第247話 モンスターがいない理由1


 「モンスターが湧かないのって、ここの他にもやし育ててみたとこあったって聴いたけど珍しいのか?」

 「調べた限り情報はほぼありません。そういったダンジョンはそもそもモンスターが少なく、一つの層だけでなく全体のエッセンス濃度も低いと思われます」

 「1層だけ違ってる御影ダンジョンは特別なのかな?」

 「香織様の言う通りかもしれません。御影ダンジョンは1層だけエッセンスの濃度が低いのですが、その理由がわかりませんでした」

 「でした、って事はわかったのか?」

 「【ゲート】を習得した事、ワタシ自身の進化……要因は他にも複数あると思われますが」


 エアリスと出会ったのはこのダンジョン。最初こそ情報が流れ込んでくると言っていたのに、その後はあまりそうなっていなかった。なんとなくだがエアリスが人間らしさのようなものを得ていくにつれてダンジョンからの干渉が減り、自力でダンジョンに干渉していくようになっていったと思っている。アークで流れ込んできたと言ったエアリスは驚いているようにも感じたし、その時点で既に少なくなっていたんだろう。

 もしも出会った頃のエアリスが今よりもダンジョンに近い性質だったから自動的に流れ込んできたとするなら、今のエアリスは違うのだろうか。


 「そんで?」

 「この層で発生するはずのエッセンスはログハウスのあるアウトポス層へと流れ込んでいます」

 「どゆこと?」

 「詳しい事はワタシにも」

 「あの層は特別って、前にフェリが言ってたよな」

 「はい。しかしフェリシア自身特別な理由までは語りませんでした。ワタシとしてはエッセンスの発生がほぼ皆無であるアウトポス層が存在し、無からモンスターが生まれるからと考えていましたが違うのかもしれません」

 「悠人さん、つまりあの層は御影ダンジョンのエッセンスで出来ている、ということでしょうか」


 香織が言わんとする事はわかる。わかるけど、現状四国ほどの広さがあるアウトポス層だ、釣り合いが取れているとは到底思えない。

 他の層に移動できる石碑がある泉、そこから湧き出すエッセンスが御影ダンジョンからのものだ、とエアリスは続けた。


 「それとマスター、御影ダンジョンの支配者権限を得る度に、マスターのエッセンス許容量と吸収量、ステータス反映効率が上がっていったのですが」

 「ちょいまてそれ初耳」

 「香織も初めて聞きました」

 「そうでしたか。では続きを」

 「聞く耳持たんのかい。まぁいいけど」


 支配者権限、それを得た階層で発生したエッセンスは所有者への貢物として腕輪に献上される。それによって腕輪自体も成長しているらしく、成長に伴って所有者に与える影響が増大されているようだ。


 「要するに……人体のエッセンス適応化が進行します。適応深度により腕輪を介してステータスが反映され、それはさらに人体を根本から強化します」


 要約できているのかはわからない説明だが原理よりも結果で言ってくれたおかげでなんとなく想像はできる。以前のエアリスもその時点の俺にわかるように言ってくれていたのかもな。ともかく腕輪を得てから健康になる人が増えたってのはそういう事で、逆に体調を崩す人がいたのもそういう事か。普段目に見えないながらもエッセンスが自分にとって都合の良い人たちは魔力やマナと呼び、都合の悪い人たちや場合には瘴気と呼んでいるって事だな。あと最近じゃ瘴気爆発で目に見える濃度になったエッセンスをエネルギーのように感じ“エーテル”なんて呼ぶ人もいる。実際能力使用やステータスに反映される観点からエネルギーなんだが、いやはや“そう感じる”程度でファンタジーな表現に至るなんて勘の鋭い人たちだ。


 「エアリスが俺たちのステータスを調整しても上限みたいなものがあるのは、腕輪のエッセンスと星石保有量とか適応深度が足りないからって事か」


 能力発現、ステータス発現にエッセンスが関係しているのはわかっていたが細かい事までは知らなかった。それは漠然と“エッセンスは万物の素”と以前エアリスが言っていたからだ。説明を端折っていたエアリスが以前よりも詳しく言ったのは、その時よりもエアリス自身エッセンスの正体が見えてきた事も関係していそうだ。とはいってもそれ以上詳しくされても理解できそうにはない事を察してくれているだろうから、これでも俺にわかるように程度を合わせてくれてるのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る