第78話ベン・ウィンギス男爵

「どうだ、引き受けてくれないか。ウィンギス男爵」

「・・・・・」

「何を黙っている、ウィンギス男爵。国王陛下に対して失礼であろう!」

「・・・・・」

「え~い、臆病風に吹かれたか!」

「カルヴィン宮中伯は私を臆病と申されたな」

「当然であろう。国王陛下の従軍要請に返事もしない、そのような無礼、臆病風に吹かれた以外考えられまい」

「ならば臆病者でない証拠を御見せしましょう」

「ほう。ならば国王陛下の命に従うと言うのだな」

「いいえ」

「なに! 国王陛下の命を無視すると言うのか!」

「当然でしょう」

「この不忠者!」

「私はアレクサンダー殿下の傅役であると同時に、ボニオン魔境騎士団の副団長も務めております」

「その様な事は男爵に言われなくても知っておるわ!」

「ボニオン魔境騎士団は、ネッツェ王国軍と全面戦争になっておる。兵糧も軍資金も独自で調達せねばならず、苦しい状態で戦いを続けるために、無理を重ねて将兵をやりくりし、私がここに参っておる状況です」

「それがどうしたと言うのだ」

「その状況で、私を他方面に転戦せよと言うのですか」

「それが国王陛下の御意向である」

「諫言も提案もせず、唯々諾々と国王陛下の命に従うのがカルヴィン宮中伯の忠誠だと言うのですね」

「国王陛下は我らには計り知れない叡智を御持ちじゃ。その国王陛下がお決めになったことを、我らが妨げるなどあってはならぬことなのだ。愚かな不忠者には分からぬ事じゃ」

「この場には高位高官の大貴族の方や重臣方がおられますが、臆病者よ、不忠者よと蔑む我に指揮官を押し付け、自分達は王都に籠って贅沢三昧ですか」

「黙れ、愚か者! 貴様のような下民出身には分からぬであろうが、我々にしかできぬ高貴な役目があるのだ」

「さて、ここまで罵られた以上、名誉を回復するには決闘を申し込むしかありませんな」

「え?!」

 ウィンギス男爵は一瞬でカルヴィン宮中伯の直前に移動し、片手で顔を張り倒した。

 その気になれば顔面を粉砕させ、この場で即死させる事も出来るのだが、王宮内だったので手加減したのだ。

 だがこの行為に謁見場は凍り付いた。

 カルヴィン宮中伯の言動に眉を顰める者が多かったが、中には同調する文官もいたのだ。

 そしてウィンギス男爵の反論は、王都内に留まる騎士団幹部を臆病者と揶揄したものであった。

 確かにネッツェ王国と正面対決している騎士団から副団長を引き抜き、別の方面軍を編成するのは異常だ。

 それほど苦しい状況なのなら、王都騎士団から団長や副団長を派遣すべきだろう。

 それをしないと言う事は、王都騎士団が動かせないほど不利な状況か、王都騎士団が頼りないと言う事だ。

 誇りを持った騎士ならば、エステ王国軍侵攻の話を聞いた時点で、派兵を志願すべきなのだ。

「ベン。決闘を認めたら、転戦を受けてくれるのか?」

 ジョージ国王陛下が思わぬ事を言いだした。

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