第4話『童子の話』

 童子は、暇つぶしというていで、人間の争うさまを上から見下ろしていた。わざと、敵国に情報を流して、人が死ぬ様を見て楽しんでいた。きっと、彼の中に歪が生じてしまったのだろう、街の人々が血の花を咲かすたびに、咲が深くなっていく。

 自分も殺したい、自分もしたい、なんて考えに至るほどに、それを見て興奮してしまうくらいに、異常者になっていた。もしこれが味方にバレても、お咎め程度で終わってしまう。

 なぜかというと、この国で誰も童子に勝てるものなどいないのだから。それくらい強いのだ。

 所謂チート、というものだろう。

 自分が楽しければいい、自分以外どうでもいい、他人の為に頑張るなんて馬鹿なんじゃないのかと考えるくらいだ。

 その行動はまさに鬼の所業。

 鬼というより悪魔と言った方が正しいかもしれない、逃げ惑う人々を見て、手を叩いて大笑いをするのだから。

「あーあー、面白いなあ、人間ってやっぱり」

 まるで自分が人間じゃないと言っているかのような物言いだった。そりゃあそうだろう、自覚をしているのだから。自分は異常だってことに。

 木からぶら下がっておりると、幸福の花が咲いていた。その花が白だと幸せが訪れるのだが、童子が見つけた花は黒だった。

 黒の意味は、『生涯孤独』という意味。

 童子はここで初めて怒りを露わにし、幸せの花を踏み潰した。息を切らして、何度も繰り返し踏み潰す。

「俺は孤独じゃないんだ。だから」

 言葉が詰まった。友達もいない、家族もいない、恋人もいない、周りは紅い花を咲かせて死んでいった。

 童子は安定剤を飲んだ。息を切らしていたが、段々と呼吸を整えていく。

「そうだ。友人なんていらない、家族もいらない、恋人もいらない。俺には何もいらないんだ」

 そう言い聞かせるように言う。


 これは五歳の時の話。

 父親が皿を投げてきた。襟を掴んで殴ってきたり、蹴ったりしてきていた。母親はなにかのアプリをしていて気づいていない、童子は親から虐待を受けていた。毎日痣だらけで、風呂も入れてもらえず、髪もぼさぼさで、周りからも哀れまれて、誰も助けようとしなかった。

 だが、一人だけいた。

 雨の日外に出されて雨にうたれていると、傘を差し出されて、童子は顔を上げて見た。

「大丈夫? 傷だらけだよ?」

 十歳くらいの少女。髪の毛は長く、端正な顔立ちとはいいがたいが、不細工というわけではない。中くらいの顔立ちだったと思う。どうだったかは今になっては思い出せない。顔も名前も、思い出せないのだ。童子は。

 親の虐待のことを話すと、少女は、笑って家の中に入っていった。すると、叫び声が聞こえてきた。童子がこっそりと中に入ると。少女が包丁を持って、刺し殺していた。

 そのあと、紅い花を置いて、こっちへ帰ってきた。

「おいで、一緒に帰ろう?」

 そう言われ、手を引かれた。

 彼女はこの国の王様の娘で、食事も十分にとらせてくれたし、風呂だって入れた。強くなりたいと言えば、稽古相手になってくれる人を探してくれた。

 そして、十歳になる頃には神童と呼ばれるほどになった。

 十五歳になったら、告白をして、付き合うことになった。

 国には恩があるはずなのに、今ではその恩も忘れるほど狂気に呑まれてしまった。

 いや、違う。

 王様は娘を見捨てたのだ。

 ここから先は童子が体験した話である。

 戦わない代わりに、隣国の王子に売り、欲望のままに嬲られ続け、幸せはなくなったのだ。

 童子は怒り狂って、単騎でその国に乗り込んで、虐殺していった。姫の部屋へ行くと、彼女は変わり果てた姿をしていた。生きた屍と言えば分かりやすいだろう。

 それを見て、狂わない男がいるだろうか、否、いないだろう。

 最後に、彼女に接吻をしてから、首をはねた。

 声を押し殺して泣いた。王様に対しての憎悪に、隣国への憎しみも半端なくあった。

 王子を見つけると、すぐには殺さず、拷問をかけてゆっくりじっくりと殺していった。目の前で大事な人を殺したり、男の逸物を切り落としたり、殴ったり蹴ったりを繰り返していたら、いつのまにか変わり果てた姿になって死んでいた。

 応援が来る頃には、紅い血の花を咲かせた童子だけが立っていたという。

 その時童子は、笑いながら泣いていて、応援に来た仲間も快楽の為に殺した。

 自国へ帰ると、王様の首も飛ばした。王女が逃げようとすれば、髪を掴んで、人々の前で首を飛ばした。

 そして言った。

「俺に逆らったやつは、死ぬからよろしくな!」

 彼が狂った要因は沢山ある。


 それからだ、周りが童子を避けはじめ、恐れ始めたのは。

「血の花は好きだなあ、相変わらず綺麗だ。綺麗な子にはお化粧しないとねえ」

 と言いながら女性を殺すのが好きだ。

 恋した女性は片っ端から血の花を咲かせ、お化粧と称して、死に化粧みたいにする。

 童子は気づいたことがあった。そういえば、自分は見えるのだから、一人じゃないかと。

 今までの殺してきた女性の怨霊が童子にくっついては、呻き、憎悪の言葉を吐き捨てる。

 だが、童子はそれでいいと思っている。


 それで、心が満たされているのだから。

 だが、一時的でしかなく、しばらくすると、心はぽっかりと穴が開く。


 それをいつも埋めてくれたのは―――。


 もう思い出せない彼女との思い出だった。

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