第3話『見えざるの狂気』

 童子は見下ろすかのように、鯵之助たちに目を向けた。手を挙げて、振り下ろした瞬間、一斉に銃声が鳴り響く、鯵之助は的になると思ったのか全力で走って逃げた。清輝は銃弾に掠りながらも少しずつ近づいていく、足に力を入れて一気に距離を縮める。

 一人目の顎を拳で殴って砕いた。一人目は血の泡を吹きながら倒れた。周りは冷静で、鯵之助から目をそらし、清輝に銃を向け銃撃する。

 発砲音が響き渡り、避けきれるはずもなく、鉛玉を受けながらも、一人ずつ顎を砕いていく。二人、三人、四人、五人、その姿はさながら修羅のようだった。

 十人突破した辺りから動かなくなって、童子はつまらなさそうに椅子に凭れ掛かって、見ていた。

 鯵之助は怒りと悲しみと憎しみが込み上げてきて、死んでいる軍人から銃を奪い取って、何発も敵の胸に向かって銃弾を撃ちまくった。そして、二十人突破したことに気づき、鯵之助が清輝を抱きかかえて離れて、扉の近くに横にならせると、振り返って、声を張り上げた。

「もういいだろ! 俺達を解放しろ! 約束しただろ! 二十人倒したら、解放するって!」

 そうすると、童子は、また手を振り下ろした。銃声が鳴り響いた、死ぬのかと思っていたら、いつまで経っても、痛みは来ない。何発も撃つ音が聞こえてくる。恐る恐る見てみると、自分の生きている部下を銃で撃ち殺していた。

 なにをしているのか理解ができなかった。ただ、周りは目尻に涙を浮かべていたり、顔色を青ざめていたり、目を瞑りながらしていたりしていた。それなのに、童子は動物……否、道徳心の欠片もない瞳をしてみていた。

 なんで、そんな目で見ているのか分からない、分かるはずもないし、分かりたくもない。

 鯵之助は童子を睨みつけた。童子は、全員を離れさせて、死体を踏みながら、剣を抜いた。

「なんで」

「ああ、確かに俺はこいつらを倒したら見逃すって言ったよ。そう、こいつらからはな」

 そうだ、童子は言っていないのだ。軍人たちからは見逃すとしか。自分は見逃すと言っていないのだ。

 それを聞いて、恐ろしくなった。童子は狂気じみた笑みを浮かべながら近づいてくる。鯵之助は、清輝を抱きかかえて、扉を開けようとしたが、間合いを詰められて、片腕を斬り落とされた。

 絶叫を上げる。泣き叫んだ、痛みが酷い、ここは仮想空間だろうと思ったが、そうとは思えない強烈な痛み、耐えられない。腕を抑えながら膝をつくと、童子が本当につまらなさそうな表情をして、見下ろしていた。

 そこには狂気しかない。

 蹴り飛ばして、倒れた胸を踏んだり、鯵之助を見下す素振りを見せる。そして、飽きたかのように離れて言った。

「期待していたのに、残念だ。その程度だったんだな」

「どういう、意味だ」

 息を切らしながら聞くと、童子は訳が分からないというかのように首を傾げ、顎に指をあてながら言う。

「だって、そうだろう? 君達は強いかと思ったんだ」

「は?」

「豪華客船の船長に聞いたんだ。ジャックされても、全く動じず倒した男たちがいるって、だからさ。期待していたんだ。それなのに、この程度、呆れてモノも言えないな」

「まさか!!」

「そうだよ? 俺が仕掛けたことだけど……まさか、気づいてなかったのか? 豪華客船で、生き残って強いヤツがいたら、連れてきてほしいって頼んだのも俺。お前達がここに来るのはもともとからそういう運命だったっていうわけだ。だけどな、思い違いだったみたいなんだ。こいつらは若輩だし、弱小だから、俺より劣ってるやつらだからさ、どうしても、すぐに二十人突破されるなーと思ったんだ。だけど、たったの二十人だぞ? たったの二十人で重症一人いるし。呆れるだろ」

「ふざけるな!! お前は人間の命をなんだと思ってるんだ!!」

「え? 人間の命? そんなの考えたこともないな。あ、一つ言えるのは簡単に死ぬってことか」

「それだけか!?」

「そうだが」

 きょとんとした表情で言われ絶句した。そして、手を叩くと、女性が現れた。横分けの黒髪の女性で、白衣を着ている。傷ついた軍人を見る医者だろう。肩には鴉が乗っかっている。

「初めまして、ノノです。医者をしております。治療するので、来てください」

「は、い」

 ノノは女性だというのに、軽々と清輝を持ち上げて、連れて行った。鯵之助も、ついていく。後ろを振り返ると、童子は笑っているのに、どこか悲しげに見えた。


 医務室で、治療を受けていると、黙っていたノノが突然言った。

「童子元帥は、とても寂しがり屋なのです」

「クズの間違いだろ」

「……元は、そんな方じゃなかったんですよ。とても心お優しい方で、周りに気を使い、国民が助けを求めれば助けたし、自分の快楽の為には動きませんでした。前までは」

「前まではだろ」

 清輝が受けた弾を丁寧に取っていく。死んではいないかと不安になったが、浅く呼吸をしている。

「童子元帥の親は、戦争で亡くなっているんです。その後、一人で生きていくために、色んな家財道具を売り、人々を助けお金をもらって、十歳になる頃には神童と呼ばれるほど、凄いお方になっておりました。ですが、あることがきっかけで、狂ってしまったのです」

「あることって?」

「恋人の死」

 思わず無言になってしまった。恋仲の人が死ぬのはとても悲しいことだ。そして、死にたくなるほど、辛い。

「しかも、快楽によって殺されているんです。だから、勘違いしてしまったのです。これが人間の本性かって、快楽の為に生きているなら、俺も素直に快楽のままに生きていいよなって」

「……ノノは、なんでそんなことを知っているんだ?」

「酔っぱらってるときに、聞かされました」

 なるほどと思っていると、清輝の治療は終わり、ノノは鯵之助の治療をし始めた。腕をくっつけるという、難しい手術だ。部分麻酔だが、痛くはない。

「殺されないだけ、まだいい方ですよ。これまで、ずっと快楽の為に殺してきたのですから」

「……そうだな」

 その呟きは誰にも聞こえなかったようだった。

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