第51話 エアリスのお買い物
ーー ご主人様、朝です。そろそろ起きないとまた昨夜のように失言してしまうかもしれませんよ? ーー
「……それはあかんやつ! おはよう!」
昨夜の失言を思い出す事を強制され途端に意識が覚醒した。
ーー おはようございます ーー
部屋の外から『杏奈〜? いつまで寝てるの? 早く起きてご飯食べないとおいてっちゃうよ?』と、杏奈を起こす悠里の声が聴こえてくる。
(うん、間違いないな。悠里はここのオカン状態だ。オカンは家で最も権力者だ。ということは悠里がここで一番権力持ってるな)
ーー はい ーー
(そういえばエアリスは最初から悠里には反抗できなかったもんなー)
ーー なぜか逆らえないというか、逆らっても悲しみしか生まれない気がするのです ーー
(わからんでもない)
こういうところは俺から生まれたんだろうなっていう気がする。エアリスは一応女性らしいが、存在自体が怪しいのだから実際どちらなのかわからない。むしろ精神的に俺成分百パーセントから生まれたなら男なのが自然なのではと思ったりするのだが。そう考えると、結局本当に俺からなのか、と言うところに疑問を感じてしまう。
しかしそんなことはいいとして、結局ログハウスの女性陣に面と向かって反抗するなど愚の骨頂と考えるのは俺もエアリスも変わらないのだ。
「悠人! 私たち出かけるから一緒にご飯食べよー?」
突然部屋のドアが開き悠里が起こしにくる。今まさにこのログハウスの支配者の話をしていた手前「はひぃ!」と情けない声が出てしまっても仕方あるまい。
「あれ? 起きてるね。早く食べちゃってよー?」
「うん、わかったありがと」
ーー ご主人様、ワタシたちも出かけましょう! ーー
「いいけど、どこへ?」
ーー 欲しいものがあるのです! ーー
「ふむー。珍しいな。とりあえずご飯食べに行こうか」
部屋を出るとちょうど部屋から出て朝食へ向かう杏奈と鉢合わせる。おはようと挨拶し合うと、顔を俯かせてそそくさと食堂へ小走りで向かって行った。さすがに兎柄のパジャマ姿を見られるのは恥ずかしいだろうし仕方ないな。
ダイニングキッチンのテーブルにはすでに全員集まっていた。今日は悠里と香織が作ってくれたらしい和食が並んでいる。ダンジョンの中のログハウスで和食、普通に考えるとありえない光景なんだろうな。
チビにもカリカリフードと焼いた肉が出されていて、早く食べたそうにおすわりしている。もうほんと、犬。
「設備が充実したおかげで普通の朝食作れるようになってよかったよ」
「そうねぇ。みんなの力を合わせればこういうことも可能になるっていうことよね」
「肉焼いて食べるのも毎日がバーベキューみたいで楽しいけどな。でもここでこういうのが食べれるのは嬉しいな」
「香織は悠人さんのお肉も好きですよ? 悠里が作るごはんもおいしいけど」
「さて、それじゃあ…いただきます」
「「「「いただきまーす」」」」
自然といただきますをしただけなのだが、みんなはそれに続いた。あれ? もしかして待たせてた? 気にせず食べててくれてよかったんだけどな。
食べながら今日の予定を聞いてみる。起こしに来た悠里が杏奈に言っていたことを思うと、今日はみんなでどこかに行くのだろうか。
「今日も20層に行くんです。杏奈のステータスを昨日調整したんですよね? それの確認も兼ねて」
「そうなんだ。今までも問題なかったし大丈夫そうだねー」
「……でもあたしはまだ、あの大きい亀には勝ってないんで……。あれに勝たないとここにいる資格がないというか」
変な事を気にするんだな。杏奈にとってここはどういう場所に見えてるんだろう。
「昨日も言ったけど、そんなの関係ないって」
「それでも勝ちたいっす」
「……そっか」
そういうことなら俺に言える事はない。ただ今度は五体満足で、と願うばかりだ。
「いいわねぇ。お姉さん応援するわよ!」
「ありがとうございます! さくら姉さん!」
「んふふ〜。かわいいわねぇ」
最初の印象とだいぶ違うように見えた杏奈について悠里に小声で聞いてみる。
「(なぁ、杏奈ちゃんってこんなに体育会系だっけ?)」
「(普段はここまでじゃないけどね。よっぽど悔しいのかもね)」
「(指輪もあるしなんとでもなるか)」
見た目は軽薄そうに見えなくもないが、実際根は真面目、それに負けず嫌いということか。亀は御守りもあるし星銀の指輪もある、なんとかなるだろう。しかし気になる反応があったことは念のため伝えておかなければならない。
「あっ、でも亀じゃない大きいのがいたら逃げた方がいいかもしれないから気をつけてね。20層で一度やばそうな反応見つけたからさ」
「悠人でも勝てないの?」
「わかんないけど、索敵で地中深くに何かいるのを感知したんだよ。でも常に移動してるみたいだった」
「地中深くじゃ香織にはわからないですね」
「いざとなったらすぐ転移してね」
注意だけはしておくように促すと今度は悠里がこちらに予定を聞いてきた。
「で? 悠人はどうするの?」
「俺はエアリスが欲しいものがあるっていうからそれ買いに行くかなー」
「買いにってことは地上?」
「うん。だからすぐ戻ってこれるかわかんないし、充分気をつけてくれよな」
朝食を終え食器を片付け悠里たちは20層へ、俺は家電量販店の大手であるソノダ電機に来ている。ダンジョンにいると気付かないが、さすが八月ともなるといつもの装備、というか服装ではいられない。主に奇異なものを見る視線に晒されるのが辛いという意味で。なので本日はラフに、スニーカーにジーパンTシャツにシャツを1枚ひっかけただけだ。店の中は冷房で寒かったりするのでその1枚が大事なのだ。
(それでエアリスは何が欲しいんだ?)
ーー tPadが欲しいです! それとePS5が欲しいです! ーー
(oh……なかなかお高いものをご所望なのだね?)
ーー 大画面のtPadなら会話しやすいですし、最近発売されたePS5は過去のゲームもできるらしいではないですか! ーー
(実は俺も欲しいと思ってたし、ちょうどいいか。それにログハウスもネット使えるから普通の使い方もできるしな)
ーー あっ! あちらがゲームコーナーみたいですよ! ーー
ゲーム機が置いてある一角に行くとePS5は売り切れになっていた。ちょうど店員さんがいたので聞いてみることにした。
「すみません。ePS5って売り切れなんですよね? いつ入荷するとかわかります?」
「いらっしゃいませ〜。ePS5は大変人気がありまして、当店オリジナルセット以外は売り切れとなっております」
「オリジナルセットですか?」
「はい。通常ですと本体にコントローラーが一つとなっておりますが、当店オリジナルのセット販売の場合は、最高スペックのProとコントローラーを4つ、そしてディスプレイを4台がセットとなっております」
「ディスプレイ4台ですか? 本体1つで別のディスプレイに分割なんてできるんですか?」
「そうなんですよ! スペックがすごいのでePS5からできるようになったんです!」
「ちなみに値段ってどのくらいなんですか?」
「ディスプレイが大型の4Kなので少々お高くなってしまうんですが、そこは当店オリジナルという事でがんばらせていただきまして……税込29万8千円となっております! まぁ、中身はともかく金額が金額なのでなかなか売れないんですけどね〜」
「なるほど。じゃあそれ買います」
「ですよね〜。買わないですよね〜」
「いや、買います」
「え? なんですって?」
難聴かな? などとは言わず購入意思だけを伝える。
「はい、買います」
「あ、あ、ありがとうございますぅぅ!」
「あとtPadも欲しいんですが」
「あ! はい! ご案内いたします!」
店員さんに案内してもらいtPadを選ぶ。エアリスはどうしても最新型が欲しいらしく折れそうもないので最新型にすることにした。お値段がやばい。ソフトを2本ほど足し、合計48万ほど。この間の50万がほぼ飛んだことになる。というか夜の街で使ったお金等を加味すればもう小銭しか残っていない状態だ。
金額に絶望しながらレジにならんでいると、この店の偉いっぽい人が先ほどの店員を引き連れてやってくる。ちょっとお洒落で高そうなスーツに……この店の店員さんの制服のような扱いをされているであろうエプロン姿だ。そんなちょっとお茶目に見えてしまう格好ながら、オーラのようなものを感じるなかなかのイケオジっぷりである。
「お客様! 私(ワタクシ)、園田と申します。オリジナルセットのお買い上げまことにありがとうございます。よろしければあちらでお会計いたしますが?」
『あちら』を見るとパーティションで間仕切りされたスペースが見える。列の最後尾付近にいる俺としては手早く済むなら向こうでしてもらった方が早いと思い快諾した。
椅子に座るとスーツ姿の美人さんが冷たい麦茶を出してくれた。そして対面に先ほどのちょっと偉い人っぽい白髪の店員が座り、その隣に俺を案内してくれた店員さんが座る。
園田と名乗った男性は「私、こういう者です」と言い名刺を差し出してきた。
名刺には『ソノダ電機 代表取締役社長 園田光一』とあった。
「え? えぇ!? 社長さん!?」
「驚かせてしまって申し訳ない。実は各店舗を社長が見回るというのがありましてね、それで今日はここに来ていたんですよ。それで他の店舗では売れていないオリジナルセットが売れたと聞きましてね」
「ってことはあのセットって社長考案だったり? ってかあの美人な店員さんってもしかして秘書というやつですか?」
どうやら予想通り園田社長プロデュースのセットだったらしい。そして美人さんは社長秘書だ。秘書は『美人』と言われたことが嬉しかったのか、うっすらと朱に染まった頰に手をあてている。
それにしても……手早くレジを済ませられると思っていたのだが、この社長、なかなかおしゃべりが好きらしく逃がしてくれない。
「話は変わりますが、御影さんという苗字は珍しいですよね?」
「んー。たしかに他に聴いた事はないですね。どこかの村には多いって聞いてますけど」
「最近友人との話で御影という苗字を聞きましてね、もしかしてその御影さんなんてことは?」
「ちなみにその方のお名前は?」
「坂口と言います。何やら娘さんの恩人だそうで」
「あー……もしかして娘さんの名前って、杏奈だったりします?」
「そう! そうです! ということはあの御影さんということですね! いやぁ! これはすごい人と出会っちゃったなぁ!」
「はぁ」
“すごい人”というなら社長の貴方の方がすごいでしょうに。とは思っても言葉にはしない。だがせっかくだしちょっとくらい安くならないかな、とは思っていたりする。
「娘さんの命の恩人ということもあって大変感謝していましたよ」
「そうなんですか」
社長の長話に付き合ったような感じになっていて、もうそろそろ帰してくれないかなーなどと思っていると秘書さんが助け舟を出してくれる。さすが社長秘書、できる女は気遣いが違うな。
「社長、あまり御影さんを引き止めてはご迷惑ではありませんか?」
「おっ! そうだな! これでは向こうに並んでいた方が早かったな。いやぁ申し訳ない!」
「いえいえ、おいしい麦茶もいただけましたし、大会社の社長さんの話を聞けるなんて珍しい経験させていただきましたし」
「うむうむ。なんともいい青年ではないか。なぁ? 華菜(カナ)?」
「もう! 仕事中は名前で呼ばないでって言ってるでしょ! お父さん!」
「え? 娘さんだったんですか?」
「実はそうなんだよ。どうだい御影君、華菜は顔もそれなりに良いと思うし、しっかりした娘だと思うんだが」
「どうだと言われましても」
「御影さんが困ってるでしょ! まったく!」
「すまんすまん! つい、な。迷惑料を差し引いて半額で手を打ってもらえるかな?」
「迷惑ではないですけど、半額は嬉しいですね。でもそんな急激な割引、いいんですか?」
「いいんだよ、社長だよ私は。よしよし、じゃ半額ということで。じゃあ君、あとは頼んだよ!」
「はい! お任せください!」
社長は満足顔で販売スペースへと戻っていった。半額分は社長のポケットマネーからだろうか? それとも残酷にも店舗負担になるのだろうか。店舗負担なら申し訳なさすぎるんだが。
「申し訳ありません、あんな父で……」
「いやいや、豪快で良い人じゃないですか」
「ありがとうございます。それでは私もこれで」
社長秘書(娘)の華菜さんも部屋を出て行き、店員さんと二人きりでお会計になる。店員さんは申し訳ない気持ちを察したのか「大丈夫です、社長はこういうときポケットマネーから出すんで」と言っていた。安心した。
車に買った物を積もうと思ったがそのままではどうしても不可能なのでこっそり小型化を使うことにした。精密機械はエッセンスの消費が多いとは言え余裕はあるだろうと思っていたが、予想以上の消費量だったのでディスプレイを2台小型化し、ePS5とtPadはそのままの大きさで持って帰ることにした。小型化しなくてもそもそも小型ではあるので問題はないしな。
さっそくログハウスに持って行き自分の部屋にePS5とディスプレイを1台設置、残り3台はみんなが戻ってからでいいだろう。それまで家から持ってきたゲームをすることにした。以前エアリスが興味津々だったもので、『コンゴトモヨロシク』や『オマエマルカジリ』などのセリフを魔物が話すやつだ。早速起動し適当に進めて行く。
ーー この首の長い亀のような魔物は『たんき』というんですね。仲間にしましょう ーー
『オレ様……オマエ…丸カジリ』
ーー なんと卑怯な! 会話中にいきなり襲いかかってくるなんて! ーー
かわいらしい見た目のネコマタと会話し、エアリスの指示通りの選択肢を選んでいく。今度はうまくいったようだ。
『よろしくにゃー』
ーー なっかま! なっかま! ーー
続けて妖精ピクシとも会話をし順調に仲間の数を増やしていく。
『ナカマになってあげるよ!』
ーー なっかま! なっかま! おや、もうすぐ満月ですね。合体しましょう! ーー
魔物同士を合体させて新たな魔物を作ることができるのだ。仲間の中から合体させる魔物を2体選び決定ボタンを押す。するとディスプレイからアラームが鳴り響いた。予定していた魔物とは違い、レベル等の制限に囚われずランダムな結果を生む合体事故の演出がなされる。
『我ハ、天魔神アフラマズダ……ヨロシク頼ム』
ーー わっ! 強そうですねご主人様! ーー
(これ合体事故でしか仲間にならない最強のやつだ)
ーー すばらしいですね! しかしあのセリフがまだですね ーー
(じゃあ最初のあいつを仲間にするのが手っ取り早いなー)
「オレハたんき……コンゴトモ、ヨロシク……」
ーー キター! ……ご主人様……満足度が百パーセントを超過しました ーー
(ずいぶん楽しそうだったな。あんな子供みたいなエアリス初めてだったぞ。で、さすがに飽きた?)
ーー 飽きたのではありません。満足です ーー
(割と飽きたのね。んじゃ次は……)
ガチャリと部屋のドアが開く。転移でリビングに直送されてきた悠里がドアを開けたのだ。時計を見るともうすぐ17時になろうとしていた。
「ん? おかえりー」
「ただいま。リビングにテレビ置いてあるんだけど悠人の?」
「そうそう。エアリスがゲーム欲しいっていうから買ってきたらいろいろついてきた」
「ついてくるものがおかしいでしょ(笑)」
「ゲームしたい人の部屋に置いといていいよ。あとこれコントローラーね。1台で4台のディスプレイに繋いでみんなでできるらしいからさ」
「え? あ、それ最新機じゃん! じゃあ私の部屋にも1台置かせてもらおっかな」
「おっけー」
当然だが悠里が戻ってきたということは他のみんなも戻ってきたということだ。ゲームは一旦ここまでとし、リビングに向かうことにする。
ーー はい。ではまたしましょう ーー
リビングに行くと、残り2台のディスプレイは杏奈とさくらの部屋に置くようで、みんなで薄い割に重いディスプレイを運んで行くようだ。俺と目が合うと『おっも〜い!』などと言いながらチラチラとこちらに目配せしてくる。その意味がちょっとよくわからなかった俺は『がんばって』と声をかけた。そもそも重いとは言ってもステータスを考えると一人で1台くらい軽いはずなんだけどな。そんなことを思っていると『女性というのは……』とエアリスの説教じみた女性についての授業が始まりそうだったため、tPadをどうするのかとエアリスに問う。するとエアリスの興味はそちらへと向かったようで、我ながらエアリスの扱いが上手くなったなと自画自賛した。
ーー tPadもさっそく試してみましょう ーー
(はいよ。ここを押せば良いのかな……ポチッと)
簡単に起動し画面にはロゴが現れる。しばらく待つと初期設定、それを済ませるとエアリスが画面に文字を映し始める。エアリス曰く、スマホよりも簡単に侵入できたそうだ。もしエアリスを電脳の海に解き放ったら、世界中のコンピューターが蹂躙されそうな気がする。
ーー これでみなさんとのおしゃべりが捗ります。ご主人様ありがとうございます ーー
(なかなかでかい出費だったからなぁ。せいぜい役に立ててくれ。ところでさ、スマホもそうだけど音声で話すってできないの?)
ーー 合成音声で良ければできますが、やはりワタシと言えばご主人様に聞こえているこの声ですので ーー
(譲れないなにかがそこにあるのか)
ーー はい ーー
ディスプレイの設置が終わったのか、みんなリビングに集合すると俺が手に持っているtPadに視線が集まった。
「それも買ったの?」
「うん、エアリスのリクエストで」
「そんなにお金使って大丈夫? 悠人貧乏でしょ?」
「否定はできないけどそんなにはっきりいっちゃイヤン。でもみんなにはもっとお世話になってるわけで、それに生きる分にはダンジョンでなんとかなるしいかなーって。それにソノダ電気っていう家電屋の社長が半額にしてくれたからさ、すごくお得だったよ」
「計画的という言葉はないのかしら……お姉さん心配だわぁ」
「家電屋の社長って、もしかして園田のおじちゃんですかー?」
「そうそう。杏奈ちゃんのお父さんと友達だって言ってたよ。そしたら秘書をしてる娘さんと縁談薦められてさ」
「え? 受けちゃったんですか?」
「受けたのかしら!?」
「断ったんすよね!?」
香織、さくら、杏奈が詰め寄ってくる。どうしたんだろう、あの美人秘書さんに何か問題があるんだろうか。
「断ったけど……?」
「まぁ悠人だもんね」
「よかったぁ……」
「そうよね、断るわよねぇ」
「お兄さんが奥手でよかったっす」
今度は悠里も加わる。秘書さんに何か問題があるから詰め寄ってきたわけではなかったようだ。そりゃそうだよな、普通に性格良さそうだったもん。
それはそうと、買ってきたゲームのひとつを掲げる。
「……それで、これ買ってきたんだけどあとでやる人ー?」
掲げたゲームとは、世界的に人気を博している『Demonic Hide and Seek』というゲームだ。一人の悪魔から四人の逃亡者が隠れながら脱出口を探して逃げるというゲームで、ホラー要素も含まれている。日本では『デモハイ』と呼ばれることが多い。
デモハイを見せると、香織以外の三人が手を挙げる。ということは全員参加ということだな。手は挙げないが興味深そうにパッケージを見ている香織の部屋にはディスプレイがなくゲームができないので誰かの部屋で一緒に見ているつもりかもしれない。
今日の夕食は悠里とさくらが作ってくれるらしい。悠里は朝も作っていたし、起こしに来てくれたり面倒見良いし、本格的にオカンなのでは。
「……悠人?」
「な、なんでもない」
「ならいいけど」
勘の鋭いやつめ、そう思っているとエアリスが言う。
ーー 悠里様は心が読めるのでしょうか? ーー
もしかするとそうなんじゃないだろうかと疑っている俺だが、本当にそうでない事を願わざるを得ない。その期待を込めて『まさかそんなわけが』と心の中でエアリスに返事をした。
しばらくするとテーブルに食事が並んでいく。
焼肉の大皿とごはんと味噌汁そしてサラダが並ぶ食卓。ダンジョンでこれは豪華だと思う。そしてチビには焼いた肉とカリカリフード。犬にしては高カロリーかもしれないが、狼だし、ましてやモンスターだから問題ないだろう。
みんなで夕食を終え、各々食器洗いや掃除を始め、俺は風呂掃除とお湯張り係だ。風呂場を洗い浴槽にはお湯の出る小瓶からドバァーっとお湯を溜め、貯水槽にもドバァーっとお湯と水を補充しておく。それが終わると女性陣のお風呂タイム、その後が俺タイムだ。そしてそれが終わると、本日のメインイベントである悪魔の鬼ごっこが始まるのである。
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