第239話 抑制の主は神的なサムシング?


 「うーん。そういえばダンジョンって銃器の威力弱まるよな。アレって火薬なんだっけ?」

 「はい。ダンジョンは地球、ご主人様の考えで言えば地球が存在する世界と繋がった際に世界の法則に倣ったのでしょう。そこで火薬類が引き起こす爆発的な作用が危険とされ抑制されたのかと」

 「ほーん。既によくわからん。それに火薬類って一口に言っても色々だし、混合物なんだろ?」

 「はい。どの成分がどうやって、という疑問をお持ちなのはわかりますがワタシにもわかりません。しかしエッセンスに何かしらの働きかけがあったとしか考えられません」

 「エッセンスか。そういえばマグナ・ダンジョンもだけどダンジョン化した地帯はエッセンスがダンジョンと変わらないくらい在って、そこでは銃器が弱体化するんだったか」


 夕食を済ませた俺の部屋には小夜、そして実体化したままのエアリスがいる。香織の様子はいつも通りだったが自分の部屋に戻っていった。今日は小夜がいるから気を遣っているのかもしれないな。というかそうであってほしい。


 「悠人しゃん、さくらの銃は普通に使えるの?」

 「アレは能力で創り出したもので、火薬の代わりにエッセンスで電力を作って弾を撃ち出してるとかそんなんじゃないか?」

 「はい。以前は冷却後、超伝導現象を引き起こし発生した推進力、それを得た弾丸を銃身内部にとどめ、引き金を引くと同時に解放し発射していましたが、連射が難しく冷却に難点がありました。現在は常温超伝導の性質を持つ純ミスリルを銃本体に取り入れています」

 「それって冷却問題解決してなくね?」

 「浮いたエッセンスを冷却に使用しているようですが、完全とは言えません」

 「話、難しいのね」


 小夜の言う通り難しい。理系大やそういう学部ならともかく俺はごく普通の文系学部だったしな。ぶっちゃけがんばって話を合わせようとしているけど、よくわからん。


 「難しいよな。まぁリニアみたいなもんだろうとは思ってるけどそれでも雰囲気しかわかんないもんな」

 「ちなみにその機構を参考にしたものがご主人様のバトルブーツです」

 「俺は足にリニアを履いていたのか……」

 「リニア新幹線に勝てるの?」


 小夜は小首を傾げ聞いてくるが……流石になぁ。時速五百キロで進み、実はそれでも本気じゃない相手だし。


 「それはさすがに——」

 「勝てます。いいえ勝ちます」

 「——だそうだ。ってか勝った先に俺が無事な未来はあるのか?」

 「策ならあります」


 鬼気迫る表情のエアリスが意気込みを表明。どうしてこいつは変なところで対抗心を燃やすんだろう。策というのが【不可逆の改竄】でなければ良いんだが……どうにもそれっぽい。向上心と捉えれば悪いことではないよな。たぶん、きっと。


 「がんばってなの……!」


 両手をグッと握ってがんばってと言う小夜。エアリスは勝つとか言ってるけどよくよく考えれば勝たなくていいんじゃないだろうか。下手したら足だけがどこかに行ってしまいそうで不安だし。あっ、それで【不可逆の改竄】か……マジ勘弁してほしいわ。


 「そういや魔王の一件の時、どこかの国がグレネード弾撃ってたよな」

 「拍子抜けだったの。予習したのよりもよわよわだったの。ざぁこざぁこって言いたい気分だったのよ? でも魔王としての威厳を見せる事にしたの」


 良い判断だと思う。変に煽ったら関係が拗れるというか、禍根は残るよな、間違いなく。実際人類にとっての魔王がダンジョンの支配者という“立場”を確立したのはあの場だっただろうし、そのおかげか近頃の先進国間ではダンジョンを一種の国のような扱いにしようという動きさえあるらしい。物量に物を言わせる大国の近代兵器が役に立ったとは言えなかったし、ダンジョン内の資源はこれまで通り持ち出せる。つまり喧嘩するより仲良くした方が得、と現状では見做されているということだろう。相対的に見て兵器より能力の方が効果が高くなる環境ってのもあるから、攻めようとしても相手を目の前に戦うよりモノを壊す感覚でミサイルのボタンを押す人たちにとっては厳しいだろう。それでも定期的にエテメン・アンキ地下に造られた魔王城へと新型の銃器で攻め込んでは、小夜の部下……というより下僕の悪魔たちを徐々に追い詰めるようになっているという話も聞くから、ダンジョン内で使える量産型汎用銃なんてものも開発されたりして。


 「まぁ現状では銃はゴミか」

 「アレにも抑制が働いていたのでしょう。しかしそれでも銃をゴミと見なすことのできるヒトは限られると見ていますが」


 自分基準で考えていたけど、がんばれば交番のおまわりさんが携帯する拳銃でも鹿や牛といった動物型モンスターを倒せないこともないんだったな。目や口の中を撃たないと簡単にはいかないらしいけど。でも熊は無理みたいだしなぁ。

 それはともかく抑制も働いて榴弾程度なら許容範囲って事か。


 「グループ・エゴの気配もなかったのは直接手を下すほどじゃなかったって事か。そうなるとアレクセイが護衛してたのってやっぱ核兵器か。そっちの方がいろいろやばいだろうし、抑制されてそうだけど」

 「抑制されているかどうかについては使用実績がございませんので不明です。しかし核兵器は破壊だけにとどまらないため、グループ・エゴが現れ処理したのでしょう。それに火薬類とは言えない物ですし」

 「つか核兵器があんな近くにあったって思うと、今更怖くなってくるな……」


 これが世間に広く知られれば、今に至ってもまだ銃を使う海外勢たちのダンジョン内における使用武器が大幅に変わるんだろうか。まぁ能力で創れてしまうさくらならわかるけど、普通は個人で持ち運べるサイズの超伝導兵器なんて浪漫ロマンだけどな。あっ、似たようなものを俺は履いてたんだっけ。まぁいい。

 それと総理たちにも話した核。午前の会合で総理たちが危惧していた核廃棄物の廃棄場所にダンジョンが選ばれてしまったらどうなるんだろう。


 「廃棄物は自分達の管理下で処理する事になってるって勉強したの。だから侵害にあたるの。そしたら……わたしは人間を殺すのよ。ごめんなさいなの」

 「いや、本当に宣誓させちゃった俺が悪いっちゃ悪いんだしな。もしそうなったら嫌な役目させることになっちゃうな。でも殺さなくていいからな? なんなら破棄だって出来るし」

 「破棄はイヤなのよ。それにわたし殺すのは嫌ではないのよ。むしろ宣誓がなくても喜んで殺すの。わたしにとってほとんどの人間に価値なんてないのよ」

 「……でもいろんなデザイン、見れなくなっちゃうかもよ?」

 「う〜……それは困るの」


 ムムムと唸る小夜だが、そういえばそうだった。小夜は自分にとって価値がないなら人間を殺すくらいなんでもないと思っている節がある。とりあえず今はそうならないように祈っておくくらいしか出来ることはないな。


 雪山の頂上で話した事を思い出す。俺はダンジョンが未完成、それか未復元の“ひとつの世界”なんじゃないかと思っている。どちらかと言えば未復元に傾いてるんだが、そうなんだとしたら元々在った世界を誰かがダンジョンにしたって事じゃないだろうか。つまりそれって……神的なサムシング?


 「うーん。やっぱフェリよりも上位の存在がいそうだよなぁ」

 「神のような何者か……創造主、ですか」

 「そういやさ、小夜ってあの天使だったわけじゃん? 誰かに創られたのか?」

 「え? ど、どうだったかなぁ〜なの」

 「憶えがない感じか。じゃあダンジョンに創られたのかなぁ」

 「それは違うのよ」

 

 はっきりと否定した小夜が次の瞬間にはなんだか挙動不審になっている。女の子に根掘り葉掘り質問するのは良くないと聞いたが、もしかしてそれに当たるんだろうか。


 「ごめんな小夜。聞かれたくない事だったかな」

 「ち、違うのよ。悠人しゃんが悪いんじゃなくてわたしが、その……」


 なんだかやっぱり言い難そうだ。


 「話したくなったらでいいから、そしたら教えてくれ」

 「うん。恩返しができたら、いつかきっと話すの」


 小夜はなぜか知らないが俺に恩があるらしい。でもそれを秘密と言って教えてはくれなかった。無理に話してもらおうとは思わないが気にはなる。でも恨みがあると言われたわけではない。なんならそれを教えてくれるのが恩返しでも良いんだが、小夜には小夜の恩返しの形があるんだろうからな。いつか話してくれるのを楽しみにしておこうと思う。

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