届くことのない
ポストに手紙を入れる。カコッと音がした。
君がいなくなってもう1日が経った。君がこの世界からいなくなったことを知ってもなお涙は出なかった。それくらいひどく動転していた。
君は素敵な人だった。一言で表すことは難しく、言うなれば学校ではちゃんと明るく振る舞って家に帰っては学校の彼女とは裏腹に自分の弱さで悩むようなそういう人だった。みんなに見せるのは明るい君の方で誰も弱さを分かろうとしなかった。いや、しなかったのか彼女が拒んだのか今になっては分からないが。俺は弱い彼女を知っていた。
君が死んだことに対してみんなは驚いた。なんであんな明るかった子が、と。もしかしたら殺人ではないのかという説が出回るくらい君と死ぬことが線で繋がらなかったようだ。
君は死ぬことが幸せと言っていた。そう言われる度に俺は否定していた。生きてた方が幸せだよ、一緒に頑張ろうって。でもできなかった。自己嫌悪が強くなってくるのを感じた。自分へのイラつきが収まらない。
キーンコーンとお昼を告げるチャイムが鳴る。それと同時に男子がこっちに向かってくる。蓮という男子で俺が毎日お昼を食べている相手だ。
「大丈夫か?あいつな……残念だったな……。」
残念だったな……??あいつ……??お前が呼ぶな。ただちょっとモテてるだけで馴れ馴れしくあの子と話しやがって。まるで一軒家で火事が起きたようなくらい勢いよく殺意が心の中で広がっていった。そしてその勢いは止まることを知らなかった。
俺はそこから走った。このままここにいるとこの部屋で怒鳴ってしまいそうで、窓の外に投げ飛ばしてしまいそうで。音なんか気にするか。教室から思いっきりドアを開け走った。ただただ走った。いつの間にか誰も来ない隔離されている裏校舎まで走ってきたようだった。10分ほど走っていたようで昼休みが30分となっていた。
エスペランサ室と書かれた部屋の椅子に座る。息は上がっていて肩で呼吸をしていた。
座ってからは涙が止まらなかった。救えなかった愚かさと、失ったことに対する悲しみや虚無感。君は幸せになれたの?俺は幸せになれなくなっちゃったよ。辛いこと沢山頑張ったじゃないか、昨日あんなに楽しそうだったのにどうして……。廊下からカツカツカツと誰かが歩く音がする。俺は嫌だった。その音すら嫌だった。うるさい!!ここは俺の空間だ!!誰にも侵されない俺とあの子の空間だ!!と叫んでいた。涙ぐんでいて声は震えていた。もう俺は俺すらなにがしたいか分からなかった。廊下を見て誰もいなかったという事実を知り、その事実のせいで一度止まった涙は堰を切ったように溢れてきた。
思いっきり叫んでもなにをしても涙は止まらなかった。こんなん違うよね。こんなん望んでた結末じゃない。一緒にハッピーエンドで終わるべきだよね。
俺は君がいなきゃって今までは思ってた。でもそうじゃなかった。君が幸せじゃなきゃ意味がないんだって。
君がいなくなって3年が経った。君がこの世界からいなくなったことを知ってから俺は君からますます離れられなくなった。それくらいひどく君に心酔していた。
君への手紙 白野 音 @Hiai237
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