第91話無差別狩り

 余は魔境に入って直ぐに、余りに濃密な魔獣と魔蟲の密度に、胸が圧迫されそうになる。

 これほどの密度で魔獣や魔蟲が存在していたら、例えそれが銅級や鉄級の魔獣や魔蟲であろうと、数の圧力で熟練狩人を殺せるだろう。

 これでは狩人が魔境の中に入って狩りをするのは無理かもしれない。

 とにかく間引かないといけない。

 商品価値やレベルに関係なく、手当たり次第に狩るしかない。

 それでも魔獣や魔蟲の商品価値を損なわないように、風魔法を使って狩りを行った。

 代表的な攻撃魔法である火魔法を使うと、熱で焼かれた部分の商品価値が損なわれてしまう。

 圧縮強化した風魔法を鎌鼬のように駆使して、一撃で魔獣や魔蟲の急所を切り裂く。

 一度に千の魔法を駆使し、魔境の中を縦横無尽に動かし、一瞬で千二千の魔獣や魔蟲をしとめる。

 しとめた魔獣と魔蟲は、同じく風魔法を駆使して、魔法袋まで運んで収納する。

 それこそ銅級から白銀級まで、当たるを幸いに狩りまくる。

 一直線に魔境の奥に向かい、無人の野を行くがごとき快進撃だ。

 金剛石級のリントヴルムに出会った。

 迂闊に殺してしまうと、魔境から魔獣や魔蟲が溢れ出る危険があるので、殺さずに素材だけを奪う為に、角・左右の腕を斬り落とした。

 次いで下顎と上顎に生えた牙も斬り落とした。

 痛みと怒りで、魔境の魔樹をなぎ倒して暴れ回るリントヴルムを、更に無慈悲に斬り裂く。

 鱗と皮を手に入れるために、生きたまま生皮を削ぎ斬りにする。

 殺してしまわないように、弱ったところを他のボス級に殺されないように、冷徹に生命力と戦闘力を計算して斬り裂く。

 本当はもっと真剣に探って、アゼス魔境の真実の姿を確認したかったが、今回はそれが目的ではない。

 とにかく獣人村の食糧備蓄を確保するのが第一だから、ダンジョンを探すことなく、一直線にアゼス魔境を突き抜けることにした。

 比較的広大な魔境ではあるが、アリステラ王国内に全域が収まり、アゼス代官所が全てを管理していたくらいだから、ダンジョン探索さえしなければ、直進して突き抜けることが可能だ。

 その間に、キングウルフやキングベア、キングスパイダーやキングタートルにも出会ったが、殺すことなく素材だけを斬り取った。

 ただ幾ら生命力があるとは言っても、玉鋼級と金剛級では生命力と再生力に圧倒的な差がある。

 牙や角、腕や尻尾を斬り落としても再生する玉鋼級は少ない。

 だから皮を剥ぎ、生血を集め、毛を切り取るくらいに留めておいた。

 ただキングスパイダ―の糸は、色々利用出来て貴重なので、徹底的に虐めて吐き出させた。

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