第7話

 さらに彼女の言葉は続いた。


「貴方は、よく私の話を聞いてくれるし、話をしていると楽しい。

 だから、きっと――」


 彼女がそこまで言いかけたとき、僕は言葉を遮った。


「そんなことない!」


 すると彼女の少し照れた表情は、だんだん暗くなりそして静かになった。

 僕も内心思っていた。

 彼女とは気が合うって思っていた。

 楽しいって思っていた。

 きっと僕は、彼女のことが……


 好きだったんだと思う。


 そして、すぐに席替えがあり僕と彼女は離れた席になった。

 それ以降、僕は彼女とは、話してはいない。

 謝りたい気持ちでいっぱいだった。

 罪悪感でいっぱいだった。

 でも、そのまま僕たちは小学校を卒業し……

 別々の中学校へと進学した。

 その後、同窓会の誘いなどはあったけれど、嫌な思い出のほうが多いので行かなかった。

 だけど、僕の心のなかには彼女への罪悪感でいっぱいだった。


 いつか、謝りたいと思っていた。


 でも、きっと彼女は覚えていないと思い自分を誤魔化して生きていた。


 だけど、現実はほんの少し残酷だった。

 

 彼女は、中学1年生の夏休みの家族旅行。

 そこで、事故に遭い亡くなってしまっていたのだ。

 彼女だけではなく、彼女の家族も亡くなっていた。

 親戚付き合いもなかった彼女の一家は、無縁仏として埋葬されたのだ。


 僕が、そのことを知ったのは二十歳のころだった。

 せめてお墓に手を合わせに行こう……

 そう思ったけれど彼女たちの個別のお墓はない。

 集合墓が、あると思う。

 だけど、それを調べるすべは無かった。

 彼女が、住んでいた場所は都市開発が進み僕たちが小学生の頃とはかなり変わり元近所だった人も、探しようがなかった。

 近所の人も知っているかどうかはわからない。

 ただ、僕が彼女にした仕打ちは残酷で許されるものではないだろう。


 ただ、ただ、ただ、思う……


 許されるのなら、産まれ変わったらまた同じ小学校に通い、そしてまた雑談がしたい。

 もう、きつい言葉を浴びせたりしないから……

 あの時の僕は、友だちを失うのが怖かった。

 だけど、君を失って思う。

 友だちよりも君を失いたくなかった。


 君といたあの僅かな時間がなによりも楽しかったのだから……


 僕は、君とよく話した雲の話を思い出しながら空を見上げる。


  

「ねぇ、なんで雲って動くんだろうね」


「それはね、地球が回っているからだよ」


 彼女の質問に僕は毎回そう答えていた。


 懐かしい思い出。


 その思い出はもう、返ってこない…… 

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