第29話 夜
パーティは無事に終わった。町の大人たちはみんな酒を飲みまくりそして酔っぱらって暴れまくって疲れ果てたようで寝ている。そんな中俺は、パーティが終わる直前にメイとも会話をした。メイの体調は回復しつつあり、もう死んでしまうようなことにはならないと言えるまでになっていた。
メイはそれでもまた完全に回復したとは言い切れない。それなので、しばらくはレイという親友がいなくなってしまうが両親のいるこの町で過ごすとなんだか寂しそうな口調で言っていた。俺には、レイに会えないことが寂しいのだろうと思って
「レイのことなら大丈夫だ。また、この町に来る機会があったらくる」
と言っておいた。その言葉を聞いてなんだかため息をついたのは気のせいだろうか。いや、気のせいだろう。レイと会えることを伝えたのだからうれしいに決まっている。
その後、俺はピーチェ、レイと共にパーティ会場を出て本日はどこに泊まるかを話し合うことになった。なんだかんだ言って、どこに泊まるかなんて考えていなかったので町長にはお願いをしておけばよかった。
結局のところ俺達が泊まる場所として向かった先はレイの家であった。レイの父さんが亡くなるまではホテルであったのでそれはそれで最初から行けばよかったと思っていたが、やっぱり本音を言うとレイに悪いと思っていたのでやめようと思っていた。
ここに来ればまた嫌なことを思い出させてしまう。自分の父の死。これ以上に悲しく、心が苦しいものはない。実際に俺は親父が失踪しただけで相当心がまいった。今もその傷から立ち直ることができずにいる。ただ、無理しているだけというのが本当の姿だ。でも、俺の場合は親父がまだ生きていて見つけることができるチャンスがある。しかし、レイは違う。それは俺が一番気にしていることなんだ。
「ギンさん。私のことは気にしないでください。父さんのことは悲しいですが私はもう弱い私とは決別すると決めたんです」
レイが俺がだいぶ気にしていることを察してかどうかわからないが俺に訴えてくる。レイの瞳には覚悟が現れているように感じた。強い瞳だ。
これなら、俺は何も気にしなくていいと思った。おせっかいはやめよう。
「ギンさん。早く行きましょう」
後ろからピーチェが急かしてくる。俺の背中を強引な形で押した。そのとき、急に気まずくなった。
む、胸が当たっている。ピーチェの胸が背中越しに当たっている。ピーチェはそのことに気付いていないようだ。意外と、胸があるんだな………じゃなくて、そんなことを考えるな。無心だ、無心。いや、とりあえず、ピーチェから離れよう。
「ピ、ピーチェ押さなくても行くからっ」
声が上がってしまった。これはまずいと思った。このままだと俺が変態扱いされてしまう。しかし、それは杞憂あり「おかしなギンさん」と言われるだけですんだ。よかった。
そのまま何も言われることなく面白みのない世間話というか会話をしてホテルにたどり着いた。
俺達は各自別々の部屋で休むということを決めた。のだが、何やらピーチェとレイの2人は何やら話ごとをしていた。ここからでは声が小さくて聞こえない。何を話しているんだろう。
何を話しているかわからないままであったがとりあえず各自バラバラになった。
「今日は疲れたな。もう、寝ようかな」
部屋自体は昨日までレイの父さんがきれいにしてくれていたおかげで汚れてはいなかった。
今日は、昨日みたいにピーチェと2人で同じ部屋に泊まるみたいなことがなくてよかった。これでも俺は男だ。女子と一緒に同じ部屋に泊まるなんて難易度が高すぎる。
さあ、寝よ、寝よ。俺は毛布をかぶってさっさと寝ることにした。本当、疲れた。俺の意識は安らかな眠りで落ちそうになった………はずだった。落ちる寸前に部屋の扉が開く音がした。
「ギンさん。まだ、起きていますか」
ピ、ピーチェ!? どどどどういうことだ。なななな、なんできたんだ。俺は、動揺していないように見せようと頑張っていたが人間そんな簡単にできることではない。どんどん俺とピーチェとの距離は狭まってくる。ついに、ピーチェが俺の寝ている布団の目の前にたどり着いた。
「ギンさん」
俺の名前を呼んでくる。俺は、寝たふりをしておく。これさえしておけばピーチェも諦めてくれるだろう。俺はそう高をくくっていた。しかし、この後のピーチェの行動はさすがの俺も予想はしていなかった。
布団に入ってきた。もう一度言うがピーチェがなぜか布団の中に入ってきた。
「ななな、何をしているんだ」
さすがに俺は寝たふりをしている余裕が無くなった。慌ててピーチェを止めようと起き上がる。そこで俺は初めてピーチェの姿に気が付いた。
服装が、服装がエロい。薄着であったからだ。
「ピ、ピーチェど、どうしたんだよ。そ、そそそその服装」
ものすごく動揺してしまった。いや、動揺しないではいられなかった。
「あ、あのですね。ギ、ギンさんと、話がしたくてそ、その、ですね」
ピーチェもなぜだか慌てている。顔は真っ赤だ。そんなに恥ずかしいならやめればいいのにと思ったが言わないでおく。
「と、とりあえずそんなかっこうしていたら寒いだろう? 早くもっと厚着でもしてきなよ。そうしたら話でもしよう」
俺ながらいいアイデア。これならピーチェも諦めてくれるだろう。しかし、俺の予想はまたしても裏切られた。
「い、嫌です」
「はい?」
断られてしまった。何でだ。なんでなんだよー。誰か答えてくれよ。俺にはもう何が何だか分からなくなってきた。
「私は負けるわけにはいかないんです」
ピーチェが小言で何か言った。
「何か言ったか?」
俺が尋ねる。
「いえ、何でもないです」
しかし、ピーチェは答えてはくれなかった。なら、いいかと思った。
「で、話ってなんだ」
話す。とりあえずこの状況を意識しないように何でもいいから話をしなければと思いピーチェの話を聞こうと話を切り出す。
「実はギンさんに話しておかなければいけないことがあるんです」
「何だ」
ピーチェが急に態度を改まって話してくるので俺も恐縮した。
「実は、私はギ、ギンさんのことがす───」
バタン
ピーチェの話の途中でまた部屋の扉が開く音がした。今度はデカい音だった。扉から出てきたのはもちろん………
「ピーチェさん。ずるいですよっ! 抜け駆け禁止ってあれほど約束したのに」
レイであった。しかも、これまた薄着だ。なんなのもう。
「抜け駆けしようとしたのはレイもじゃないっ! 何その恰好」
「ピーチェさんだって」
むうぅ。
2人して激しい戦いが始まった。戦いと言っても口論だ。2人して言い争っている。俺は、1人外野となっていた。
女って怖いな。
「約束破るなんてどういうことですかっ」
「あなただって来ているじゃない」
「先に来た方が悪いのよ」
「結局来たのだからあなただって悪いのよ」
レイとピーチェがまだ言い争っている。そろそろこの言い争いを止めないといけないか。俺は、口を挟もうとした。
ピーチェ、レイそろそろおとなしくなってくれないか」
「「誰のせいで争っていると思うの!」」
2人の息はぴったりだった。
「誰のせいって言われても誰のせいなんだ」
誰と言われても分からない。正直に答えた。ピーチェとレイの2人はため息をついたがそれはまたしても息がぴったり合っていた。
「まあ、これがギンさんですね」
「そうですね。すいませんでしたピーチェさん」
「こちらこそすいませんでしたレイ」
2人は仲直りをして自分の部屋に帰って行った。1人残された俺はただベッドの上に立っていた。
「どういうこと?」
俺には事情が全く理解できていなかった。結局どういうことだったんだ。
その後、朝まで何も起こらなかった。
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