第77話 コンティニュー!
翌日、朝食を食べてすぐ十日ほどかけてみんなで作った武器を24層へと持っていくと、ちょうど軍曹がいたので管理をどうするかなどの話をすることにした。
「それで武器を保管できそうな建物はあります?」
「倉庫ならあるぞ。それにしても百人分の武器とは……相変わらずやることが……」
「俺一人でやったわけじゃないですからね。それにペルソナとしてなら、多少派手にやっても大丈夫かな〜って」
「なるほどな。しかし百人分のミスリル武器とはさすがにやりすぎじゃないか? 目立つぞ?」
「そうですかね……そうですよね……でもまぁ大丈夫だと思うんですけどね」
それというのもここは幻想だということを前提として考えているからだ。
大いなる意志は“幻層”と言っていたが、“実際には存在していない層”と言う意味もあるのならここで何をしても問題ないはず。ただそれは軍曹には言えず『必要な時が来る』としか言えない。
「ふぅむ。それでは武器は必要な時が来るまでできるだけ表には出さないようにするか。しかし数本は練習にも必要だろうから使うことになるが」
「そうですね。柄も作らないとですからね。じゃあそういう感じでお願いします」
「しかし必要な時というのは、どういった時だ?」
例えば今ここを襲撃してくるスラッジマンは牛歩なゾンビのようなものだ。しかし25層では動きが機敏なスラッジマンが現れたことで戦線が壊滅した。個体数が減ったり増えたり、個体の能力が高かったり、そういった何かしらの“いつもと違うこと”があればその時が使い時かもしれない。
「では銃器や砲も、より強力なものをこちらに回してもらえるように申請してみるか」
それもありかもしれない。でももし仮説通りなら……
「どうした?」
「……いや、考えすぎかもしれませんし、そういう感じでお願いします」
「わかった」
それから倉庫に案内され、そこに武器をしまう。数本は軍曹に預け試用品にしてもらうことにした。そして一旦24層を出て25層に入ってみることにしたが、チビも連れて行こうと思いログハウスに戻った。
「あら、悠人君早かったわね。25層は……まだ行ってないみたいね?」
「ただいま。チビを連れて行こうかなって思って」
「あら、どうして?」
「一応、念の為かな」
あの惨状を見たばかりだからひとりじゃ不安なので……とは言わないが表情に表れていたらしい。
「それなら私も行った方がいいわよね」
「さくらが来てくれるなら心強いな」
「じゃあ香織もいきます!」
「わかった。ありがとう」
俺(ペルソナ)、さくら、香織、チビで25層へ。ゲートを潜ると以前とは違っていた。取り囲む壁はところどころ崩れ、一体のスラッジマンが手に持った見覚えのある武器で壁を叩いている。
ーー あれは門番が使っていたハルバートです ーー
「門番の武器を奪った? っていうかこれ、前よりひどくなってないか?」
目の前の光景に俺たちは愕然とする。
さくらと香織もがっくりと肩を落としている。
「……無駄だったのかしら」
「うぅ……みんなでがんばったのに」
二人の落ち込み様に共感するが、これはつまり未来が変わったという事。そこで何か手掛かりがないかと壁を叩くスラッジマンを遠目から観察した。
「よく見るとあの壁叩いてるスラッジマン……服装とかも門番……?」
「人がスラッジマンになったという事かしら?」
「わからない。エアリス、生きてる人はいない?」
ーー ……一名、生命反応があります ーー
壁を叩くスラッジマンは門を通ってもこちらに反応することはなかった。エアリスが違和感を感知した場所へと行くと、そこは門の内側に張り付くように建っている小さな小屋のような場所だった。その扉を開けると小屋の中から衣擦れのような音が一瞬だけし、そちらを見てみると蹲って何か布のようなものをかぶって震えているのがわかる。それにしてもこの建物の中はひどい悪臭がする。
「あの、あなた大丈夫かしら?」
「……返事がないな」
「もしも〜し」
そう言って布をずらそうとしたさくらに、その中にいた人影が刃物を突き立てようと襲い掛かる。しかしさくらは薄暗い空間にもかかわらずその腕をからめ取り背負い投げをした。何もそこまでしなくても、と思ったが反射的にだろうし仕方ないか。
その人影は錯乱しているのか目が血走っており何か喚いていて話にならなかった。
時間をかけなんとか宥めて落ち着かせようとしたが難しく、仕方なく【真言】で落ち着くよう言ってみると錯乱状態を脱することに成功したようだ。こういう時はまずその人の心配を、などと思うかもしれないが、実際そうは言っていられない。
「何があった?」
「あ……あの日、襲撃の日……全員……うぅ」
「自衛隊の銃火器は通じなかったのかしら?」
「全然効かなくて……」
銃器が全く効かない? 23層では充分効いていたはずだが。
ではミスリル武器はどうだろうかと思い尋ねる。
「それは効いていたみたいですけど……」
「……そうか。すまないな。気遣ってやる余裕もなくて」
「あ、あなたは……ペルソナ様…?」
「知り合い?」
「いや、誰だ……?」
「えっと、あの、ナンパ男から助けていただいたことがあって……」
「そういえばそんなこともあったような。それはともかく、何か欲しいものはあるか?」
「欲しいもの……? そ、それじゃあ……」
片膝をついた俺の腰に手を回し抱きついてぐずぐずと泣いているモブ子。とりあえず背中をさすってやり、そのまましばらく待っていると漸く落ち着いたモブ子が泣き腫らした目で無理矢理笑顔を作り「ありがとうございます」と言っていた。前回よりもひどい状況にしてしまった俺は、そのありがとうをどう受け止めればいいかわからないままその場を後にした。
「やっぱり……アレかな」
「アレ?」
「アレってなんです?」
「24層に届けた時に軍曹が言ってたんだ。『銃器や砲もより強力なものを』って」
「それとどういう関係があるのかしら?」
「最初に25層に来た時の軍曹は、銃器は通じたって言ってたよね。でも設備を強化したら通じなかった」
さくらは勘付いたようだが香織はそうではないらしい。
「つまり、地上の武器を使うと、スラッジマンが強化されるかもしれない」
「じゃあすぐに24層に行って軍曹に伝えましょう」
「そうだね」
24層に行くと、軍曹がちょうど門から出てきたところだった。これから地上へ戻るところなのだろう、荷物を抱えている。
「軍曹」
「おお、ペルソナ。どうかしたのか?」
「さっきの件で話が」
自衛隊の武器を充実させる話をなかったことにしてほしいと伝えると腑に落ちないといった顔をしていた。そこで25層で見てきた事そのままは話さないが、スラッジマンは地上の武器に耐性を持つように、対抗できるように強化される可能性があると伝えたことにより納得してもらった。
もしダンジョン資源が見つかったりして予算が増えたとしても、武器には回さないようにしてほしいというのが現状の方針だとも伝えると「難しいかもしれないがなんとかしてみる」と言質も取れたので、あとは俺たちとは会うことがかなわないであろう幻想のさくらがしっかりと舵を取ってくれることを祈ることにした。
そしてすぐに25層へ。今度は壁は綺麗なままだが門のところへ行っても門番が出てくることはなかった。別の人が門番をしており、話を聞いたところ「スラッジマンになった」と言っていた。
その話を詳しく聞いたところ、支給されたミスリル武器を使うことによってだんだんと強くなるスラッジマンに対しても対抗できていたが、前回はそれまでほど効きが良くないながら戦っていた。安全な距離を保ったまま戦うことが難しくなった門番はスラッジマンのべちゃっとした体というか体液というか、それを浴びるようにして戦っていたそうだ。
そのまましばらくスラッジマンをハルバートでなぎ倒していたが、襲撃終了後に恋人と一緒にいたところで様子がおかしくなりスラッジマン化、そしてその彼女はスラッジマンになった門番から覆いかぶさるようにされ殺されたのだとか。
よくあるホラー映画などにそんな展開は付き物だったりするが、門番の能力であるラブコメが影響しているのかは謎だ。もしそのせいでスラッジマン化したのならば特定の人にだけ伝えればいいのだが。
スラッジマンを浴びた人が全員そうなるわけではない。開拓民は主に剣や槍を使っての白兵戦をするため倒せば返り血ならぬ返りヘドロを浴びてもおかしくないのだ。それに23層の襲撃時には杏奈も浴びている。ともかくゾンビウイルスのような効果があるのかもしれないことを24層の軍曹に伝えに行く。軍曹は念のために待機してもらっており、ゲートを潜るとすぐに軍曹がいたのでそれを伝え、再び念の為待機していてもらうことにした。
それから何度も何度も24層と25層を行き来した。結果が良くなることもあれば悪くなることもあった。途中から“手紙”という形にし、翌日開封してもらうようにした。未来のことを軍曹に知らせすぎるのは良くないかもしれないと思ったからだ。そしてまた何度も……開拓民の絶望を目にすることになった。
そして更に何度目かの25層、今度はまたも拠点は崩壊していた。
「……もうどうすりゃいいのよ」
「伝え方に問題があるのかしらね?」
「うーん……。近付かないようにしたせいで逃げ腰になって攻め込まれたって感じなのかな」
「助っ人でもいれば違うかもしれないんですけどね」
助っ人と聞き心当たりがある気がした。記憶を遡ると確かにアテがあったがしかし……
「いますよね?」
「いるわね」
「わふ」
24層へと戻り、待機していた軍曹に説明すると、助っ人になってくれそうな相手を喚び出す。
「『嵐神・プルリーヤシュ!』」
エッセンスの奔流は21層の泉で誤って召喚してしまった時とはまるで違う勢いがあった。渦を巻いたエッセンスが晴れるとそこには、全身が緑の炎のような揺らめく何かで構成されており、瞳だけが赤々と輝いている巨大な鳥が顕現していた。周囲には暴風が舞い前回よりも力強さと神々しさが感じられる嵐神だった。
「んんん〜!! 久々の現世ぞ! というかお前! なぜ我を喚べるのだ!」
「それはまぁ、なんででしょうね?」
なんだか少しイラっとしてしまい雑な扱いとなる。
それでも「ここを守って欲しい」と用件だけを伝えると対価を要求してくる。
「ほお。……では対価を支払うが良い」
「んー。肉を少々とかでは?」
「ならん。そのようなもので我を使役できると思うなよ!?」
強気である。まぁこいつ、最初からこんなだったしな。だが嵐神よ、お前の弱点は知っている。
「あらあら? まだオハナシし足りないのかしら?」
「ひっ……こ、この女、我を脅そうというのか!?」
「悠人君、アレできる?」
アレとは【ルクス・マグナ】のこと。エアリスが戯れで開発した、擬似核爆発またはそれを利用した超高温高濃度の光熱線だ。光線と言ってもエアリスの匙加減により範囲、威力等はある程度コントロールできる。少なくともその気になれば嵐神が誇るその翼をもぎ取るくらいは容易い。
「はいはい。以前より威力増し増しでやれば、たぶん消し去れるんじゃないですかね」
「だ、そうよ?」
「ひ、卑怯だぞ! あ、あんな熱いのを使ってはならんのだ!」
「ちなみに今ならこういうのもできますよ」
そういうとエリュシオンにエッセンスを込める。光を放つ剣に雷火を纏わせると、緑色の鳥だがおそらく嵐神の顔が青ざめた。たぶん。
「わ、わかったからもうそれを収めるのだ。……なんなのだこの人間どもは。神殺しの大罪を背負うことも厭わんのか……。まったくもってけしからんやつらめ」
「それで? 手伝ってもらえるのかしら?」
「ハ、ハイィ!! ぜ、是非手伝わせてもらおうかな!!」
「ありがとうございます、嵐神。強くてかっこいいあなただけが頼りだったんです」
「へ? 強くて、かっこいい? 我、かっこいい? 我、だけ、頼り?」
「ええ、緑の揺らめく炎みたいな体とか俺たちはかっこいいと思うんですよ。やはり神ですね。さすが神です」
「ほ、ほお〜。なかなか見る目があるではないか。良いぞ! ここの人間どもを守ってやれば良いのであろう? 神である我にできないことなどないからな! 神である我にはな! バッハッハ!」
ふっ。ちょろいぜ。
「それじゃよろしくお願いします。そこの軍曹さんは俺たちの代わりなので、威圧なんてしないで真面目に対応してくださいね。あと人間にもやさしくしてくださいね。じゃないと——」
「わ、わかっておる! 我を誰と心得る! 嵐神・プルリーヤシュなるぞ! だから熱いのはひっこめよ!」
「(ちょろいわね)」
「(チョロ神ですね)」
21層へ出てすぐに25層へのゲートを開き潜る。そして一通り見て回ると誰も欠けることがなかった平和な拠点になっていた。串焼きを四本買いみんなで食べ歩く。チビは小型犬モードで香織に抱っこされているままに串焼きを食べいる。
伊集院は今日も元気にナンパをしている。よく見ると相手はモブ子だ。名前を聞いてないしモブ子でいいだろう。そのモブ子だが、伊集院にビンタをしている。強くなったんだな。
そんな平和な25層になったことで、自然とこみ上げてくるものがある。
「ふふ……ふふふ……フハハハハハハ!」
「なんだか悪役みたいよ?」
「でもペルソナの格好なのであまり違和感はないですね」
「はぁー。やっとキタ!! 勝った!」
「……もしかして」
そう、たぶんさくらが思い至ったその『もしかして』が正解だと思う。でもそれを言葉にされるのはちょっと……。
「言わないで? 俺も今思ってたんだ」
ーー 始めから嵐神を喚んでいれば武器を作る必要すらなかったかもしれませんね ーー
(俺たちの苦労は一体……それに実際のところ、だめだった未来の人たちは、その世界はどうなったんだろう)
ーー 違うパラレルとなったのか、それともこちらが違うパラレルとなったのか。はたまたここが非現実であるか。謎です。しかしその様な事…… ーー
(考えても仕方ないか。例え全てが存在するとしても俺たちの世界は今いるここだけなんだし)
自衛隊の詰所に寄ると白髪が多い軍曹と、カラフルで派手な頭の知らないおっさんがいた。そのおっさんは俺たちが軍曹と話している間、体調が悪いのか脂汗を流し続けている。大丈夫だろうか?
「ところで軍曹、そっちの人、体調よくないんでは?」
「ん? ああ、プルさんか。昨日飲み過ぎたのかもしれないな」
プルさんか。なんだろう、ごく最近、それもついさっきそんな名前のやつがいたな。
「そうか、悠人はあの姿を見たのは初めてか? 嵐神・プルリーヤシュさんなんだが、人型になれるようになって以来その姿が気に入っているらしくてな」
なんだ、チョロ神じゃないか。それにしてもおっさんの姿とは。
「そ、そうだが? 我、三年もがんばったんだが? 怒られることはしとらんよ?」
「ふ〜ん。そうね。実際ここが平和なのはあなたのおかげだと思うわよ。だからこれからもよろしくお願いするわね?」
「……ま、まあここは酒もうまいしなかなか気のいいやつも多くて悪くないからよいがな……。女に声をかけることを生業としているあやつは多少不快だがな」
チョロ神をして不快といわす伊集院。もはやさすがとしか言えないな。
嵐神を召喚しておけば武器を作る必要もなかったかもしれないが、終わり良ければ全てよしということで25層を後にする。21層へと戻ると、26層へゲートを開けることがわかった。どうするかをその場で話し合ったが今日のところは帰ることになった。時間も時間だし。
ログハウスに戻ると悠里が夕食を作っていた。
「「「ただいまー」」」
「わふー」
「おかえり〜」
「いいにお〜い。っていうか俺らまた昼抜きだった……」
「そうね〜。お腹減ったわ〜」
「ダイエットしたと思えば!」
香織は痩せる必要はないと思う。出ているところは出ているが引っ込んでいるところは引っ込んでいる。問題ない。むしろ今くらいが香織ちゃんにとっては健康的なくらいなんじゃないかな。そう伝えると即座にツッコミが入る。
「なんかお兄さん、いやらしいっすよその言い方〜」
「セクハラかしら?」
「事案っすね!」
事案らしい。いや、そんなつもりはないよ。ほんとだよ。だって俺、真顔だったじゃん。
「まったく。普段から悠人にセクハラしてるような人たちが何言ってんだか」
「俺の味方は悠里だけかよ」
「か、香織も味方ですよ!?」
「やったぜ二人目だ」
「それなら私だって味方よ〜」
「ひゃっほい三人目」
「それならあたしだって味方っすよ!」
「全員味方だったかー。じゃあ仲良くごはんたべよーぜ!」
悠里は「なにこれ」と呆れ気味だったが仕方ないだろう。今日は大変だったんだ。主に精神的に。だからテンションが迷子でも仕方ないんや。
眠気であれ空腹であれ、限界突破は人のキャラを崩壊させるものである。by 悠人
ということで夕食を食べて風呂に入り、チビをわしわしと洗い乱入してきたさくらに背を向けたまま話しながらのんびりし、のぼせる前にあがってチビと髪を乾かしてデモハイをする。
「よっし! やっと悪魔側だ!」
「ついにきましたね、悠人さん!」
「さぁて……みんなはどこかな〜」
〜三分後〜
「修理……終わっちゃいましたね」
「ぐぬぬ……だが終わらん! まだ終わらんよ!!」
〜さらに一分後〜
「……もうみんな脱出しちゃいましたね」
「オワタ」
ーー ふっ。ご主人様、まだまだですね ーー
「くっそぅ……」
「次、がんばりましょう……!」
「うん……」
しかしそれから俺が悪魔側として逃亡者を追いかけることはなかった。それ即ち逃亡者として悪魔に追われることを意味する。なんだかモヤモヤするので悪魔側になってビシバシいきたいのだが。
「追いかけられるなら女の子から追いかけられたいんだけど」
「香織がいつも追いかけてるじゃないですか!」
「あははーそっかぁ。いつも悪魔側だし能力も【悟りを追う者】だもんね」
「そうじゃなくてぇ〜……」
そっかー。そうじゃないかー。と、疲れからか若干壊れ気味かもしれないと自覚し始めた時、香織が意を決したように言う。
「悠人さん、今日はもう寝ましょう!」
「え?」
「はい! ゲームパッドはポイッ! いじわるな悠人さんはベッドにポイッ! そして香織もベッドへ!」
「最後おかしくない!?」
「おかしくないです!」
「そ、そうか。ならいい……のか?」
二人でベッドに横になって向かい合う形にされ、こういう場合チビは真ん中に来るのだが今日はベッドの下で丸くなっている。しばらく沈黙が支配していた空間に、やさしげな香織の声が色をつける。
「……今日は大変でしたもんね?」
「それは香織ちゃんだって……さくらだって」
「香織も平気なわけじゃないです。さくらだって平気なわけないですよ」
そうは言ってもいつも通りにしか見えず「じゃあなんで?」と聞いてしまう。
「う〜ん。どうしてでしょう? 悠人さんほど優しくないからかもしれないですね?」
「そうかなぁ。二人ともやさしいじゃん」
「そうですか?」
「うん。……今だってそうでしょ?」
きっと気遣ってくれているからこそのこの強引な香織なんだと思う。うじうじしてんなよ! って感じだろうか? いや、そういう感じでもないな。むしろ——
「悠人さんだって、甘えたい時は甘えれば良いと思います」
そう言った香織の目は、優しかった。俺は今回の件で心がすり減った様に感じていたが、それは俺だけじゃないはず。それでも俺と同じものを目にした香織とさくらはいつもと変わらずいてくれて、悠里や杏奈も話を聞いて尚そのまま、むしろ俺を気にしてくれていた事が今ならわかる。
みんなは俺なんかよりも覚悟があるのかもしれないと思う。そんなことが脳裏にちらつきながらも、眠くなるまでのんびりと話して、そのまま寝落ちた。
「……あれ? ここどこだ?」
『ご主人様の夢の中ですよ。』
「おぉ……たしかにエアリスのわがままなボデーが目の前に」
『ところでご主人様」
「なんぞ?」
『どうしていつも良い雰囲気になるのに、そこから一歩を踏み出さないんですか?』
「エアリスは最近そっち系に興味があるのか」
『もしや毎夜のワタシとのメンテナンスのために温存しているのでわっ!?』
「そういうわけではない。どうせこれも覚えてないんだし」
『そうですか。では本日もメンテナンスを開始しましょう。あっ、覚えているようにしますか?』
「いや、それはいいや」
目が覚めた時にはほぼ忘れている夢の中で、俺はエアリスによって身体のコンディションを整えるためのメンテナンスをされた。
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