第4話 こんなところに国宝

 勇者パワー全開のシキネは、マモノたちを殴り飛ばし蹴り飛ばす。

 マモノたちはポップコーンが弾けるみたいに飛び散り、霧状になって消えていった。


 いつの間にかシキネの背後にひょっこりと現れたクロワは、私たちに気づいたらしい。


「あそこを見るんじゃい。なんだかバイブスの上がる曲を流しながらスミカさんたちが戦っているんじゃい」


「お? おお!? マジだ!」


 振り返ったシキネは、満面の笑みをこちらに向けている。

 そして1匹のゴブリンを200メートルくらい殴り飛ばし、ピッとこちらに人さし指を向けた。


「おい! アタシと勝負しろ!」


 そのあまりの大声に、リーパーズたちは悶え苦しむ。


 私も『勝負』という言葉に拒否反応が出る。

 拒否反応からシキネを無視した結果、シキネは話を続けた。


「勝負の内容はアタシが決める! 今回はマモノを多く倒した方が勝ちだ!」


「なんか勝手に勝負がはじまっちゃったよ……」


 どうしても勝負からは逃げられないみたい。

 まあ、マモノを倒した数勝負ならスミカさんとシキネの勝負になるし、別にいいか。

 マモノも倒せるしね。


 2人の勇者の戦いは、勝負がはじまってから激しさを増した。


「えい! やあ!」


 掛け声はのんきだけど、スミカさんが撃ち続けるガトリング砲は容赦ない。

 めちゃくちゃな照準で地面を耕すガトリング砲の攻撃に巻き込まれたみたいな状態のマモノたちは、反撃もできずに消えていった。


「うりゃうりゃ! うおりゃああ!」


 猛獣の鳴き声にしか聞こえない掛け声を出すシキネはがむしゃらだ。

 群がるマモノたちを拳で殴り、脚で蹴り上げ、頭突きで地面に埋め――ともかくワイルドな絵面の繰り返し。


「ショクの勇者とジュウの勇者ばかりを働かせるわけにもいかんな!」


「羊の騎士団! 突撃!」


 私たちもいるぞと言わんばかりに、騎士団は混乱するマモノの軍勢に突撃した。


 みんなの総攻撃をマモノは止められず、あっちでもこっちでもマモノたちは倒されていく。

 そこかしこからは、マモノが消えたときに放つ霧が立ちのぼっていた。


 じっと外を眺めていた私とシェフィー、ミードンは胸をなでおろす。


「だいぶマモノが減ってきたね」


「騎士団の皆さんの活躍もすごいです! 勝利は目前ですよ!」


「ふ~ん!」


 このままなら、この戦いは私たちの圧勝で終わるだろう。


 なんて思っていると、1台の馬車がフラフラと不自然に戦場にやってきた。

 しかも馬車は戦場で足を止め、商人っぽい格好をした妙に背の高い女性が外に出る。


「ちょっとちょっと! あの人何してるの!? こんなところで馬車を降りたら、マモノに襲われるよ!?」


「大変です! リーパーズが一般人を攻撃しようとしています!」


「騎士団はマモノ退治で精一杯、シキネは――こっちに気づく気配もないね……」


 わけの分からない女性の、わけの分からない行動に、私たちは困惑中。

 すぐに動いたのはスミカさんだった。


「させないわ!」 


 リーパーズが近づく前に女性を守ろうと、自宅はマモノたちを押しのける。

 ただ私は、女性を襲おうとするリーパーズを見て、スミカさんを止めた。


「待って! なんかあのリーパーズ、宝箱みたいなの掲げてる」


「あ! 本当です!」


 女性に向けて攻撃魔法を放とうとするリーパーズは、これ見よがしに宝箱を掲げていた。

 連続する謎の事態に、私たちはさらに困惑の渦へ。


 直後、トランプとモッチュのぬいぐるみを持ったミィアがリビングに飛び込んできた。


「あったあった! 国宝が入ってる宝箱、あったよー!」


「おいミィア、アイリス様との約束はどうした!? そんな重要な情報、ユラたちに教えたらダメだろう!?」


「えへへ~、ついつい」


 後ろ頭をかくミィアと、ため息をつきながら微笑むルフナ。

 私たちはミィアの言葉に目を丸くした。


「国宝が入ってる宝箱って、あのリーパーズが持ってる宝箱!?」


「こんな場所に国宝があったんですね!」


「試練のために、あの宝箱を取り戻さないと!」


 まさかの国宝発見によって、私たちのマモノとの戦いは、アイリスの試練を乗り越える戦いへと変貌した。


 ただし、大きな問題がある。

 スミカさんは困ったようにつぶやいた。


「とは言っても、宝箱を持ったリーパーズを倒さないと、あの一般人さんが危険ね」


 そう、国宝を持ったリーパーズは女性を襲おうとしている。

 国宝を優先すれば女性が危険に、女性を優先すれば国宝が危険に晒される。

 今の私たちは、究極の選択を迫られているようだ。


 意を決したようなスミカさんは、私に質問する。


「ユラちゃんなら、どうするかしら?」


 答えならすぐに思い浮かんだ。

 だから即答した。


「国宝ごとリーパーズを吹き飛ばす」


「フフフ、ユラちゃんならそう言うと思ったわ。私も同意見よ」


 それからガトリング砲が火を噴くまで、ほとんど時間はかからなかった。

 撃ち出された大量の弾丸は、宝箱ごとリーパーズたちを撃ち抜く。


「おお~! 命中だ~!」


「スミカさんが攻撃をキレイに当てるなんてびっくり」


「ええ、私も驚いちゃったわ。さ、これで一般人さんも助かったし、残りのマモノたちも退治しちゃいましょ」


 何事もなかったのように、自宅は元の戦場へ戻る。


 数分もすれば、戦場にいるマモノはどこかへと逃げ出した。

 マモノのいなくなった戦場で、シキネは両手を空に突き上げる。


「うおおおお!! アタシの勝利だぁぁ!!」


「シキネの勝利の雄叫びは、相変わらず凄まじいんじゃい」


 勝利を喜ぶのはシキネとクロワの2人だけじゃない。

 音楽を停止し静かになった自宅で、耳栓を外したシェフィーたちも素直に喜ぶ。


「マモノはほとんど退治しましたね。リーパーズの姿もありません」


「どうやら『テントだらけの国』の被害もなさそうだぞ」


「当然だよ~! だって、2人の勇者とユラユラ、それにシェフィーと騎士団のみんなが頑張ったんだよ! マモノなんて相手じゃないよ!」


 ミィアの褒め言葉にスミカさんは照れ笑い。

 ただ、シェフィーとミードンには気にかかることがあるらしい。


「それにしても……国宝は粉々ですね……試練はどうなるんでしょうか?」


「ふーん……」


 肩を落とすシェフィーとミードンに対し、スミカさんは微笑みながら言った。


「この世界の人たちが幸せに暮らせるのなら、私は試練なんてどうでもいいわ。勇者として認められなくたって気にしないわよ」


 これは間違いなくスミカさんの本心だ。

 そして、実は私の本心でもあったりする。


 一方のミィアは、私をツンツンしながら無邪気に首をかしげた。


「ねえねえ、アイリーにどうやって報告するの~?」


「そ、それは……」


「考えてなかった、って顔だな」


 図星をつくのはやめてよ。


 別に自分の選択が間違っていたとは思わないけど、『大きな帝国』の国宝を吹き飛ばしちゃったのは事実だ。

 国宝を吹き飛ばしちゃいました、なんて報告、怒られないわけがない。


 なんとかしてアイリスに怒られない方法はないのかな?


 そう思っていると、ミードンが私の足元でコロコロと転げ回るのが目に入った。


「ふ~ん、ふ~ん」


「これだ!」


 もしかしたら、怒られない方法を見つけたかもしれない。

 私は急いでパソコンの電源をつけた。

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