第55話虚言二

「安心しろ。ネッツェ王国軍も魔獣も麻痺させた」

「・・・・・」

「ネッツェ王国軍がボニオン公爵家騎士団に偽装していたのか、それともボニオン公爵家騎士団がネッツェ王国に寝返ったのかは分からないが、これからは、アリステラ王国第十六王子である、このアレクサンダー・ウィリアム・ヘンリー・アルバート・アリステラがお前たちを守ってやるから安心しろ」

「・・・・・」

 反応が悪いな。

 しかたがない、もう少し演出しよう。

「浮遊」

 余は白銀級の麻痺魔法で動けないようにした、ビッグベアを高々と浮遊魔法で浮き上がらせた。

「白銀級の魔獣であろうと、ネッツェ王国に加担した裏切りものであろうと、余にかかればこの通りである。もはや何の心配もないぞ! 浮遊」

 麻痺して動けなくなった、千人の騎士や兵士も、ビッグベアより少し下を浮遊させた.

「「「「「うぉ~!」」」」」

 民から津波のような歓声が沸き上がった。

 彼らにしたら、魔獣もボニオン公爵家騎士団も同じ災厄でしかなく、激しい憎しみの対象なのだろう。

 いや、普段は全く縁のないビッグベアよりも、常に無理難題を押し付け、乱暴狼藉を働く騎士や兵士の方に激しい憎しみを感じているのだろう。

 余はそんな騎士や兵士を斃したので、彼らからは英雄に見えているのだろう。

「ではネッツェ王国に寝返り、御前達を苦しめたボニオン公爵を成敗しようではないか!」

「「「「「うぉ~!」」」」」

 民の興奮は最高潮になった!

 ボニオン公爵領の民を味方につければ、正妃殿下の罠から逃れられるかもしれない。

 正妃殿下も王太子殿下も、民の評判を無視される方ではない。

 余を英雄と称える多くの民を、虐殺されるような悪逆な方ではない。

 味方につけた民を誘導して、王太子殿下と第二王子を褒め称える言動をすれば、少なくとも粛清されることだけは回避できるだろう。

「敵は余が麻痺の魔法を使って動けなくする。御前達は秩序を護り、麻痺した敵に縄をかけて確保せよ。決して略奪や暴行をするな。もう直ぐ第二王子、アンドルー・パトリック・デイヴィッド・エドモント・アリステラ殿下が王国軍を率いてこられる。略奪や暴行をすれば御前達を斬首に処さねばならなくなる。正しく王国軍の行動に協力すれば、褒賞することになる。絶対にここで道を誤るなよ。御前達の行動は、全て魔法で筒抜けなのだぞ」

 余は魔法で強化した声で、全ての民が聞き間違えることがないように、はっきりしっかり言い聞かせた。

 ここまで来て民を処罰したくはない。

 余に協力してくれる民が一人でも多い事が、余の安全に直結する。

 余と第二王子を同時に褒め称えるように仕向けることが、今は延命につながるのだ。

「殿下は第二王子が国境に駐屯していると御考えなのですね」

「爺もそう思っているのだろう」

「はい。恐らくボニオン公爵家はアンドルー殿下が継承されるモノかと考えます」

「余もそう思っているよ」

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