまで来てはっきりしないことに悩むことはないだろ?」


「でも、取り返しのつかないことが起きたら大変じゃないですか」


「じゃあこれから日本に戻るまでずっと見張る?」


「それは……嫌ですけど」


「俺も須川がここにいるのは気に入らないし、何か企みがあるのは分かってる。けど企んでいる証拠が無きゃなにも動けない」



 古川と羽熊の考えは一致しているし、おそらくこの予想は間違いないだろう。


 しかし企みの証拠がない以上、それ以上のことは出来ないのだ。



「絶対に企んでるのに、何もできないなんて……」


「ここで探偵とか捜査官染みた動きをして不穏な空気を出したら、せっかくの首都観光が台無しになるし、俺たちにその権限はない。マンガやドラマみたいにはいかないんだから静かにするのがベストなんだよ」


「……博士、来ました」



 鍬田はサラダにフォークを差して口に含み、そのフォークの先端をある方向へと向けた。


 その方角に最小限の振り向きで視界の端を向けると確かに須川の姿が見えた。その隣にはアーク代表のトムの姿も見え、二人は手をつなぎ須川を引っ張る形で食堂を進む。


 須川の顔はパッと見でもわかるほどに悪く、病気と言うよりはストレスでのやつれだろう。羽熊も農奴問題が出る前の激務だった頃、自分がそうだった。


 寝不足とストレス、過労から来る天然の負の整形は本人が驚くほどに悪い方向で働く。


 須川の顔はまさにそれだ。



「なんか、顔色が悪くなってますね」


「何かがあったんだろうね」


「……ちょっと話しかけてきます」


「火に油を注ぐようなことはやめたほうがいい。あの顔は臨界点寸前で、触れるだけで爆発するぞ」


「だとしても企んでるのかどうか探ったほうがいいじゃないですか。ここにいるのはあと三日。もし三日以内に国交に亀裂を入れるようなことをされたらたまりませんよ」


 言って立ち上がる鍬田の腕を、羽熊は手を伸ばして掴んだ。



「座れ」


 感情の籠らない口調で羽熊は命令する。



「そうやって素人が首を突っ込んで事態が悪化する話がどれだけあると思う?」


「……」


「俺はあまりマンガや映画を頻繁に見たりはしないけど、知ってる限り素人が首を突っ込んで事態が良くなった話は見たことないな」


「それは……そうですけど」


「もし事態が悪化して君はその責任を取れる? 動かなくて悪化したら責任は政府にあるけど、君がしたら君の責任だ。日本存続の責任を、証拠もなく感情だけで動いて背負えるの?」


「…………出来ません」


「なら大人しくするんだ。もし俺のいないところで勝手に動いて悪化させても助けてはやれないよ。逮捕とまではいかなくても、一生の後悔にはなるだろうね」


「……分かりました」



 鍬田は直情的だが話を聞かないタイプではない。論理的に話をすれば聞き入れてくれるから、偏見に基づく正義感で馬鹿な行動はしないだろう。



「でも博士、後悔にはやった後悔とやらない後悔がありますよ。大抵はやったほうが良かった後悔が出てきますけど、博士はどうなんです?」


 しかし鍬田は噛みついて離さない。


「その後始末をするだけの力があるほうの後悔だね。少なくとも俺は須川に声を掛けて悪化させたリカバリーは出来ない。鍬田さんは出来るの? 悪化させた事態の収拾」


「……出来ません」


「ならした後悔よりはしない後悔だね」


「博士って保険張る性格ですね」


「無理無茶無謀が出来るのは未成年まで。成人したら保険張ってなんぼの人生だよ。少なくとも転移してから今日まで、俺も日本も保険に保険を重ねてここまで来たんだ」



 例外を言えば農奴問題だが、その時はそもそもするしないの後悔もなく、打開策を模索してやりきるしかなかった。しかし今回はそうではないから、敢えて危険に首を突っ込む必要はない。


 もししなかった後悔が起きたとしても、その先で対処をするだけだ。


 一番は何も起きないことであるが、恐らく起きてしまうだろう。


 問題はいつ、良し悪しのどちらが起きるかだ。


 羽熊はそこで考えるのを止めて朝食を食べ切り、コップ半分の水を飲み干した。



「ここであれこれ話しても不毛だし、下手に手を出して問題をややこしくすることもない。とにかくイルフォルン観光三日目を楽しもう。今日は政府も民間も同じルートを回る手はずになってるから、一緒に回ることできるから」


「…………はい」



 すごく不服そうな返事である。


 ならばと羽熊は小さい声で言った。



「大人しくしてたら今夜部屋に行くから」


「え?」



 鍬田は驚いた表情を見せ、どう答えたらいいのか分からないのかもじもじと俯きだす。


 何を想像しているのかは分かるがそこはご愛敬。



「さ、ご飯を食べな」


「ほ、本当に来てくれるんですか?」


「大人しくしてくれたらね」


「はい……じゃあ…………待ってます」



 さっきまでとは打って変わって借りてきた猫のように大人しくなった。


 ふと頭をなでたくなってしまうも、公衆の場でそこまでは出来ないので頬杖をして食べ終わるのを待つことにした。



「博士、一つ大事なこと言ってもいいですか?」


「なに?」


「……今日、大丈夫な日なので」



 羽熊は無言で鍬田のスネを蹴り、悲痛な叫びを食堂に響き渡らせたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る