第2話 レベル上げ

 朝食を終えれば、さっそく準備開始だ。


 おウチスキルをよく見ると、『海底までツリー』の解放条件がきちんと書かれていた。

 解放条件は以下の通り。


《条件1、海の上を500キロ以上移動する。条件2、海系のマモノを1000体撃破する。条件3、スキル『万能ソナー』獲得。条件4、釣りで100匹の魚を釣り上げる》


 半分は想定通り、残り半分は想定外。


 特に条件4については盲点だった。

 よく考えれば、釣りでレベルを上げるゲームはたくさんある。

 それに気づけないなんて、不覚!


 ともかく、私たちはイショーさん救出のため、4つの条件クリアを急いだ。


 海に浮かんだ自宅で、スミカさんは声を張り上げる。


「それじゃあ行くわよ! さっきユラちゃんが解放してくれたスキル『海上高速移動・レベル4』発動! ええい!」


 直後、自宅がとてつもないスピードで海の上を移動しはじめた。

 もはや海の上を滑ってると言った方が正しいかもしれない。

 あっという間に遠ざかり、通り過ぎる島々を眺めながら、私とシェフィーは呆然とする。


「まだまだ驚くことがいっぱいです」


「だね。しかも揺れとか一切ないから、違和感がすごい」


 時速100キロ以上で海の上を移動する家。

 うん、もう訳が分からない。


 でも本当に訳が分からなくなるのはここからだ。

 自宅が同じ場所を時速100キロ以上で回りはじめると、2階のベランダに立っていたルフナが叫んだ。


「頃合いだな! 不死鳥の剣! 暴れ回れ!」


 そう言って、ルフナは不死鳥の剣を空に掲げる。


 続けて不死鳥の剣が赤く燃え上がり、灼熱の炎が打ち放たれた。

 炎は弧を描くと、海の中に勢いよく飛び込む。


 次の瞬間、海の中で大爆発が起き、巨大な水柱が出現した。


 一連の光景を見ていたミィアはぴょんとジャンプする。


「ルフナと不死鳥の剣の大技だ〜! すごいすご〜い! マモノたちもびっくりだね〜!」


 まさしく、マモノたちはびっくりしたらしい。

 レーダーを見ていたスミカさんは頬に手を当て言った。


「あら、レーダーが真っ赤ね。たくさんのマモノさんたちが近づいてきたわ」


 海を眺めていても、大量のマモノが近づいてきたのが分かる。

 なぜなら、海の中におびただしい数の真っ黒な影と赤い目の光が浮き上がり、それらがこっちに近づいてきているのだから。


「ちょ、ちょっとマモノ呼びすぎじゃ……」


「あわわわわ」


 思わず抱きつく私とシェフィー。


 けれど、そうやってマモノを拒絶してるおかげで、シールドはフル稼働だ。

 大量のマモノは100キロ以上で動くシールドにはねられていく。


 また、そもそも自宅の速度に追いつけないマモノがほとんど。


 ここでスミカさんが立ち上がった。


「次は私の番ね」


 スミカさんはガトリング砲やミサイル、戦車砲などなど物騒な装備を自宅から生えさせた。

 狙いはもちろんマモノたち。

 あれだけの数がいれば、スミカさんのコントロールでも弾は当たる。


「よいしょ!」


 一斉に放たれた数多の弾丸、砲弾、ミサイル。

 それらは海面に落ち、マモノたちを貫いていった。

 海面からは紫の煙が立ち昇り、スキルポイントは面白いくらいに増えていく。


 どうやらマモノ退治は順調らしい。

 スミカさんはソファに座る私とルリに向かって親指を立てた。


「ユラちゃんとルリちゃんの作戦、うまくいったわね!」


 そう、実はこの戦い方、私とルリが考案したものだった。


 ルフナが不死鳥の剣でマモノをおびき寄せ、それをスミカさんが叩くという部分は私のアイデア。

 高速移動したまま同じ場所を回り、マモノ退治と一定距離の航行ふたつの条件を一緒にクリアしていこうという部分はルリのアイデア。


 ルリ曰く「……FPSでよくある、AC130みたいな、ガンシップを参考に、した……」らしい。

 やっぱりルリとは息が合うね。


 戦闘を眺めていたルリは、静かにつぶやく。


「……ジュウの勇者、攻撃が独特……イショーちゃんと、少し違って、面白い……」


 静かだから分かりにくいけど、ルリはスミカさんの戦い方に興味津々らしい。


 にしても、この戦い方は自分で提案したものだけど、まさかこんな感じになるなんて。

 海の上、高速で同じ場所をくるくる回る家から炎攻撃と大量の弾丸が放たれる。

 うん、訳が分からない。


 訳が分からない光景が続くこと約2時間。

 マモノが少なくなったところで、自宅は一度、海の上で停止した。

 ここからは釣りの時間であり、私とルリの出番だ。


「はい、これ。お父さんが趣味で買った釣竿。ほとんど使ってないから新品同然」


「……ユラのお父さん、道具を買って満足、するタイプ……」


「ご名答」


「……わたし、釣り、初心者……」


「私もだよ。でも大丈夫。なけなしのポイント使ってスキル『ぎりぎり法律で許される魚の餌』とかいうの解放したから、釣り初心者の私たちでもすぐに釣れると思う」


 釣竿は2本しかないので、参加者は私とルリだけだ。


 ちなみに、魚嫌いのシェフィーは魔法陣の製作中、ミィアとまおーちゃんはゲームで遊んでいる。


 私とルリは、さっそく釣り糸を海に垂らした。

 同時にスミカさんがスキル『ぎりぎり法律で許される魚の餌』を発動してくれる。


「はい、これでお魚たくさん釣れるわよ」


「とは言っても、そんな簡単には——」


「……釣れた……」


「早い!」


 なんとルリは、もう20センチくらいの魚を釣り上げていた。

 釣りってこんなに簡単なものだったっけ?

 とか思っているうちに、私の釣竿にも当たりが来る。


「うわっと! たしか……こうやって……こうやって……釣れた!」


 ルリが釣った魚よりは小さいけれど、私も魚が釣れちゃった。

 きっと『ぎりぎり法律で許される魚の餌』、本当にぎりぎり法律で許されてるヤバい餌なんだろう。


 その後、私とルリはどんどこ魚を釣り上げる。


 一方、私たちの背後でゲームを楽しむミィアとまおーちゃんは。


「今だよ! 戦法発動〜!」


「えい!」


「おお〜! 見て見てまおーちゃん! 敵部隊、壊滅したよ〜! 長曾我部軍の勝ち〜!」


 戦いに勝って、まおーちゃんは嬉しそうだ。

 ミィアに抱きつかれても笑顔なところを見ると、まおーちゃんはミィアに懐いたらしい。


 ところで、なんで2人で遊ぶゲームに『信長の野心』をチョイスしたんだろう。

 楽しそうだからいいけど。

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