第264話 ログハウスの囮たち2


 「索敵みたいなこともできるし、いざとなったら盾くらいにはなるだろ。それでも突破してくるようなのがいたらまずいかもだけど、その時は……」

 「これだね!」


 そう言って左手をこちらに見せてくる。間違ってはいないから頷いておいたけど、中指用に大きさを調節してある星銀の指輪を薬指に着けてるから、そのうちどこかに落としてきそうで不安になる。フェリシアの真似をしてクロノスもこちらに見せてくるが、指輪を付けているのは逆の手だからアクセサリーが霞んで見えそうな綺麗な手指を見せられただけだった。エアリスによるとクロノスがこんな感じなのは“微睡まどろんでいる”状態に近いらしいが、それだけだろうかと思うのは俺が普通の人間だからかもしれない。クロノスだって俺からすれば超常の存在だから、俺の常識なんて通用しないだろうからな。


 「お兄さん、クロノスさんの事、常識通じるわけないよなーとか思ったっすか?」

 「なんでわかんの?」

 「すーぐ顔に出るからっすよー」

 「だとしてもそこまでわかるもんかね」

 「それはともかくっすよ。お兄さんだって似たようなもんっすからね?」

 「え? お、俺は普通だし」

 「あたしとしてはお兄さんが普通じゃなくてもいいんすよ?」

 「はいはい。慰めありがと」


 まぁさすがにな、普通じゃないよな。自覚しているしそれをネタにされる事にも慣れ、むしろ腫れ物扱いされてないっていう安心感すらある。でもなんだろう。一応否定してみた際に向けられる視線が生温かい。


 という事で第一パーティは俺、香織、チビ。特級クリミナルが現れると予想されるダンジョンへ向かう。本命はここだろうというダンジョンに行くんだが、今回エアリスは実体化せずにいてもらい、もしもの場合に限りログハウスメンバーの持つメイトブレスレットを頼りにそちらで実体化して対処してもらう。メイトブレスレットは互いに繋がりを持っているため、エアリスは通路として使えるように改良した。とはいえエアリス専用ではあるけど。あとは常にみんなの周囲に球体の“エアリスの眼”を飛ばしておくのにも必要で、その通路を通して俺の能力を飛ばすということもできる。それも俺だけでは出来ないからエアリスを実体化させておくわけにはいかないというわけだ。


 第二パーティはついさっき連絡したカイトを主力にする。レイナとアリサにあっさりバレたらしく俺に断らせようとしていたが、二人からのメッセージ連打に俺は屈した。返信をしようとしている間に二人から十件以上来るんだからめんどくさ……じゃなくて熱意を嫌というほど感じたので。まぁ実際、三人のクラン・鎌鼬はカイトが突出した実力だが他の二人も加味するとバランスが良い印象だ。ゲームで言えば攻撃力と回復力、そこに必要な臆病さや自棄にならない思考がプラスされる感じだろうか。そんなわけで怪我や無理をしないようにという条件で悠里について行ってもらう事になった。ついて行ってもらうとは言っても男女比的に囮が多すぎてカイトは大変だろうなー。まぁがんばってくれたまえ、親友殿。


 第三パーティはさくらが囮だ。ダンジョンを観光するどこぞのご令嬢に扮するらしく、マスコットとしておはぎを連れて行きたいというので快諾した。さくらを守るお仕事だとおはぎに伝えると、『変なにおいがするヤツは見つけたら八つ裂きにゃ!』と言っていたので気合は十分だろう。ただ、先制攻撃はしないようにキツく言っておいた。あと八つ裂きも。それでその護衛兼クリミナルに対処するのはクラン・マグナカフェ、つまり軍曹たちだ。ダンジョンにおいて歴戦の勇士であることは間違いなく、現役の自衛官という事で連携の質も高い。潜り込んだ自衛官の監視がある時に隙を見せクリミナルを誘い出す作戦らしいが、そんな危険に思える事をするのはさくらが素人に遅れを取らないと信用しているからだ。それでも不安はあるわけで、おはぎを連れて行きたいと言われた時は逆に安心した。


 そして第四パーティ。向かう先は俗に言う“パリピ”が多く出入りするダンジョンだ。普段利用している探検者はダンジョン内で酒を飲んだり騒いだりと素行はあまりよろしくない。しかし彼らに余裕があるのには理由があって、不思議な事にそんな彼らを積極的に襲おうとするモンスターは15層を越え凶暴化したものでなければそれほど多くないらしい。もしかするとモンスターは“陰の者”なのかもな。陰の者的に陽の者は眩しいのであまり近付こうとは思わなかったりするし。ただ、乱痴気騒ぎが割と多い環境であるためか、今回のクリミナル事件のように人死にはほぼないが似たような事が度々起きているらしく、そこにおける脅威はモンスターよりも人間と言える。面接によって人間性を審査され、それが最も免許取得に影響しているはず。それなのに探検者になれたのが不思議な人間が集まっていると聞いた。人は良くも悪くも変わるものだし、それはそれでモンスターの間引きに一役買っていると思えばまぁ。そんなパリピダンジョンに行くのは杏奈、リナ、小夜、そしてクロだ。正直そのメンツだけでは不安しかない。それなのにどうしてかと言えば、ログハウスの中でそのダンジョンの雰囲気に親和性があるのは杏奈とクロだからだ。つまり明らかに浮くであろうリナと小夜がメインの囮という事になるな。かと言って杏奈とクロも立派な囮だからちゃんと護衛もつける。玖内には本当に頑張ってもらいたい。もしかすると最も気苦労が絶えないパーティかもしれない事から、自称神々の中で最も未知数、最強かもしれない天照を付ける事にしたが……今になって思えば間違ったかもしれない。天照も酒を飲んで騒いだり酒を飲まなくても騒いだりするし、性格は賑やか、どちらかを考えるまでもなく“陽の者”だ。まぁ陰の者の苦労は絶えないという事で、ああいうノリにはついていけないとあからさまに嫌そうな玖内には諦めてもらう事にした。あとでお小遣いでもあげようと思う。


 「って事で玖内、頼むな」

 『そんなぁ〜……』


 玖内は知らない事だが小夜は魔王。安全面で言えば随一と言えるしその点は心配するだけ無駄だろう。

 問題があるとすれば杏奈とクロの自由さというか奔放さか。まぁそこは変に制御されていない方が溶け込める場所だと思うし、玖内には出来る事なら社会勉強の一環として気楽に観光してもらいたい……無理か。

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