第92話再会二

「若様!」

「よう。元気だったか」

「元気だったかじゃないですよ! 一緒に冒険してくださる約束はどうなったんですか」

「姉御も聞いているかもしれないが、あの後王都で色々な動きがあってね」

「え、あれに若様も巻き込まれてしまったのですか?!」

「ベン男爵の武名は鳴り響いているから、余も巻き込まれたのだよ」

「それは災難でしたね」

「まあそれは仕方のない事なのだが、だがそのせいでドラゴン魔境で狩りをして鍛錬する計画が、頓挫してしまったのだよ」

「それでアゼス魔境で狩りをなさることになったんですか?」

「いや、そこまで時間はないのだよ」

「どう言う事です」

「各地で戦いが起こってしまい、兵糧が不足しているのだよ」

「若様は戦争に行かれているのですか!?」

「ああ、これでも騎士家の部屋住みだから、戦争は仕官の好機だからね」

「でしたら家臣が必要なのではありませんか」

「姉御が手伝ってくれるのかい」

「御望みでしたら、いくらでも手伝わせていただきます」

「気持ちは嬉しいが、騎士家にも仕えてくれる譜代の卒族家がある。そしてその卒族家にも、仕官を望む次男三男がいるのだよ」

「仕官がしたいとは言いません。陣狩りと言うか、御手伝いさせていただけませんかね」

「戦場は男の欲望が剥き出しになる場所だ。姉御のような色っぽい人間がいると、余計な争いごとになってしまうのだよ」

「自分の身は自分で護れます」

「だがその事で味方に恨まれ、後ろから矢を射掛けられてしまう事もあるのだよ」

「どうしても駄目ですか」

「戦争が終わって、改めてドラゴン魔境に狩りに行くことがあれば、その時に考えるよ」

「本当ですね。約束しましたよ」

「約束は出来ないよ」

「何でですか!」

「必ず生きて帰れると言い切れないし、仕官が叶えば、御役目によっては、魔境での狩りが許されないこともあるからさ」

「そんな!」

「姉御の気持ちは嬉しいが、他国が攻め込んできた以上、武人には地位に応じた責任があるのだよ」

「だから狩りや冒険は出来ないと言われるのですか?」

「ああ。今回の狩りも冒険ではなく、兵糧の補給だからね」

「そんなに不利な状況なのですか?」

「いや、そうではない」

「では一体どう言う事なのですか」

「勝って捕虜が増えすぎてしまい、見張りに人員が取られてしまった上に、捕虜に喰わせる食糧が不足してしまったのだよ」

「ふぇ?」

「まあそれはネッツェ王国方面だけの事で、エステ王国方面では多くの民が殺されてしまっている」

「それは・・・・・」

「だから姉御、個人的な事は後回しになるのだよ」

「分かりました」

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