第45話

「恋愛社会は椅子取りゲーム。

 私の席を奪わないでー」


アイドルグループが歌っている。


龍一は、心の中で思った。

自分の席は彼女の中にあるのだろうか?


ピアノの鍵盤を軽く叩く。

でも、その音は虚しく切なかった。


「龍ちゃんいいの?」


歩が龍一に尋ねる。


「なにが?」


「草薙さんのことだよ。

 好きなんだよね?」


歩の言葉に龍一は小さく笑う。


「いいよ」


「どうして?」


「あの人のなかに僕はいないから……」


「どうしてそう思うの?」


「なんとなく」


「どうして追いかけなかったの?」


「追いかけれなかったんだよ。

 痛くて」


「そっか」


淡々と言葉が続く会話。


「私。

 チョコ、あげないほうがよかった?」


「そんなことないよ。

 歩のチョコ、美味しいし優しい」


「優しい?」


「うん」


「そんなの初めて言われた」


「そう?優しいよ」


「ふーん」


歩は顔を赤らめる。


「顔赤いよ?大丈夫?」


「大丈夫だよ」


「龍ちゃんさ」


「うん」


「ダメだよ?」


「なにが?」


「優しいだけじゃお腹が膨れないもん」


「そう……だね」


「チョコレート優しいって言ってくれて嬉しいけど。

 優しいチョコレートじゃお腹膨れないんだよ」


「え?そうなの?」


「うん。チョコレートはカロリーとかいっぱいあるんだよ」


「えー。そっち?」


「うん。

 それがあるから美味しいの。

 ホワイトディ過ぎたけどさ。

 今からでも遅くないよ?」


「そっかなー?もう17日だよ?

 日曜日だよ?」


「蘭さん、今日試合だから勇気あげなよ?」


「勇気?」


龍一が首を傾げて歩の目をじっと見る。


「うん、つまりキス!」


歩が顔を赤らめていう。


「それはダメだよ」


「どうして?」


「それは好きな人にするものでしょ?」


「じゃ、私は龍ちゃんにキスしていいの?」


「どうしてそうなるの?」


「私、龍ちゃんのこと好きだよ?」


「絶対ウソだ」


「証明しようか?」


歩がそういって龍一に一歩近づく。


龍一が一歩下がる。


「証明?」


「キスしてもいい?」


歩は勇気を出してそういった。


「ダメだよ。心の準備が」


「そうだよね」


歩の顔が悲しみに染まった。

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