第32話
女の子は、ニッコリ笑うと私に軽く会釈をした。
私も、その女の子に軽く会釈をした。
「……」
女の子は、何も話さず私にスコップを貸してくれた。
「……」
何かを言いたそうだったけど、何も言わなかった。
私たちは無言で砂山を作った。
そんな私達の元に、博くんが現れた。
「俺も一緒に遊んでもいい?」
その女の子は、コクリと頷いた。
「コイツの名前は瞳。
病気で『にょ』しか話せないんだ。」
博くんは、そう言うと私の頭をくしゃりと撫でた。
女の子は、にっこりと微笑んだ。
「でな、瞳。
こいつの名前は、港。瞳より一つ上だよ。
ちょっと色々あって、声を出す事が出来ないんだ。」
港ちゃんは、コクリと頷き私の前に手をそっと出した。
私は、その手を握る。
この人は、私と同じなんだ。
私と同じで言葉が話せないんだ。
少し安心した。
女の子は、私の袖をひっぱり、遊ぼうって目で訴えた。
私は、コクリと頷き、砂場の砂にスコップを入れた。
カシャリ。
砂場の砂は少し硬かった。
――次の日
話さなきゃ。
私また一人ぼっちになってしまう。
挨拶しなきゃ。
私は、一人で砂場で遊ぶ私と同じ歳位の女の子に声を掛けることにした。
挨拶は、簡単、手を上にあげてこう言うだけ。
「にょ!」
女の子は、何にも反応しない。
ただ無心で、砂場で砂山を作っている。
私は、もう一度声を掛けた。
「にょ!」
すると、女の子は私の目を見ながら首をかしげた。
すると女の子が、地面に指で、文字を書いた。
【わたしこえがでないの】
私は、コクリと頷くと同じように文字を書いた。
わたしは、にょしかいえない。
ひらがなはある程度読み書きは出来る。
ママに将来使えないと困るからと、叩き込まれたからだ。
勉強は苦手だったけど、初めて意思疎通が出来た事に私は喜んだ。
音のない会話。
声をあげれば皆避けて行く…
でも、文字だけだったら会話が出来る。
【よろしくね】
私がそう書くと港ちゃんは、にっこりと笑う。
そして、震えながら文字を書いた。
【ともだちになってくれる?】
私は、コクリと頷き、港ちゃんの手を握った。
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