095 堂鉄と徐平、六鹿山に迷う・その2



  年明けて梅見の宴の準備で騒がしい中を、関景の密命を受けて堂鉄と徐平を含む七人は慶央を出た。六鹿山の銅鉱で傭兵となっている荘英卓を探し連れ戻すためだ。


 六鹿山は深く、走る銅鉱は数知れず。

 英卓が私掘・盗掘の現場で雇われているとすれば、探し出すのは容易ではない。

 頻繁に移動していることも考えられる。


 青陵軍の駐屯地を中心に一つ一つの銅鉱を虱潰しらみつぶしに当たっていくしかない。

 慶央を出てはや二か月が過ぎ去った。

 堂鉄の持つ六鹿山の地図は、律義に黒く塗りつぶされていく。


 初めは河原に転がる石の中から小さなぎょく一つを探し出す行為に思えた。

 しかし最近では、英卓らしい男の噂を聞くことがある。

 そしてまた、英卓を探しているらしい自分たちとは別の男たちの噂も。


 五日前に駐屯地を出て、六鹿山の南を捜索して戻って来た。

 帰ってくれば今回の見回り兵士たちへの襲撃と惨殺だ。


 それが凶報なのは、その五人の中に英卓の探索協力をひそかに頼んでいた兵士がいたからだ。彼の死で、堂鉄は荘英の居場所に関する情報を得られなくなった。


 しかしそれはまた吉報でもある。

 襲撃が兵士の口封じを目的とした仕業であれば、自分たちの探索は確実に英卓に近づいている。そしてまだその男たちも英卓の居所を掴んでいない。


「休んでいる間などない。

 準備が整い次第、兵士たちが襲われたという場所に向かう」


 それ以上の詳しい説明などいらない。

 兵士たちを襲った男たちの黒幕は誰であるかと言う必要もない。


「おうっ!」

 その命を堂鉄にあずけた頼もしい仲間たちの返事が返ってきた。

 堂鉄は言った。


「隊長に、兵士襲撃の詳しい場所を訊いてくる。

 その間に、腹ごしらえをして、数日分の食料の調達を頼む」


 


 



 山中は美しい銀世界だった。

 しかし、駐屯地の雪は多くの兵士に踏まれてすでに泥と化している。

 堂鉄はぬかるみの中を歩いて、司令部のある天幕に入った。


 駐屯隊長が立ち上がって堂鉄を迎えた。

 彼は相好を崩していた。

 部下が惨殺された報告を聞かされたばかりだろうというのに、彼にはそれはそれこれはこれであるらしい。


 荒縄で固く縛った行李を堂鉄に差し出しながら、彼は言った。


「堂鉄さん、荘本家より荷物が届いてますぞ。

 允陶さんはよく気のつくお人ですなあ」


 その言葉に、この行李とは別便で、彼は允陶より大枚なまいないを受け取ったのだろうと知れた。堂鉄もまた仲間のもとに持ち帰るのも時間の無駄と、刀を抜いて行李の荒縄を切り、その場で中身を確かめる。


 一番上には、允陶の字で書かれた書状。

 それを読んだあと、彼は荷物をかき回した。

 衣類やら美味そうな干し肉やら、旅の空の下で入り用なこまごまとした生活用品。そしてしばらくは不自由しないであろうほどの銭。


……允陶のやつ。

 いつもながら、遠く離れた男を想う女のようにマメなことだ……


 武具に身を固めた髭面の男も好奇心を抑えきれないようで、首を伸ばして堂鉄の手元を覗き見る。

 


 


 


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