第94話指導

「やあ、久しぶりだね」

「御無沙汰しております。先日は大変御世話なりました。本日も格別の御厚情を賜り、恐悦至極でございます」

「うむ。殊勝であるな。こんなやり取りをしていたら、まどろっこしいよ。ざっくばらんにいかないか」

「そう言っていただけると助かります」

「それで狩りの件なのだが、バルタサールほどの古強者でも苦労しているのか?」

「情けない話なんですが、魔境に入った途端、無数の魔獣と魔蟲の群れに襲われ、とても狩りできるような状態ではないのです」

「ではどうやって狩りをしているのだ」

「魔境の外から矢を射掛けてしとめているのですが、せっかく斃した獲物も、直ぐに他の魔獣や魔蟲に喰い散らかされて、商品価値がなくなってしまいます」

「そこまで酷いのか」

「はい。普通魔境が活性化してくれれば、獲物が増えて猟師や冒険者の利益になるのですが、ここまで活性化してしまうと、普通の猟師や冒険者には手に負えません」

「確かに魔境の外から斃した獲物が、外の運び出す前に横取りされると言うのは問題だな」

「はい」

「魔境が縮小する時期に合わせて倒し、素材だけでも手に入れることは出来ないか?」

「なるほど、その手がございますね」

「喰い散らかされた後だから、商品価値は低いだろうが、全く何も手に入らないよりはいいだろう」

「はい、それはもちろんです」

「それと矢や投げ槍にかえしと紐を付けて、斃したらすぐに引っ張り出してはどうだ」

「そうですね。それなら上手くいくかもしれません」

「それと縮小前の魔境際で狩りをして、倒した獲物に群がる魔獣や魔獣が同士討ちしてくれれば、思わぬ大物を手に入れることが出来るかもしれない」

「ですがそれは、余程慎重にやらないと、魔境から彷徨い出た魔獣や魔蟲に襲われるかもしれません」

「確かにその危険はあるな」

「ですが若殿様の申されるように、このまま座している訳にもまいりませんから、試してみます」

「うむ、そうしてみるがよい」

「はい」

 余とバルタサールが話している間に、次々と料理が出来上がっていく。

 手間暇かけた御馳走は、明日以降の祭りに作られるとして、今は飢えた子供達がすぐ食べられるように、茹でて塩を振っただけのモノだ。

 余が大量の銅級魔獣と銅級魔蟲を寄付したので、保存食量の残量を計算しながら配給していた生活が、一時的に改められた。

 明日からは各村から食糧を取りに来る使者に対応し、大量の食糧を保存加工する必要がある。

 同時に余がバルタサールに提案した狩り方を試し、必要な獲物が手に入るか確認することになる。

 だがそれが上手くいかなければ、いずれ生活が破綻してしまうだろう。

 それに余が提案した狩り方は、月の内半分しか狩ることが出来ない。

 魔境が広がる半月は、どれほど狩っても獲物を魔境の外に運び出せない。

 紐を使って引っ張り出すことが出来れば、拡張期でも狩りを出来るが・・・・・

「戦況が悪くならない限り、配った食糧がなくなる前にもう一度ここに来る。その時にもう一度話をしよう」

「ありがとうございます。宜しくお願い致します」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る