第44話ボニオン公爵家騎士団4

「麻痺。睡眠。麻痺。睡眠」

 余は鉄級の魔法を四連発で放った。

 十匹の鉄級魔獣を、麻痺させ眠らせる事の出来る魔法を、七騎になった隊列に放ったのだ。

「止まるな! 後ろを振り返らず、魔境から抜けるのだ!」

 最初から全員に効果があるとは思っていなかった。

 まがりなりにも騎士が相手だ。

 四連発とは言え、鉄級魔法程度が効果を表す可能性は低い。

 だが残念なことに、陪臣とは言えアリステラ王国の騎士ともあろう者が、半数以上の四騎が落馬してしまった。

 だが騎士長は流石に猛者で、落馬した者を素早く切り捨て、偵察の役割を全うすべく、一騎でも生きて魔境から出る道を選んだ。

「麻痺」

 だが余も逃すわけにはいかない。

 殺すには惜しいと思い、麻痺や睡眠魔法に留めたが、敵の戦力を削る必要がある。

 何より奴隷に落とされ、塗炭の苦しみに喘いでいる者達を助けなければいけない。

 騎士達が魔境から戻らなければ、ボニオン公爵家は更なる戦力を集めるだろう。

 それは忍者達の救助活動を助けることになる。

 出来るだけ多くのボニオン公爵家戦力を、この魔境の中に取り込む必要があるのだ。

 だが同時に、ボニオン公爵家の戦闘力も出来るだけ正確に確かめておきたい。

 選び抜かれた偵察隊が、どれくらい余の魔法に耐えられるか確かめておきたいのだ。

 だから急いで逃げようとする四騎に、銀級の麻痺魔法を一つ放った。

 落馬した騎士と、逃げようと暴れる軍馬を避けるために、ほとんど逃げられなかった四騎士は、余の魔法をもろに受けた。

 と言うか、背後から直撃されることになった。

 敵を前にして身構えているのならともかく、恐怖を感じて背を見せて逃げる心理状態では、魔法に対抗する気構えなどない。

 いや、心身を鍛えた真の騎士ならば、この状態でも心を強く持ち、背後からの魔法攻撃に対抗する心構えでいるだろう。

 はたしてボニオン公爵家に、それほど心構えの出来た騎士がいるのだろうか?

 もしかしたら騎士長ならば、背後からの銀級魔法攻撃に耐えてくれるかもしれない。

 半ばそう期待しての攻撃だったが、期待通りの状況になった。

 先を進もうとした三騎は落馬したが、騎士長だけは馬に拍車を入れ、落馬した騎士や逃げ惑う軍馬を巧みに避けて、一番先頭で落馬している騎士付近まで進んでいた。

「麻痺」

 余は期待半分で金級の魔法を放った。

 王家王国で騎士長を務める者なら、金級の魔法には対抗する実力を持っていて欲しい。

 これが偽らざる余の気持ちだ。

 今は敵味方に分かれてはいるが、共に王家王国に仕える騎士である。

 陪臣とは言え、騎士ならばそれに相応しい実力を備えていて欲しい。

 余のその期待は見事にかなえられた。

 騎士長は脇目もふらず、魔境の外を目指して軍馬を駆けさせたのだ。

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