第21話救出準備

「爺、村人達を助け出すことに決めた」

「六人でやると申されるのですか」

「捕らえたズマナ士爵達の見張りはどうされるのですか」

「影供達に任せる」

「殿下の行いに反対だったら、引き受けてくれませんが、その時は諦められるのですか」

「その時はマーティンに任せる。雑用は新たに雇った老人達にしてもらう」

「それでなくても人数が足らないのに、マーティン抜きでやれると思っておられるのですか」

「難しいのは理解しているが、見過ごすわけには行かない。余が助けねば助ける者がおらん。何より余が助けねば、王家王国の正義が失われてしまう」

「後続の者達が集まるまで待てませんか」

「確かに出立前に、サウスボニオン魔境騎士団設立に伴う騎士団員募集はした。しかし必ず集まってくれるとは限らない。何より1日遅れればそれだけ村人が死ぬ確率が高くなる。女は毎日毎日貞操と誇りを踏み躙られ、死ぬほど辛い思いをしているだろう。助けられる可能性があるのなら、今直ぐ動かねばならん」

「そうです。殿下の申される通りです。助けに行きましょう」

「普段のロジャーは殿下の足を引っ張るだけの考えなしだが、今言ったことは認めるしかないな。私は賛成でございます」

「マーティン殿、それは私が馬鹿だと言う事か!」

「賢くはないだろう。何時も、何時も、殿下と男爵閣下にたしなめられているだろ」

「うぬぬぬぬ」

「私は陛下から殿下を御守りするように命じられておりますが、御諫めするような事ではありませんので、何も申し上げることはございません」

「正義の為に命をかけるのも、領民の為に戦いで死ぬのも騎士の本懐でございます。近習頭として、何時でも殿下の馬前で討ち死する覚悟でございます」

「やれやれ、殿下は常に善き騎士となり、善き領主になろうと努力されておられた。私も殿下望みに応えるべく、全力で持てる全てを御伝えしてきた。その私が、ここで止めるわけにはまいりませんな」

「では全員賛成してくれるのだな」

「「「「「は」」」」」

「では影供たちに協力を頼もう」

 余は代官所の奥の間を出て、牢でズマナ士爵達を尋問している影供達に会うことにした。

「余達はボニオン公爵領に入り、攫われた村人を助け出すことにした」

「左様でございますか」

「後の事を頼めるか」

「捕虜達の事でございますか」

「そうだ」

「何故私達が見張らなければいけないのです」

「貴様どこに行く!」

「好きにさせてやれ」

「しかしパトリック殿」

「この者にも上に知らせる責任がある。王家王国への報告を邪魔するなど、王家王国の家臣として失格だぞ」

「は、申し訳ありません」

 何時ものごとくロジャーの勇み足だが、余への忠誠ともいえる。

 しかし正妃殿下の息のかかった影供の邪魔をするのは問題だ。

「余達はサウスボニオン魔境騎士団を設立しなければいかない。だがここには戦える冒険者も猟が出来る猟師もいない。全てはボニオン公爵家の謀略だが、それを証言してくれる者を助けねばならん」

「尋問で聞き出した範囲では、公爵家に落ち度はありませんから、村人を助けると言い立てても、それは公爵家の財産を盗んだことになりますが、それは理解しておられるのですか」

「理解も覚悟もしている」

「それが王家王国に、不利をもたらす可能性があるとも理解されておられるのですか」

「理解はしているが、その時は余のボニオン公爵家への私怨による独断専行としてくれてよい」

「ボニオン公爵がそのような妄言を聞くと思われておられるのですか。殿下が何を申されても公爵は納得せず、王家王国への交渉材料にされますが、その責任をどう取られるおつもりですか」

「厳罰も覚悟している」

「斬首と言う不名誉な処罰も有り得ますが、それも覚悟されておられるのですか」

「覚悟している」

「ならば何も申し上げますまい」

「では後は頼めるのか」

「私の一存では引き受けかねます」

「ならば仕方がない。せっかくの証人ではあるが、逃がしてしまう事も覚悟しよう」

「脅迫ですか」

「いや、事実を申しただけだ」

「殿下の今後の行動の為にも、捕虜は殿下自身で確保すべきだと思われますが」

「なるほど、ボニオン公爵家から奴隷を攫ったのは、余を襲った事への報復であり、賠償金の一部を強制的に取り立てただけだとするのだな」

「それは殿下の御考え次第でございます」

「御前達に捕虜を任せたら、王都に送って正妃殿下の交渉材料になるが、余が確保していれば、余が公爵との交渉材料に使えると助言してくれているんだな」

「私は何も申しておりません」

「入らせて頂きたい」

 さっき出ていった影供が戻ってきたようだ。

 頭格に報告して指示を受けてきたのだろう。

「入らせてやれ」

「は」

 見張りをしてくれていたマーティンが影供を中に入れた。

「捕虜の見張りは難しいので、王都に移すとの指示だ」

「すまぬな、考えが変わった」

「な? どう言う事でございますか」

「捕虜は自分達で確保すると言ったのだ」

「では、ボニオン公爵領に入り込むのも止められるのですね」

 アドバイスしてくれた影供は知らぬ顔だな。

 ロジャーをここに残すと、助言してくれたこの者に不利になる事をしゃべってしまうかもしれない。

 だがこの男の助言に従うのなら、捕虜は絶対確保しなければならない。

「いや、捕虜の見張りにマーティンとサイモン殿を残し、残りでボニオン公爵領に入る」

「そんな」

 影供は話の展開について行けないようだな。

 いや、いい加減な報告をしたことで、頭に叱責されるのを心配しているのかもしれんな。

「殿下。私は殿下の身を護るように陛下から命を受けているのですが」

「捕虜を確保する事が、余の命を守ることになります。ここはまげて御願いしたい」

「仕方ありませんな。陛下への報告書には、一筆御願いしますよ」

「分かっています。サイモン殿が陛下に送られる報告書には、余自身で事情を書かせて頂きます」

「では今直ぐに出発するぞ」

「「「「は」」」」」

 常在戦場の我らは、戦いに必要な装備は全て魔法袋に入れてある。

 特に今回のように、新たな騎士団を創設すると言うような非常事態では、王都屋敷にあるモノだけでなく、王都で購入できるありとあらゆる種類の装備を購入して詰め込んである。

 もっともそんなことが出来るのは、常識外れの魔力量を持つ余だから出来る事だ。

 そして余の魔力量を秘匿する為に、爺が余の近習に魔力量の多い若き才能を集めてくれたからでもある。

 爺が余の傅役で本当に良かった。

 爺を余の傅役にしてくれた、父王陛下にも感謝だ。

 まあ、母上様が父王陛下を籠絡してつけさせてくれたのだろうが。

 しかし爺は、正妃殿下とも関係があったはずだ。

 よく正妃殿下が爺を手放したものだ。

 いや、爺の性格では、例えそれが正妃殿下であろうと、信義にもとるような事はしない。

 それがよく分かっているから、余も爺を全く疑うことなく全てを相談できるのだ。

 何者だ?!

「御気付きですか?」

「ああ、影供以外の者が近付いて来るな。だが1人だけだな」

「抑えていますが、かなりの魔力を持っています」

「警戒しろ」

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