第47話再攻撃

「全然気づいていませんな」

「そうだな。公爵軍の索敵能力は低いな」

「想定内と言う所でしょうか」

「そうなのか?」

「はい。殿下と私が掛けている魔法は、玉鋼級の隠形魔法です。視覚だけではなく、聴覚や嗅覚でも私達を見つけることが出来ないモノです」

「確かにその通りだが、公爵軍の中に玉鋼級の斥候職がいれば、見つけられる可能性もあるだろう」

「それはその通りですが、王家王国から攫ってきたとは言え、猟師にあのような待遇を与える公爵家は、索敵を蔑ろにしている可能性が高いと判断しました」

「確かにそれは爺の言う通りだが、王家王国に放つ忍者には力を入れているのではないか?」

「公爵家は力を入れている心算でも、実際には王家王国の忍者にいいようにされています」

「確かに、ブラッドリー先生達が自由自在に動けているな」

「小さい頃から人間だけを相手に鍛えた忍者は、魔境で他のパーティーの襲撃を警戒しながら切磋琢磨した、斥候経験のある忍者には敵いません」

「そうだな。人間と魔獣を同時に相手して、四六時中警戒してきた我々の敵ではないな」

「はい。これだけでも、公爵家が魔境管理をおざなりにしてきたことが分かります」

「そうだな。魔境から上がる収益は重視していたようだが、全ては猟師の命を蔑ろにした上だからな」

「はい」

「では、その報いを受けてもらおうか」

「やられるのですか?」

「ああ、無念の内に死んでいった猟師達の恨みを晴らそう」

 余は隠形の結界に隠していた、ブラッディベアーを追い立てた。

 俺の軽い攻撃を受けたブラッディベアーは、狂気と恐怖に心を染めたまま、一直線にボニオン公爵家騎士団駐屯所に向かっていった。

 偵察隊をボニオン魔境に派遣したボニオン公爵家騎士団は、まだ戦闘態勢を取っていなかった。

 騎士団長が指揮を取っているのか、それとも代理の騎士隊長が指揮を取っているのかは分からない。

 魔境の外に駐屯しているとはいえ、ブラッディベアーが魔境から出て来たという、異常事態に対応するための出陣なのに、警備の兵士がやる気なさそうに立哨しているだけだ。

 騎士団付きの兵士であろうと、参集した騎士付きの兵士であろうと、責任者の騎士がその場にいない。

 恐らく天幕の中で寛いでいるのだろう。

 こんな状態で緊急時に対応できるはずがない。

 ボニオン魔境で指揮を取っていた、偵察隊の騎士長が例外だったのかもしれない。

 これなら心配する必要などないのかもしれない。

 立哨していた二人の兵士が、ブラッディベアーの爪を受けて肉片に変わる。

 ブラッディベアーは二人の兵士を攻撃したのに、突進の勢いを全く衰えさせる事なく、天幕を裂いて駐屯地に入り込んだ。

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