戦争国家
「増やせ、増やせ。物資を途絶えさせるな」
エフ国の工場で軍服の男が声を張り上げる。エフ国は敵対するアイ国と戦争に突入しようとしていた。
「あの憎らしいアイ国の兵士どもに風穴を開けてやるのだ」
この工場ではアイ国に向けて発射される兵器を作っていた。エフ国とアイ国との確執は大昔からあり、その為、製造される兵器はどれも高威力のものばかりであった。
機関銃。より速く連射できるように。
戦車。より頑丈に。
ミサイル。一人でも多くの命を奪えるように。
日夜、最新を更新していく兵器を次から次へと量産していく工場。原料となる鉱物等を国中から掘り返して運ぶトラック。新たな資源を調達するためにさらに深く掘り進められる穴。
人々の努力の結晶の兵器たちは、その真新しい体で光を反射させながらじっとその時を待っていた。
戦争は兵器だけでするものではない。食料、軍服、金。さらには兵士の交通費さへ国が負担するものだ。
さらには防衛。やれアイ国がまた新しいミサイルを開発したらしい、という情報が流れてくるたびに本部の壁は厚くなり、本部を囲う兵器の数は増えていった。その厚くなった壁を貫くために、アイ国はさらにミサイルの開発を進めるのだ。
エフ国とアイ国とで全く同じことが行われていた。より多くの敵兵を殺すためにより強い兵器を作る。敵がより強い兵器を作るたびに防衛のための兵器は増えていった。
地獄の苦しみともいえる。このサイクルが一回りするたびに国の何かしらの資源は不足し、国土には無数の穴が空くのだ。しかし、妥協はできない。このイタチごっこに手を抜けばすぐさまミサイルが撃ち込まれそのまま国が亡びるのだから。戦争が始まるのが先か、国が亡びるのが先か、もしくはその両方か。分かってはいても工場を止めることなどできるはずがなかった。
時間がたつにつれサイクルは加速し、また両国の緊張も高まっていった。
さらに数回のサイクルが回ったのちに両国の代表が我慢の限界とばかりにミサイルの発射ボタンに手をかける。
そのボタンが今、深く押されようと…………。
轟音。
アイ国とエフ国は地盤を深く掘りすぎたために起こった急激な地盤沈下のために海の底へ沈んでしまった。
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