第66話 邪魔者には死を

 作戦実行の五分前。奏斗は冬馬からメールを受け取っていた。

「これ」

「なっ」

 そのメールを一緒に見た颯斗は絶句してしまう。それは今までのあちこちでスパイが出来た理由と、これからのことが書かれていた。



 奏斗へ

 こんなことを作戦の実行前に言われて、作戦変更をしなければならなくなるのは解る。でも、このタイミングしかなかったんだ。許してくれ。

 俺があちこちでスパイをしていたのは知っていると思う。それが可能だったのは、俺が綾瀬遙香の弟子であるだけでなく、彼女の息子だからだ。

 これから、俺があいつを責任持って始末する。ついでに、お前も消えるから安心しろ。

 やっぱり、お前以外にこの先を託せる奴はいないと思う。人生の大部分を利用されていたお前に頼むのは酷だと思うけど、でも、お前を越える奴はいない。

 奏斗、お前がこの社会を正しく導いてくれ。




 メールは以上だった。そこに書かれた内容に驚くと同時に、拙いとも理解する。自分も消える。それは遙香を殺して自分も死ぬつもりなのだ。

「まさか、あの首輪」

「それしかない。ここで冬馬と対面した倉田先生が言っていた。あれは取り外しが不可能なほど首に食い込み、そして爆発させることが出来ると」

 それに気づいた時、午前零時となってしまった。奏斗たちのいる情報管理課のビルも一時停電する。が、復旧はすぐだ。一分と待たずに非常電源に切り替わる。

「おそらく首輪にもGPSが組み込まれているはずだ。それを追跡しよう」

 奏斗は言うと、待機していた燈葉の使っている課長室から飛び出し、中央制御室へと向かった。それに付き添いながら、燈葉の姿が見えないことが気掛かりになる。

「その首輪を取り付けた燈葉が戻ってねえぞ」

「そうだ。アンドロイドを取りに行かせて――そういえば、ずっとそのアンドロイドを開発した真広の姿もない」

 二人は確認すべきかと迷ったが、ともかく中央制御室へと向かうべきだと決める。そこから連絡を取ることも可能だ。

「ともかく、色々と変更を余儀なくされそうだ」

 ここでアンドロイドを殺して自分の身代わりにし、支配者そのものを消す。それはどうやら、夢物語になりそうだった。




 一方、燈葉は真広と対面していた。アンドロイドを動かすことは出来ない。そう主張する真広に、燈葉はイライラとしている。

「何故だ」

「穂積奏斗が必要だからです。それを消すような行為に加担することは出来ません」

 きっぱりと言い切る真広に、燈葉はこの最後の最後でと苦々しい。真広はやはり遙香の手先なのか。

「いいえ。私はそれほど綾瀬博士と親しくありませんよ。ただ、何が最適解か、それを理解しているだけです」

「なに?」

「解りませんか。いくら社会が奏斗の施策によって変わりつつあるとはいえ、それを引き継ぐ人がいないんです。まさか課長、あなたが肩代わりするんですか?それは無理でしょう。特に、人工知能が使えなくなるとすれば、ますます政治家たちは奏斗を必要とする。この五年間の怠惰を、すぐに彼らが止めるとは思えませんからね。まさかとは思いますが、そんなことも解らなくなったんですか?情報管理課の課長ともあろう方が」

 そこで真広は唇の端を僅かに上げる。笑っているのだ。それに燈葉はむっとする。だが、指摘は間違っていない。その後は多くの科学者に引き継がれる算段はしてあるが、リーダー不在でどこまで出来るのか。それは不透明だ。

「そうですよ。奏斗は必要なんです。その逃亡を手助けしようとするのならば」

 真広はそう言うと、一気に燈葉の胸に飛び込んだ。まさかすぐに攻撃を仕掛けてくると思っていなかった燈葉は、全く身動きできなかった。

「ぐっ」

 そして、自分の腹に深々と大ぶりのナイフが刺さっているのに気づく。まさかこの局面で腹心の部下に裏切られるとは。燈葉は笑うしかない。

「役立たずは消えるべきですよ」

「だったら、お前もお払い箱だ」

 だが、何の準備もなしに真広の使う研究室に乗り込んで来ていると思っているのが間違いだ。アンドロイドを使わせないと主張することは見えていた。だから――

「結局、消えるのは奏斗じゃない。俺たちだったってことだな」

 そう言うと、胸に飛び込んだままの、ナイフを握る真広を突き飛ばす。同時に腹からナイフが抜けて呻くことになるが、燈葉は最後の気力を振り絞ると、隠し持っていた拳銃を構えた。

「なっ」

「俺たちはこれでも一応警察官だぞ。拳銃くらい扱える」

 にやっと笑うと、燈葉は躊躇うことなく発砲した。それが無事に真広の額を射貫いたことを見届けると

「悪かったな、奏斗。最期まで、お前の足を引っ張ることしか出来なかったよ」

 燈葉もまた、その場に頽れていた。





 さて、各方面で予想外の展開が巻き起こっていたが、朱鷺を中心とする科学者集団は、停電を利用してIDカードを中心とする監視システムの破壊を順調に進めていた。

「監視カメラ、通常モードのみに切り替わりました」

「各箇所にあったIDスキャナー、不能となりました」

 次々に上がってくる報告に満足する。最後の仕上げは、奏斗が支配者の地位を逃れるだけだ。

「大丈夫よね」

 しかし、なぜかこの部分が途轍もなく不安で、その理由が解っているだけに、成功を祈ることしか出来ないのだった。

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