第7話 いざテイト
私たちに負けたギョニンは、縄でぐるぐる巻きにされ、リビングの真ん中に正座させられている。
上半身は魚で下半身は人間のギョニンの正座姿は、なんだかとってもシュール。
水着のままのスミカさんとイショーさんは、そんなギョニンのお説教の真っ最中だ。
「ギョニンちゃんはどうしてテイトに繋がる転移魔法陣を狙っていたのかしら?」
「……メトフィア様に命令されて、テイトに侵攻するためである」
「こら、人のせいにしちゃダメよ」
「あなた、思ったよりプライドないのね」
「な、何を言うか! 我は誇り高き武人だぞ!」
「へ〜、なら、あなたの本心はどうなの?」
「我が本心……それは、テイトへの一番槍を奪い、世に我が武名を轟かせることである!」
「フッフーン、純粋無垢な、自分のことしか見えてない、かわいらしい夢ね」
「ギョニンちゃんの向上心は認めるわ。でも、ギョニンちゃんがテイトを襲えば、それで困っちゃう人がたくさんいるのよ? 多くの人たちを犠牲に夢を掴んで、それでもまだ、自分を誇り高き武人だって、正々堂々言えるかしら?」
「そ、それは……」
こんな感じでお説教は続く。
私はゲームを続行、レベル上げに勤しんだ。
お説教がはじまって、だいたい1時間後。
ギョニンは頭を下げ宣言する。
「申し訳ござらん! 我が野望が間違っていた! 我はこれより『ヤミノ世界』に戻り、メトフィアの凶行を止めよう!」
「フフフ、自分の間違いを認められるなんて、ギョニンちゃんは偉いわ! いい子いい子!」
「フッフーン、かわいい子ね。いつかご褒美、あげちゃう」
「スミカ殿……イショー殿……我はもっと早く、おふたりに出会いたかった!」
そう言うギョニンは、キラキラした瞳をスミカさんとイショーさんに向けていた。
思わず私はつぶやいちゃう。
「ギョニン、落ちたね」
「ええ、完全に落ちましたね」
どうやらシェフィーも同感だったらしい。
溢れんばかりのお母さんパワーとお姉さんパワーには、マジューも敵わないみたい。
2人はある意味で最強の勇者だよ。
さて、解放されたギョニンはマモノを引き連れ自宅を去っていった。
海底神殿の転移魔法陣を守り切った私たちは、ようやく一安心。
「で? これからどうする?」
自然と口から出た質問。
せっかく水着なんだから、海水浴でもしようか。
もしくはみんなで水着写真集でも作ろうか。
きっと最高の写真集が完成するはずだよ。
とかいう私の考えが伝わったのか、ルフナは私に向かって親指を立てた。
でも、ルリは真面目な答えを口にする。
「……転移魔法陣を使って、一度テイトに、戻ろう……」
「ルリの言う通りね」
すかさず同意するイショーさん。
続けてシェフィーもうなずく。
「私もイショーさんの意見に賛成です。まおーちゃんが『ヤミノ国』を追放されてしまっていたことなどを、テイトにいるアイリス陛下に報告しないといけませんからね」
たしかにその通り。
今は世界の混乱をアイリスに伝えるのが大事なとき。
水着写真集を作っている場合じゃないよね。
シェフィーの話を聞いて、ルフナは元気に手を上げた。
「はいは〜い! アイリーとお話しするなら、ミィアに任せて〜!」
そんな王女様の言葉で、水着写真集を作るのは完全にお預けに。
私たちが次にやるのはテイトに戻ることで決定だ。
自宅は立ち上がり、広間の真ん中で輝く転移魔法陣へと向かった。
転移魔法陣に向かう間、まおーちゃんはルフナの足に抱きつく。
「まおー? どうした?」
「ありがと」
「うん?」
首をかしげるルフナ。
まおーちゃんはにんまり笑う。
「さっき、おねえちゃん、ルリおねえちゃんとイショーおねえちゃんのこと、たすけてくれた。だから、ありがと」
「そ、そういうことか。いや……その……ど、どういたしまして」
ミィア以外の女の子に抱きつかれて、ルフナはすごく困惑中。
しかも、いつもと違ってルフナはきちんと鎧を着ているから、絵面も微笑ましい。
おかしいのは、魔王様がナイトさんに懐いてるってところかな。
まあ、それよりも大きな問題があるんだけど。
「これでまおーちゃんに懐かれてないのは私だけに……」
唯一の味方を失って、私はわりと悲しいよ。
実際、今でもまおーちゃんは微妙に私から距離を取ってるしね。
こういうとき、自分の人見知りが憎い。
なんて思っている間にも、自宅は転移魔法陣の上までやってきていた。
ここでスミカさんが疑問を抱く。
「転移魔法陣って、どうやって使えばいいのかしら?」
「紋様を見る限りだと、魔法陣の起動自体は簡単そうですね。ちょっと待ていてください」
そう言ってシェフィーは魔法陣製作所状態の書斎へ向かった。
1分も経たないうち、シェフィーは1枚の魔法陣を持って帰ってくる。
帰ってくるなり、テラスに出て魔法の杖を振った。
続けてシェフィーは、淡く輝く魔法陣を転移魔法陣に向かって放り投げる。
「えい!」
ひらひらと落ちていく魔法陣。
魔法陣の輝きが転移魔法陣に触れると、一斉に花が咲いたみたいに、辺り一面が黄色い光に包まれた。
「ぴかぴかしてる〜! きれ〜い!」
「……魔法陣、起動した……」
「さすがシェフィーちゃんだわ!」
褒められたシェフィーは照れ隠しに後ろ頭をかく。
さて、転移魔法陣は起動した。
自宅から見える景色は、黄色い光で塗り潰されている。
きっともう、テイトへの転移ははじまっているはず。
だからこそスミカさんは、片手を上げて声を張り上げた。
「みんな、テイトに出発よ!」
はじめての転移魔法で、久々のテイトへ。
私はワクワクを胸に、窓にへばりついたまま、黄色い光の先をじっと眺めていた。
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