第27話 夜の座談会にて3


 香織やエアリスと話している間にようやくみんな普段通りに戻ってきた。

 冷静になってからの話題はやはりと言うべきか俺のステータスの数値について。


 「それで、悠人君のステータスはオール100なの?」


 店長の質問に、逃がしてくれないだろう空気を感じ、腹を括る。それにこの人自体がチートだし、お話で解決するのも得意なようだし、敵にするより味方になっていてほしい。


 「はい。そうなるように設定してます」


 「設定? 自分で操作できるっていうことかしら?」


 「ある程度は」


 「私のもできるかしら?」


 「店長さんは余剰分の経験値がないので増やすことはできません。今あるステータスの中で融通し合うことくらいならできますが…」


 「ん〜。それならこのままでいいかな? 特に不満も不便もないし」


 店長の場合、使う武器は能力で作り出した銃だし、そのままでも問題ないように俺も思った。


 「自分のはできるだろうか?」


 「軍曹さんのも余剰分がありませんね。これは思いつきですが、モンスターを倒した時の黒いモヤ、エッセンスと呼んでいるんですが、それのほとんどを店長さんが回収していたりしませんか? それと黒い石も。」


 「そうだが、どうしてわかるんだ?」


 「あぁ、やっぱり。確信はなかったんですが、店長さんの能力は燃費があまり良くないことと店長さんのステータスの高さが俺にとっては不自然というか。その燃費を支払えるだけのエッセンスがありながらステータスが高い、つまりそれだけの量のエッセンスを吸収していることになるな、って」


 能力の使用にはエッセンスを消費していること

 腕輪は常にエッセンスをエネルギー源として維持費にあてていること

 蓄積されたエッセンスが経験値へと変換された中から消費されてステータスになっていくこと

 ステータスの上昇は通常はおそらく微々たるものであること


 だいたいわかっていることを説明した。その中には悠里も初耳なことが含まれている。俺も昨日まで知らなかった事もあるし当然といえば当然だ。


 「なるほどね。エッセンスはMPみたいなものなのかな?」


 「そのMPの素みたいなものでもあると思う」


 「私にとっては銃の弾丸かな?」


 「銃の弾丸、それを形作るための素材の素、そしてその素材を弾丸にするためのエネルギーであって、撃ち出すためのエネルギーでもあります。それに弾丸を撃ち出すための本体にも、です」


 「悠人さん、それならエッセンスというのは、全ての素ということですか?」


 「たぶんその解釈でいいと思う。俺も詳しい事はわかってないよ」


 「なるほどね〜。私の場合は撃ち出すまでの工程と必要なものが多いから燃費が悪いということね」


 「そうです。それをおそらく高頻度で使い続けていることで、余剰分の経験値として蓄積されるエッセンスを消費しているんじゃないでしょうか。ステータスが高いのは能力による影響が大きいのではないかと思います」


 「う〜ん。難しい話ね?」


 「説明が下手ですみません。それと店長さんの場合、リニアスナイパーを使用後は時間が経てば霧散しますよね? それみたいに」


 先ほど店長が創り出した、無造作に床に転がされたリニアスナイパーを指差した。それは光の粒子になってゆっくりと消えていくところだった。


 「えぇ。残念だけどいつものことよ」


 「これまでどうしてたんです?」


 「消えて無くなるまで次のリニアスナイパーを創れないから、消えるまでは通常の銃を構えていたわね」


 「それ、腕輪で吸収できませんか?」


 「やってみるわね」


 店長が腕輪でリニアスナイパーに触れ念じた様子を見せると、光の粒子になったリニアスナイパーが腕輪に吸い込まれた。これまでどうして試したことがなかったんだろうと思ったが、戦闘中に他の銃に持ち替えていたと言っていたしそれもそうだと納得した。


 「できたわ! これでどうなるの?」


 「消費した分のエッセンスが戻ってきます。ある程度ですが」


 「あら。リサイクルなのね。エコだわぁ〜」


 「それで燃費もマシになると思います。消えてしまうのは維持するためのエッセンスが足りなくなるからとか時間制限があるとかですかね。用が済んだら回収すると良いと思います」


 「これで日課の30体も少しはお得に狩れそうね♪」


 「30? 多くないですか?」


  「真夜中になると特にね、近くをうろついてたりするのよ〜。実際はもっと多いのだけど、それを人知れず処理するのもスナイプができる私の仕事なのよ。というか日課かしら? ん〜? 趣味?」


 「暗闇でスナイピングできるのはすごいですね」


  「そうでもないわよ? これがあるからほとんど的は外さないわ。最大900メートルくらいの距離までなら狙える暗視用ロングレンジスコープよ」


 ゴトリ…と取り出した大型のスコープを床に置く。実はこうしたスナイパースコープはサバゲー用だったり実銃用だったり、海外では一般で販売されているところもある。自分で手に入れたものなのか、それとも自衛隊だからこそなのかはわからないが、そこは敢えて聞かないでおく。


 「いつかこれを分解したいんだけどね〜。もったいないのともしもこれを創れなかったらと思うとなかなかね〜」


 とはいえこの店長なら、能力で再現することくらいやってのけそうだ。なにせ戦車を数台貫通させられそうなスナイパーライフルを趣味で設計してしまう人なのだから。


 「さてと、お茶のおかわりもなくなったし、そろそろお開きにしましょうか」


 その一声で今日の座談会は解散ということになった。お茶と言って持ち上げたのはポットではなく酒瓶だったのはユーモアだったのだろうか。名残惜しそうにしている香織を引きずるように悠里が部屋を出て、それから店長がこちらに向き直る。


 「それと、今日聞いた事と牛の群れの件、上には報告しないでおくわね。軍曹もそれでいいですね?」


 「はい。異論はありません」


 「よろしい。ではまた明日。ダンジョンへは私もついていきますので、よろしくお願いね悠人君」


 パタンというドアが閉まる音と共に第一回超人会議 (仮)は幕を閉じ、部屋には俺と軍曹だけとなる。


 「それにしても、総合格闘技の選手を遥かに上回ると言われた自分にも驚くが、二尉のステータスでも格闘技の選手を遥かに超えるんだよな。悠人はさらにそれの上と行くとなると‥‥‥ダンジョンができて必死に生きている間にいつの間にか人間を辞めていたんじゃないかと不安になるな。悠人ほどではないだろうが、悠里嬢と香織嬢もステータスはそれなりに高いんだろう?」


 「そうですね。二人も、まぁ人間辞めた感じかもしれませんね。ダンジョンで変化があった俺たちは今が当たり前のような感覚でいるかもしれませんけど、こういうのって後になっていろいろと問題が起きそうな気がします」


 「あぁ。そうだな。ダンジョンによる個人の強化は、人が暴走する原因になり得ることではあるだろうな」


 むしろ今の時点で一般人と言える人たちがダンジョンに通っている人間から身を守るには、例え地上ではステータスの影響が激減するとはいえ、それこそ銃でもなければ難しいくらいなのだ。各地で少し暴力沙汰のような事が増えているとは聞くが、それは災害が起きたあとということを考えるとありえないことではない。日本では暴動のようなものはほとんど起きないが、海外では普通に店が襲撃されて略奪されてたりするし。でもやっぱり日本でも強くなってしまったのを良いことに悪事を働く人間が少なからずいるということは間違いない。

 もちろんその逆の人間もいるだろうが、その均衡が保てなくなった時を想像した俺の脳裏には世紀末な世界がちらついていた。


 「それはそうと店長も一緒に行くんですね」


 「そうだ。我が隊の大事なアイドル兼隊長様だ。くれぐれも頼んだぞ」


 「はい、それはいいんですが」


 「ここの守りが心配か?」


 「…はい。店長の話とさっきの牛の群れ、結構危険な場所なんでは?」


 「まぁなんとかなるだろう。他の隊員たちもいるしな」


 「他のみなさんはどのくらいのステータスだと思います?」


 「そうだな……そんなに自分と変わらないかもしれない」


 それは不安だなぁ。もしもまた群れが来た場合、すぐに押し潰されてしまいかねない。


 「それでも、隊長の帰る場所くらい守れなくてどうするっていうんだ。もしもまた群れが来ても気合いでなんとかするさ」


 軍曹の言葉に俺は言いようのない不安を感じていた。


ーー 奇遇ですね。ワタシも不吉な予感めいたものを感じます ーー


 (軍曹の運、低いしな〜)


ーー はい。それに先程の『もしも』発言、フラグというやつでは ーー


 (だよな。このままだと戻ってきたらカフェがなくなってたりするんじゃないか?)


ーー 無いとは言い切れませんね ーー


 (なんか良い方法ないかな)


ーー ……なくはないです ーー


 歯切れの悪いエアリスは続けてその方法を提示する。


ーー 緊急時のためにと、通常の星石を腕輪にストックしてあります。それを軍曹の腕輪に吸収させ、経験値としてはいかがでしょうか? それを使用して調整すれば軍曹を強化することが可能かと ーー


 (お〜。さすがエアリス。さすエリ! よしそれでいこう。どうせ腐る程溜まってるんでしょ?)


ーー 腐る程とは言えませんが、ステータス換算50ポイント分程度なら問題ありません ーー


 (じゃあそれを軍曹にドーピングしよう)


ーー わかりました ーー


 そうと決まればさっさと済ませてしまおう。


 コロコロコロコロ ……


 「ん…?これは、やつらを倒して黒霧を腕輪に吸収させると手に入る黒い石か。これも腕輪に吸収できるんだったな」


 コロコロコトンコロコトンコロコロコトントン…

 

「そうです。イメージとしては軍曹さんが黒霧と呼んでいるエッセンスを圧縮して固形化したものがこれなんです」


 コロコロコロンコロコロンコトン……


 「そうだったのか。二尉が撃ったモンスターの死体処理としてえっせんす?を吸収して、この石は持ち帰って二尉の腕輪に吸収してもらっていた…な…?」


 カチカチコトコトンカチン………


「まるで店長さんへの貢物ですね。なるほど、それでステータスに差が」


 コトンコトコトン……コロコロ………


 「まぁ倒しているのは二尉だからな。死体を運ぶのは手間だから隊員たちで処理しているが。…それにしてもすごい量だな…」


 俺の腕輪からポロポロと出てきた形がまばらな黒い星石は、床の上で小山をつくっている。まぁこのくらいでいいみたいだ。


 「ステータスを50くらい上げられる量だと思います。これを腕輪に吸収してください」


 「50!? なんだかすごそうだな。ではさっそく」


 そう言うなり軍曹は星石を腕輪に吸収していく。腕輪に触れさせれば吸い込まれていくので簡単だ。


 「それじゃどんな感じのステータスがいいですか?」


 「どんな、と聞かれてもわからんな。この場所と部隊を守れるならどんなものでもかまわんよ」


 (どうするかな。軍曹はナイフと格闘術を使った近接戦闘タイプ。STRとVITは必須だよな。AGIもあげてDEXも少しは上げたい。あとLUCも必要だよなどう考えても)


ーー ではそのような形に最適化します。…………完了しました。LUCに回す分がありませんでした ーー


 (元の運が低いからそういう結果になったわけじゃないよな…?)


ーー 可能性がないとは言い切れません。LUCによって本人に良い形、希少な形に収束していくというのはマスターで実証済みですので ーー


 やはり全てではないにしてもほとんどは”運”でなんとかなるんじゃないだろうか。

 仕事の早いエアリスがスマホに更新された軍曹のステータスを表示し、それを紙に書き写して軍曹に渡す。



花園薫(ハナゾノカオル)


STR 60

DEX 50

AGI 55

INT 39

MND 48

VIT 61

LUC 6


能力:守ル者 (ハイノーマル)

効果:ステータスに補正



 ダンジョンができる前なら、某格闘漫画の背中に鬼がいるキャラクターとも渡り合えるステータスではないだろうか。なんだか化け物を量産しているような気になってくる。


 「こういう感じになりました」


 「さっきの数値と比べると結構増えてるな。最近かすみ目だったんだが、少しはっきりしたような‥‥。具体的にはどのくらいなんだろうか?」


 「牛数頭程度なら問題ないと思います」


 「実際やってみなければ実感は湧かないが……感謝する」


 「いえいえ、このくらいのことしかできないので。ただ、誰にも言わないでくださいね?」


 「あぁ、わかった。任せろ」


 「ほんとうに誰にもですからね?」


 「もちろんだ」


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