第3話 これこそ宿命!
世界を影から支配しているらしいシャドウマスターの登場に、私とスミカさんは混乱した。
混乱した末、私とスミカさんは黙々とゲームをするミィアを挟み、話し合う。
「私たち、とんでもない子と出会っちゃったみたいよ!?」
「本当に世界を影から支配しているなら、裏ボス的な存在だもんね」
「魔王よりもすごい子だわ! ねえユラちゃん、私はどうすればいいのかしら!?」
「う~ん……」
もう一度、私は女の子2人を眺めた。
「あの子たち、ぱっと見はただのちっちゃくてかわいい女の子なんだよね」
自分より何歳か年下の、小さな女の子2人。
特にシャドウマスターの大げさな口調と笑い方、そしてかわいい声は、私の心をキュンとさせている。
だからこそ余計に、世界を影から支配する云々がよく分からない。
よく分からないけど、今言えることはこれだけ。
「まあ、今はあの子たちの正体よりも、なんであの子たちが私たちに話しかけてきたのかの方が重要かも」
「たしかに、ユラちゃんの言う通りだわ!」
私の意見に納得した様子のスミカさんは、私の隣で女の子2人をじっと見つめた。
そしてスミカさんは優しく笑う。
「あの子たちと話すなら、あんなに寒そうで危ない場所よりも、おウチの中の方がいいわね。2人をおウチの中に招きましょう」
「え!? 世界を影から支配してる魔王よりもすごい裏ボス的な存在、かもしれない子を家に招くの!? というか、あの2人はシールドを破れるの!?」
「フフフ、シールドに関しては心配ないわ」
おかしそうに笑ったスミカさんは窓を開け、女の子2人に向かって手招きした。
「2人とも、こっちにおいで」
相変わらずネコを呼び込むみたいな招き方だね。
これにシャドウマスターはニタリと笑って応える。
「クク、さすがはジュウの勇者である。この私を自らの懐に招き入れるとは、大胆だ。側近よ、行くぞ」
「はいなのです、シャドウマスター様」
胸を張ったシャドウマスターと、彼女についていくボブショートの女の子――側近ちゃん。
堂々とこちらに歩いてくる2人は、簡単に自宅の玄関までやってきた。
どうやら2人にシールドは効かないらしい。
「あ、すごいあっさりシールド突破した。もしかして、世界を影から支配するシャドウマスターにシールドは無力だったり……!?」
「違うと思うわよ」
「じゃあ、なんでシールドを?」
「理由は簡単よ。さっきからユラちゃん、あの2人のことをかわいいと思ってるもの。はじめてシェフィーちゃんと会ったときみたいにね」
「ええ!? か、顔に出てた!?」
「分かりやすく出てたわ」
むう、なんか恥ずかしい。
自宅のシールドは私の心と通じていて、私が拒絶したものを通さない仕組み。
なら私が2人をかわいいと思ってる時点で、2人にシールドが効かないのは当然だよね。
自分の心がシールドでバレちゃうの、シールドの数少ない欠点かも。
ところで、なんでミィアは口を尖らせているんだろう。
まさか見知らぬ女の子2人に嫉妬してるのかな?
ちょっと撫でてみよう。
「えへへ~」
あ、笑った。
もしミィアに尻尾があったら、ゆったりふわふわ尻尾を揺らしてたんだろう。
物静かなミィアのいつもと違うかわいさ、なんか癒される。
なんてミィアに癒されているうち、スミカさんがリビングに女の子2人を連れてきた。
シャドウマスターは私を凝視し、八重歯をのぞかせる。
「ほお、お前が氷の女王か。ウワサと違ってだらしのない格好なのだな」
――いきなり失礼だよ! というか、ぶかぶかのロングコート着てる子に言われたくないよ!
「しかしだ、この私には分かる。氷の女王が持つ真の力は、この『ツギハギノ世界』に今まで存在しない輝きを放っている」
――お? 今度は褒めてくれた?
「側近よ、氷の女王は真の勇者となる素質があると見た」
「さすがはシャドウマスター様なのです。ご慧眼なのです」
――なんか私、真の勇者として認識されちゃった。
私の話を終えたシャドウマスターは、次にリビングを見渡した。
「しかし、なんとも風変わりな家だ。まるで魔王城のようではないか」
「なんと魔王城の知識まで。シャドウマスター様のご見識には驚かされてばかりなのです」
――真の勇者が魔王城に住んでる件について。
ツッコミを入れたい私に構わず、シェドウマスターの視線をミィアに向かう。
「なに!? この者、まさか――人類を率いし指導者ではないか!?」
「なんだとなのです!?」
――たしかにミィアは王女様だけど……。
「クク、世界を影から支配するこの私のもとに人類の指導者が現れるとは。これは『約束されし日』も近いな」
「いよいよシャドウマスター様が世界にバランスをもたらす時が来たのです……!」
なんだろう、この2人。延々と自分たちの厨二ワールドを撒き散らしてるよ。
ちょっと楽しそう。私も混ざってみたい。
混ざってみたかったけど、その前にスミカさんの優しさが爆発した。
スミカさんはシャドウマスターと側近ちゃんの頭を撫ではじめる。
「あらあら! なんてかわいい2人なのかしら! 何を言ってるのかは分からないけど、ともかくかわいいわ!」
見境なしかな。
まあ、私もスミカさんに同意だけどね。
厨二ワールドな大げさな口調と、ちっちゃくてかわいい見た目のギャップが大変良い。
で、なんで2人は私たちに話しかけたんだろう。
シャドウマスターに大事な質問をしようと、私は一歩前に出た。
けれど、人見知りを発動して二歩下がった。
代わりにスミカさんが2人を撫でたまま質問してくれる。
「ねえシャドウマスターちゃんに側近ちゃん、2人はどうして私たちを呼んだのかしら?」
「決まっている。それが宿命だからだ」
質問の答えが厨二ワールドなせいでよく分からないよ。
シキネとは違った意味で会話が難しいよ、このシャドウマスター。
ただ、シキネにクロワがいたように、シャドウマスターには側近ちゃんがいる。
側近ちゃんは淡々と解説をはじめた。
「実はシャドウマスター様は、魔の道に通ずる者から預かりし荷物を配達する任務の遂行中だったのです。ところが、先ほど悪しき混沌の使者ヒロウによって――」
言い淀む側近ちゃんの言葉を引き継ぎ、シャドウマスターが続ける。
「悪しきヒロウは厄介な存在だ。この私ですら、足がクタクタになって歩けなくなってしまうのだから」
それってただの疲労なんじゃ……。
いや、たぶんツッコミを入れたら負けな気がするよ。
シャドウマスターが話し終われば、息を合わせたように側近ちゃんが言った。
「そうしてヒロウの妨害にあった直後、ジュウの勇者が通りかかったのです。これは、世界を影から支配する者の宿命を果たすため、シャドウマスター様がこのようなところで倒れてはならないということなのです」
それってただの幸運なんじゃ……。
いやいや、我慢我慢、ツッコミは入れないぞ。
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