第2話『自分自身の記憶を思い出す』

 夢現に眠りかけていると、鯵之助は、思い出した。

 自分が――――。


 死んだことを。


 顔色が悪くなり、ベッドから起き上がり、辺りを見渡す。そうか、仮想空間で、自分は死んでいないのかと思うとほっと一安心できた。だけど、なんでだろう、自分が生きている気配がしなくなってしまったのは。

 胸の鼓動、呼吸、あれ、していたっけ? と考えるほど、不安定になってしまった。自分自身がわからなくなって、頭を抱えていると、清輝が起き上がって言った。

「思い出したんだね」

「教えてくれ!! 俺は一体なんなんだ!? 俺は」

「何言っているんだ? ここは仮想空間、生きてるけど、生きていないように感じるのは当たり前じゃないか」

 その言葉に安堵した。膝をついて、よく自分に意識を向ける。大丈夫、鼓動は微かにしている、大丈夫、息も僅かにしている。そう自分に言い聞かせるかのように大丈夫を繰り返している。

 清輝は笑顔で頭を撫でてきて、ロッキングチェアに腰かけて、赤ワインを飲んでいる。食事とか飲み物は食べたり飲んだりしなくていいのだが、やっぱりここでも食べたり飲んだりした方がいい。

 能力向上のためだ、と言い聞かせ、ベジタリアンピザを食べる。味はまあ、なんだろう言い表せない味だった。

 苦いとも甘いとも、不思議な味、お茶は美味しかった、喉の奥にすんなりと入っていくのがたまらなく心地いいとさえ思うほどだ。

 苦味は意外となく、美味しい。

「イシュタル国の港町に着きます、降りる方は荷物をもってお気をつけて降りてください」

 二人は荷物を纏めて、豪華客船から降りていく。イシュタル国は鴉のイメージが強く、黒が基調とされた町の色の構成だった。服装も黒が多く、カラスの面みたいなのを点けてる人がほとんどだった。

「どこの宗教だよ」

「ほんとそれな、怖いのは政府が変わると国民達も変わるってことだよ」

 いきなり立ち止まっているので、恐らく清輝にメールが届いたのだろう。清輝の表情が分からないが、真顔になっているので、恐らく、なにか書かれているのだろう。それくらい察しはつくと、鯵之助は思った。

「この町は気を付けたほうがいい」

「え、なんでだ?」

「紛争が起きてるみたいだ」

「そういえば、この町の名前は?」

「イシュタル国ガルバン街」

 紛争が起きている気配はない、それどころか平和すぎて拍子抜けだった。なぜなら、この国は戦争の真っ只中なので、警戒されるかと思ったのだ。荷物検査もなければ、身元検査もない。

 もしかしたら、それをする余裕がないのかもしれない。すると、とある民族衣装似ている豪華絢爛な軍服で、胸元には鴉が書かれてあった。金髪で長髪、眉は太く、目は鋭い。その男性が真っ直ぐ、こちらへ歩いてくるのだ。

 鯵之助はまずいと思った。

 彼の名前は童子、とても強くとても頭がいい人、そして何より剣術が特化しており、残忍な性格をしているという噂を聞く。

 そして、ファンブックにも載ってあった。

 二十歳にして元帥にまで上り詰めた天才肌。敵ながらあっぱれな人だ。

 目の前まで来られた。怖くて、下向いていると、童子はにやっと笑って言った。

「なあ? お前達って、他国の者だよな?」

「はいそうですよ?」

 にこにこと、清輝は言う、鯵之助はできるだけ演技をした。ただの旅人だということを、だが、見透かすかのように目を細めて、口元を歪ませ、そして言った。

「ただの旅人ってわけじゃなさそうだ。よかったら、軍の会議が今から始まるんだけど、一緒にどうだい?」

「すみません、忙しいので」

「忙しいわけないよね。だって、旅人だし」

 何も言い返せなくなった。旅人だから、そりゃあそうだ。二人は仕方なくついていくことになった。

 周りはざわついているが、童子はにこにこしながら、ぺらぺらとなにかを話している。馬鹿みたいに話す話す、だが、その声音はどこか冷たかった。まるで、機械が喋っているみたいだ。

 上辺だけの言葉だということはすぐに分かった。鯵之助が隣を見ると、清輝も不味いと思っているみたいで、笑顔だけど顔色が青い。

 この童子から威圧感凄い、その上隠しきれていない殺気。ちらりと時折後ろを見る目つきが冷めていて恐怖を覚える。

 まるで、人間が家畜以下を見るときの目だ。それが分かった瞬間、理解してはいけないことを理解してしまった。

 これから、自分達は処刑されるのではないか? と。

 そして、辿り着いたのはからくり屋敷みたいに複雑な構造してある軍事会議場が見えた。童子は両扉を開けて言った。

「勿論、銃は置いてね」

 なぜ、銃の存在を知っているのか、理解できなかったが、言われた通りするしかなかった。

 荷物を全て預け、中に入ると、全員銃を向けてきていた。

「あれはM76」

 短機関銃でカールグスタフm/45のクローン。鯵之助はそれまでしか知らない。なんでもかんでも全て覚えてられるわけがない。

 一歩後ろへ下がる清輝と鯵之助、童子は目の前に来て、笑顔で両手を広げ言った。

「さあ! どう快進撃を見せてくれるか教えてくれるか? 俺は酷く退屈している!弾丸を避けながら、どこまで持つか、見せておくれ!」

 狂言。そうとしか捉えられなかった。

 自分の快楽の為に、連れてこられたのか、残忍な性格が出ている。

 目を細めて、とても楽しげにしている。童子は、その軍隊の後ろまで行った。全力で戦うしかない。

 冷や汗をかきながら、そう思い、顔を上げる二人。

「そうそう! 人間っていう生き物は、抗ってこそ美しいものだよ。さあ、俺に最後の力を見せておくれ、二十人倒せたら、そうだな、見逃してやるよ」

 二十人、銃がなくて、装備している向こう側にどう立ち向かえというのだ。

 だが、やるしかない。

 生きるためには。

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