第136話取捨選択

 アレクサンダー王子は、父王と王太子を見捨てた。

 完全に見捨てた訳ではないが、母親の方を優先した。

 母親が気絶睡眠から回復するまで、父王達の捜索を打ち切った。

 母親が目覚めるまで三十六時間、アンデットの気配がする場所に、適度な魔力を込めたターンアンデットを遠距離放つだけで、後宮からは一歩も離れなかった。

 魔族や犯罪者の気配がした場合も、適度な攻撃魔法を遠距離から放った。

 それで十分王都内の平和を護っていた。

 当然だが、パトリック達三人は王都内を巡回していた。

 相互に身体強化魔法をかけあっていたので、大抵の敵には勝てる状態だった。

 例え相手が魔族であろうとも、互角以上に戦える状態だった。

 更にアレクサンダー王子が意識を飛ばして、即座に支援魔法を放てるようにしていた。

「殿下。本当に二ノ丸や三ノ丸に入らなくてよいのですか」

「構わない。我らの力にも限界がある」

 アレクサンダー王子達は、最短距離で後宮に来たので、途中にある二ノ丸三ノ丸四ノ丸は突っ切っただけだった。

 そこにはアレクサンダー王子の兄弟達が、近習達と共に住んでいた。

 後宮に置けない年齢になった王子は、三ノ丸や四ノ丸に屋敷を賜っていた。

 余りに数が多いので、屋敷を分割して使うようにさえなっていた。

 まあそれでも、王都内に敵の侵入を許すような苦しい籠城時には、十万を超える大量の家臣を王城内に居住させる必要があるので、百人を超える王子や王女を近習と一緒に優雅に住まわせることが出来ていた。

 もちろん幼い弟妹は後宮にいたし、望む王女は成人を迎えても後宮に残っていた。

 だが、成人を迎えた兄弟は全て後宮を出ていた。

 当然だが、アンデットの襲撃を受けている。

 普通の正義の味方なら、問答無用で助けるのだろう。

 しかしながら、父王や王太子を母親より下に見たアレクサンダー王子には、王位を争う競争相手でもあった。

 特に年上に兄達が生き残っていた場合、一連の国難に何の功績もないのに、単に年長と言うだけで、王位を望む可能性があった。

 地方にいて、戦力と経済力を保持している有力貴族が、そんな兄達を担いでしまう可能性があった。

 有力貴族達にとったら、有能で力のあるアレクサンダー王子より、無能で何の力もない兄王子達の方が傀儡として使い易いのだ。

 そんな事になったら、魔族達を撃退しても、王国の再建が出来なくなってしまう。

 それどころか、今以上に国が荒れてしまうかもしれない。

 そう考えたアレクサンダー王子は、兄弟を見殺しにする決断を下していたのだ。

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