第108話惨殺

「ギャァギュゥァァァァ」

「放て」

 近衛騎士隊長が、人間が発するとは思えない叫び声をあげた途端、デイヴィット筆頭魔導師が近衛騎士達に攻撃を命じた。

 近衛騎士達も、その恐ろしい叫び声に、躊躇する事なく魔道具を使った。

 だが、近衛騎士隊長に強力な魔防具を与えていたことが災いした。

 魔族自体の防御力も強いのだが、魔族の届く前に、魔防具に弾かれてしまうのだ。

 そして手にしている剣も、近衛騎士達の鎧を易々と貫ける。

 憑依された近衛騎士隊長は、全ての魔法攻撃を受けてもビクともせず、元配下を斬り殺そうと一気に駆け寄ってきた。

 ギャッヒーン

 デイヴィット筆頭魔導師と、後衛の近衛騎士が魔道具で張った防御魔法が、近衛騎士隊長の剣を防いだ。

 近衛騎士達は、全く反応出来なかった。

 もし魔法防御がなかったら、何の抵抗も出来ずに斬り殺されていただろう。

 それくらい剣の腕が段違いだった。

 本来の実力差も大きかったが、魔族に憑依された事で、本来は身体を壊さないように制限されている力が解放されているのだ。

 近衛騎士隊長が自分の身体を使っていた頃よりも、速度も力も三倍の能力を発揮していた。

「黒龍火炎」

「大吹雪」

 魔族は、魔法防御を討ち破ろうと、高熱の魔法を放ってきた。

 デイヴィット筆頭魔導師は、それに対抗しようと氷結系の最大魔法を放つが、魔力の総量が段違いで、討ち破るどころか弱体化も殆ど出来なかった。

「うぎゃぁぁぁ」

「たすけてくれぇぇぇ」

「魔法防御を重ね掛けしろ」

 デイヴィット筆頭魔導師は、魔法耐性の強い素材で作った装備を身に付けていた。

 長くドラゴンダンジョンで冒険を続けた御陰で、この国の純粋な魔法使いの中では、最高の装備を身に付けている。

 だが、近衛騎士達は違う。

 最前線の魔法防御を破られ、事前に直接身体や鎧に重ね掛けした魔法防御も、魔族の「黒龍火炎」を完全に防ぐことが出来なかった。

 身体の表面を生きながら焼かれ、皮膚が爛れて自分の肉が焼ける臭いが感じられるほどだった。

 デイヴィット筆頭魔導師も、何度も魔法防御を重ね掛けしたが、前衛の三人が生きたまま炎上してしまった。

 中衛の三人も、既に戦闘力を失っている。

 後衛の三人が、かろうじて生きているだけだ。

「御前は陛下にこのことを伝え、至急王都から脱出して頂け」

「‥‥‥」

「早く行け」

「はい」

 震える女近衛騎士を叱咤激励し、国王陛下への伝令を任せた。

 デイヴィット筆頭魔導師は、出来るだけ時間稼ぎをする心算だった。

 魔族の実力を読み違えた責任を取る心算だった。

 心臓が耐えきれないくらいの魔力を絞り出し、近衛騎士隊長の身体だけでも破壊しなければ、この国も魔族の支配下に置かれてしまう。

「我が最大最高の奥義を受けてみよ」

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