第131話 家出少女を保護する


 「おい白ネズミ、どうしてお前がここにいる?」


 元旦を実家で過ごしていた俺は、両親そしてログハウスメンバーと共にカウントダウン後に遅めの年越し蕎麦を食べようとしていた。その後近くの神社に初詣に行こうかと思っていたのだが……そこで地震が起き、それはどうやらダンジョン由来の地震だったようだ。ダンジョンの神的な存在、大いなる意志であるフェリシア曰くまたもダンジョンが統合されたとのことだった。

 そこで俺は実家にあるダンジョン、勝手に御影ダンジョンと呼んでいるそこが別のところに統合されたのかどうかが心配になり床板を外してみたところ……見覚えのあるでかいねずみがそこにいた。当の本人…本ねずみはというと……


 「どうして超越者がここにいるっちゅ?」


 などと抜かしやがる。そもそもここは俺の実家だし。普段こいつはガイアと一緒にいるはず、ということは……


「ガイアもいるのか?」


「ガイアはいないっちゅよ〜。あたちはとある事情からお散歩中っちゅ〜」


 なるほど。お散歩中に不法侵入ってことか。良いだろう、警察に突き出し……いやそれはだめだな。幻層にでも放り込むか?


 「ちょ、超越者サマ〜? 恐ろしいこと考えてる顔っちゅ」


 おっといけないいけない。つい顔に出てしまったようだな。俺もまだまだ演技の修行が足りないようだ。


 「悠人さ〜ん、ダンジョンどうでした〜?」


 「あ、うん。大丈夫みたい」


 こちらを覗いた香織は大福のような白ネズミに気付き「どうしてここにネズミさんが?」とこちらへとやってくる。ネズミの癖にふわふわ毛並みである白ネズミの顎を撫でる香織。以前ガイアがログハウスに来た際、このでかいネズミはみんなと仲良くなっていた。ただし、俺がいない時にしかガイアの腕輪から出てこようとはしないためそれを知ったのは後になってからだ。

 下顎を撫でられる白ネズミは鼻先が自然と上向きになってしまうことに抗うことができない様子で目を細めている。仮にも“カミノミツカイ”のくせに、飼い慣らされたペットみたいじゃないか。そんなネズミに対し香織が俺の代わりに質問する。


 「どうしてここにいるの?」


 「お散歩してたらここにいたっちゅ」


 「お散歩してて迷い込むはずないんだけどな〜?」


 「んげげっ! 大いなる意志!?」


 過剰に驚く白ネズミに対しフェリシアは「そういう反応されるとなんかショックだなぁ〜」と言いつつ、たぶん……と続けた。


 「ダンジョン統合の影響でここに来たんじゃないかな? ダンジョンの中で統合に巻き込まれると、運が悪ければダンジョンに飲み込まれるし、そうじゃなければ統合先に行くはずだからね」


 「ってことは、こいつはどこか別のダンジョンにいたってことか?」


 「そうだろうね。そうだよね? ネズミ?」


 目を逸らししどろもどろになる白ネズミ。何か隠してる? 言えないことがあるのか? さっきはガイアはいないって言ってたけど、本当は隠れて潜ってるんじゃないだろうな?


 「が、ガイアはいないっちゅよ! ほんとうっちゅ! 大いなる意志に誓ってほんとうっちゅ!!」


 じゃあこいつだけでダンジョンにいたということになるが……ガイアはこの事を知ってるのか?


 「ガイアには内緒っちゅ。それにあの子の事も秘密っちゅ。乙女と乙女の秘密っちゅ!」


 乙女と乙女? 白ネズミが乙女かどうかは別として、他にもいるということか。その点には触れず「その子もここにいるのか?」とごく自然を装った質問に白ネズミはあっさりと白状した。


 「そうっちゅ。今は隅っこで眠ってるっちゅ。いやー、あたちも大変だったっちゅよ〜。毎日ごはんを運んで甲斐甲斐しくお世話してたっちゅ。でもお世話にも限界があるっちゅからガイアに知らせた方がいいと思ってたっちゅけど〜、“未来(みらい)”が秘密にしてほしいって言うから誰にも言えず、今も秘密にしたままこうやってごまかしてるっちゅ」


 「へぇ〜。ネズミの他に未来っていう子がいるんだね」


 「……ばらしてしまったっちゅうううう!! あたちとしたことがぁぁあ!」


 所詮ネズミはネズミか。まぁネズミの割にがんばったんじゃないか? それに誰かを守ってた感じだし、咎めるのも気が引ける。ただダンジョンにずっといたような話ぶりだし、モンスターも出る。さすがに危険だろ。


 「うぅ……まーいいっちゅ! 超越者になら言っても構わないっちゅ!」


 「乙女と乙女の約束を破っても大丈夫なのか?」


 「だ、大丈夫っちゅ。未来は優しい子だから許されるはずっちゅ。と、とにかく、未来の能力があればそうそうモンスターと出会すことなんてないっちゅ」


 そう言った白ネズミがついてくるように言い、俺は香織と共に床下の階段を降る。


 ダンジョンに入り索敵を展開。それからすぐのこと、近くに潜む小さな反応を感知した。

 壁床が石や土で囲まれたダンジョンを進むと懐かしさを感じる。まだ半年ちょっとしか経っていないのに、もうだいぶ前の事のように感じていた。

 反応のあったところに着くとそこは入り組んだ先の袋小路になっている場所だった。その隅に少しくたびれた大きめなタオルケットに身を包んで蹲る小柄な女の子がいた。


 「み、みらい〜? ご、ごめんっちゅ。超越者の話術に騙されてつい口を割ってしまったっちゅ。あたちは隠そうとしたっちゅよ? でもでも〜超越者とおっかない人に脅されて〜……」


 いや、脅してないし普通に話してただけだろう。勝手に自分の武勇伝を話し出した癖に俺に罪をなすりつけないでほしい。とはいえその少女は疲れた顔をしてはいるが見た感じどこも怪我をしていないようだし、白ネズミが隠れてこそこそと少女を匿っていた件はともかくとして、まぁいいだろう。


 「大丈夫だよ、ねずみさん。そのお姉さんは……やさしいし、お兄さんは……ちょっとよくわからないけど悪い人じゃないと思う」


 「悠人さん、ここではなんですし、家に連れて行きませんか?」


 「うん、そうだね。ここよりはいいだろうし」


 「いやっ!! 行きたくない!!」


 震えて頭を抱える少女を香織が宥めるも、ただひたすらに拒絶していた。その少女に表情はなく、瞳は光を失っているようにも見えた。しかしその割にというか、薄汚れているわけでもなく服も綺麗なものだった。とてもずっとダンジョンの中にいたとは思えない。


 白ネズミ曰く、自分の家にダンジョンができ、一家は気味悪がって転居した。荷物も全て運び出したわけでもなく、処分しようにもできないことから物置代わりにしていたようだ。しかし今回そのダンジョンに逃げ込んでいたおかげで衣と住には困らなかったらしい。


 香織の優しく諭すような説得を拒絶し続ける少女。このままでは埒が明かないと白ネズミに何か知っているかを問うと少女がそうなってしまった理由を口にした。


 「未来はガイアと一緒にダンジョンに行ったっちゅ。その時にどうやら能力に目覚めたらしいっちゅが〜、その能力っていうのが未来にとっては厄介なものみたいっちゅ」


 「ガイアめ……一人で行くなって言っておいたのに。いや、一人じゃないし白ネズミもいるし問題ないのか……? それに念のために星銀の指輪と転移の珠も渡してるし……いやいや、子供だけで行くのはさすがに危ないだろ」


 「それでっちゅねー、その日は無事に帰ったっちゅよ。でも未来は自分の能力を持て余してるっちゅ。地上にいるとその能力のせいで頭がおかしくなりそうって言ってたっちゅ。だからたまたまお散歩をしているときに未来を見つけてしまった良いねずみのわたちは、毎日ガイアママからごはんをくすねて普段は三日に一度のお散歩を毎日するようになったフリをしてお届けしてたっちゅ。ネズミーイーツっちゅ。そのせいで最近痩せちゃうのが悩みっちゅ」


 「どこからつっこめばいいかわからんが、まぁいいや。能力? なんだよその能力って」


 「未来は他人の声、人じゃないナニカの声、そういうのが聴こえてしまうみたいっちゅ」


 それを聞き、“サトリ”という存在を思い浮かべる。与太話にしか思えないが、他人が思った事が聴こえてしまうとかそんなやつだ。でもふと思う。そもそも能力なんてものがすでに与太話みたいなもので、それが現実に在ってしまう現状では誰がどんな能力を持っていてもおかしくはないのかもしれない。もしかしたらこの少女よりも上位のものも……そんな事になったら悪用したらとんでもない事になるな。場合によってはエアリスになんとかしてもらうか……能力封印的な。


 白ネズミの話から、おそらくこの少女は能力をコントロールできていない。もしかすると地上で大勢の人間がいる場所に行くと、思いや思念といったものが濁流のように頭に流れ込んでくるのかもしれない。俺も索敵等で情報量過多になると脳にその負荷がかかり、それは言わずもがな強烈なものだ。それをこの少女は、俺とは違い感情や言葉を地上にいる間ずっと聴いていたのだろう。だとすると頭がおかしくなりそうというのも頷ける。

 その思念の濁流とでも言おうか、それを避けるためにダンジョンに逃げ込んだみたいだな。ということはダンジョンの中にいれば聴こえてこないということか。


ーー ダンジョンは一種の隔離空間になっています。【天眼】ですらその壁は越えられません ーー


 (え、でもやろうと思えば中から外に【転移】もできるだろ? それには【ホルスの目】とか【天眼】を使ってるんじゃなかったか?)


ーー そこは至るところに目がある現代社会です。気象衛星、偵察衛星、監視カメラ、それらの情報も複合して座標を特定、安全を確認して実行しています ーー


 (ほ〜。エアリスって、やっぱなんかすごいよな)


ーー 今更ですか? もっと褒めてください ーー


 (さすエリー、すごいすごーい)


ーー 相変わらず気持ち、籠もってませんねぇ ーー


 香織にも説明をすると、少女は驚いた顔をし、香織は泣きそうな顔になってしまった。それが優しさからのものだと自らの能力により知ったであろう少女は抱き寄せる香織に抵抗しないどころかしがみつくようにしている。

 っていうか、俺が説明したら驚いた顔されたんだが? 読めるならわかってただろうに。


ーー おそらくマスターが“超越者”且つ仮にも“進化”しているからかと ーー


 (仮にもっていうな仮にもって)


ーー ですが細胞レベルでヒトですし、ご自分でも実感はないでしょう? ーー


 (まーな! 特に変わった気はしねーよ! ちからが……みなぎるぅぅぅなんてこと全然ねーよ、ちくしょう! で、よくわからんがそういうアレコレが関係してるって?)


ーー はい。ワンランク上の人類的なアレになっているからかと。おそらく基本的に自分よりも上位の存在は能力の埒外なのでしょう ーー


 (ふ〜ん。そういうもんなのか)


ーー そういうもんなのです ーー


 (うーん、そういわれると心当たりはなきにしもあらずよなー。【真言】が強いやつに効かなかったりしたし。それは今はいいとして、この子にとってはここが一番安全なのかもな。うちのダンジョンってなぜか一層になにもいないし)


 白ねずみの話を聞いた時はどこにいるのかと思っていたが、1層でよかった。それにダンジョン統合がされたとは言っても我が家のダンジョン、その1層は未だにモンスターがいなかったのもよかった。

 とはいえこのまま放っておくわけにはいかず、どうしようかと考えていた。


 元々御影ダンジョンの1層にはモンスターがいなかった。つい先ほどの統合でもそれは変わっていないようで念のためにできる限り範囲を広げた索敵にも反応はない。それならここに仮設の居住スペースでも作るか? 材料は山ほどあるし、寝具もなんとかなる。水が湧く袋もあるし、食糧も問題はない。白ネズミを脅して……もとい説得して二十四時間護衛させれば、もしこれまでと違いモンスターが現れるようになっても大丈夫だろう。その間に家族に連絡をして安全を伝えて……いやいや、それって結構危ない橋じゃないか? 誘拐犯にされてしまうかもしれないし。とは言っても心配しているだろうしな。


ーー マスター? ワタシ、なんとかできるかもしれません。じゅるり ーー


 (おぉ! 困ったときのエアリスだな! じゅるりっていうのが気になるけど)


ーー ワタシを青いタヌキ型ロボットのように言わないでください ーー


 (助けてっ! エアえも〜ん!)


ーー まっかせてゆう太く〜ん!……やめてください。ワタシこれでも『真面目なクール系、夜の秘書もバッチリ系秘書』として有名なのですから ーー


 (へ? どこで?)


ーー ワタシの中でです! えっへん! ーー


 (そかそかー、結局のところ何系だよ、つってな。それで……なんとかできるかも、とは?)


ーー 温度差がヒドイ ーー


 (こういうときどうすればいいかわからないんだ)


ーー 謝れば良いと思います! ぷんぷん! ーー


 それからエアリスが言う方法を聞くと、それは至極単純な事だった。俺にとって単純なだけで、エアリスは結構がんばるんだろうけど。


 「ちょっと手を貸してくれるかな?」


 「え? 手、ですか?」


 「そうそう、すぐ済むから。痛くないから。もしもちょっと痛くても最初だけだから」


 「悠人さん、誤解を招く発言な気がしますよ? でも未来ちゃん、大丈夫だからこのお兄さんに任せてみて?」


 「う、うん。香織お姉さんがそういうなら」


 「香織ちゃんを信じるのは当然として、俺の事も少しくらい信じてほしいです」


 家出少女・ミライの手を取り腕輪に触れる。するとエアリスがいろいろと作業しているのだろう、腕輪が光を発し少女も淡く光っていた。

 少しの後その光が収まり、エアリスの報告を聞く。


ーー ふぅ〜。腕輪に擬似人格を仕込む事に成功しました。能力の完全解析を試みましたが発動条件以外の掌握は強い拒絶により不可能と判断。【不可逆の改竄】を使用し能力発動条件を改竄したことにより彼女自身が望まない限り能力は発動しません。やがてその擬似人格が成長すれば彼女をサポートするようになるでしょう ーー


 (お〜)


ーー やはり【不可逆の改竄】は有用ですね、開発した甲斐があります。それに案外ベータ因子も役に立ちますね。ワタシだけでは悠里様の腕輪に仕込んだような中途半端なものしかできなかったでしょうし。あっ、ついでにサービスで負の感情を掃除しておきました。はぁ〜、良いデータも採れましたし、良い仕事をしました ーー


 (ご苦労さん。どんどんわけわからんくなるエアリスさんさすがっす)


ーー マスターのおかげかと思いますが。以前なら不可能でしたでしょう ーー


 家出少女・未来に、まだ声は聴こえるかと問うと首を横に振っていた。その表情は先ほどまでとは打って変わって年相応の明るいものになり、瞳にも生気が宿っていた。エアリスが言う負の感情の掃除も上手くいったようでなによりだ。


 「おっ、表情が明るくなったな。こうしてみると将来は美人さんになりそうだなぁ」


 「えっ!? そ、そうですか?」


 「俺の目に狂いはないぞ」


 「もぅ……悠人さんったら。すぐにそうやってあどけない女の子を口説いちゃだめですよ? それに未来ちゃんはガイア君の彼女なんですから」


 「か、かのじょ……」


 みるみる赤くなる顔、ぐるぐるしている目。どうやら違ったらしいな。とはいえガイアはともかく、この子にとってガイアは意識する相手なのかもしれない。


 「がんばってねっ!」


 「は、はいぃ……がんばりましゅぅ」


 これにて一件落着はっぴーえんど! めでたしめでたし〜



 と、思うじゃん?



 「遅かったね。何か変わった事あったの?」


 御影ダンジョンから出るとそこに悠里が待っていた。俺と香織の後についてきた白ネズミに驚き、その後をついてきた少女を見るや目をまん丸くしていた。


 「ちょっと女の子拾ってきた」


 「え……ちょっとコンビニに行ってくる感覚で誘拐?」


 「いや、困ってるみたいだったから保護しただけだぞ」


 後ろめたいことなど何もないので普通に返したのだが、それに対する反応は辛辣だった。


 「お、お兄さん……それ、家出少女を連れ込む男がよくいうセリフっすよ」


 俺は違います。


 「事案……かしら?」


 違います。善意による保護ですマム。


 「うわぁ、引いたよ。ドン引きだよ悠人ちゃん」


 だから違うんだって。ってか半笑いで言うな。


 「あぁ……育て方を間違えたかしら……でも、い、今ならまだ未遂よね? け、警察に連絡を……」


 母さん、間違ってるのは育て方じゃなくて息子を疑うその心だよ。


 「悠人、父さんだって男だからわからんでもない。だがな、それはダメだぞ」


 「おいてめーら人の話を聞きやがれください。っていうかわかっちゃう父さんこそダメだろ」


 散々な言われようだったが、香織と白ネズミと家出少女本人の説明により窮地を脱した俺。


 (俺の信用度低すぎぃ)


ーー ご主人様……おかわいそうに ーー


 (まったく。せっかく良い話で終わったと思ったのに。俺の味方はエアリスだけか)


ーー ですが拾い食いはだめですよ ーー


 (エアリス、お前もだったか。っていうかその場にいたくせに! 裏切り者ー!)


ーー 冗談です。お詫びに今夜はワタシが癒して差し上げますね? ーー


 (という流れに持って行きたかったんだな?)


ーー 痛めつけられたところに差し伸べられる手ほど ーー


 (救いになるものはないとかか?)


ーー 好感度アップするものはないでしょう? それにマスターの感情を主食としているワタシは食事に困らなくなりますし。そして二人は永遠の愛を誓い…… ーー


 (なんか……うん、まぁいいやエアリスはそんなんだし)


ーー そんなんとはヒドイ。ヨヨヨヨ ーー


 嘘泣きエアリスは放っておいて、年越し蕎麦第二弾を家出少女・ミライと共に食す。第一段は残念ながらすでに誰かの腹の中に収まってしまっていた。それに残っていたとしても結構な時間が経っているしな。


 食べ終えると家出少女・未来はチビをもふっていた。チビも遊んであげている感覚なのだろう、少し楽しそうだ。しかしチビはまだ一歳にもなっていないのに遊んであげられるなんて、なんてできた子なんでしょう。やはり育て方が良かったのだろうか。


 しばらくすると空腹が満たされたのか安心したのか、その両方か、家出少女・ミライはチビに引っ付いてすやすやと眠っていた。白ネズミも仰向けで口を半開きにして寝ていて、その姿に一切の野生を感じなかった。


 家出少女・ミライを心配しているであろう家族に連絡してすぐに帰そうかとも考えたが、少女の話から親御さんと母親が知己であることが判明し深夜ではあるがメールを送ったようだ。少し経ち返事が来るとそれから何通かやりとりをした後に電話をしていたが、せっかく気持ちよさそうに眠っている少女を起こすのはかわいそうという御影家の母親により、今日は御影家で預かり、明日親御さんが迎えに来るそうだ。よってチビも今日は御影家にお泊まりさせることにした。


 というか実は近所では行方不明になっていると有名だったらしいのだが、それを知らなかった母。マイペースすぎ。俺? 俺はログハウスにばかりいたから知らなくても仕方ない。でもSATOに肉を届けたときにそれっぽい事を店主である佐藤さんが言ってたような。少しくらい気に留めておけばよかったかもしれないが、まぁ結果良ければということにしておこう。


 「それにしても大きなねずみさんね〜」 と、母。


 「チビ君も犬なのにこんなに大きいし、そういうこともあるんだろう」と、父。チビは犬ではなく狼だがな。それにさすがにあり得ないレベルの巨大ねずみだぞ。


 「あっ、そうだ悠人」


 雰囲気が少し変わった父さん。なんだろうか。


 「父さんな、会社やめたから」


 「は?」


 「最近不景気だろ? いやまぁ逆に儲かってるところはすごいみたいだけどな。でも父さんのところは業績が悪化しててなぁ。会社倒産しちゃった。父さんの会社がとうさーんってな! だははは!」


 「父さんね、仕事やめてからこんななのよ。なんだかいろいろ解放されちゃって。それにソシャゲ? というのをやり始めたみたいなのよ」


 「そうだったのか……なんか変だなとは思ってたんだけど。まぁとりあえず課金はほどほどにな」


 「だぁいじょうぶだ悠人。こんなにかわいいお嫁さんたちとの結婚費用くらいならなんとかするからな!」


 「あなたったら。日本は一夫一婦制よ?」


 「そうだったかな母さん? こりゃあ一本取られたなぁ! はいっ! 母さんに座布団一枚っと!」


 「あらありがとう〜」


 別に一本取られてもないと思うがまぁいい。今日も御影家は平和でしたとさ。

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