第64話 奏斗の決意

 あっちこっちで起こる爆発は、徐々に国会議事堂を包み込んでいた。どこからか火の手が上がったのか、参議院本会議場にも煙が流れ込んでくる。

「なるほど。途中で追跡できなくなっている間に、こんなもの仕込んでいたのか」

 アンドロイドである遙香は、そんな煙を何とも思っていない調子で言う。が、颯斗はそれどころではない。

「おいっ、これって拙くないか」

「拙いねえ。ちょっと景気よくやり過ぎだな」

 奏斗もここまでやるとは思わなかったが、科学者の多くが今までのやり方に反発し、この機会しかないと思っていることを考えれば、爆発が盛大になるのは仕方ないのかもしれない。

「奏斗、これで逃げられると思うのか」

 しかし、そんな二人の前にまだ立ちはだかるのが遙香だ。ここで爆発を起こすことでうやむやに出来ると思っているのか。そう問い掛ける。

「逃げられるとは思いませんよ。でも、リセットするには、こうするしかないのでは?」

「ふん。生意気なことだ。だが、いい。これでお前は支配者として生きるしかなくなったな」

 にやりと遙香は笑うと、そのまま煙の中へと消え去っていった。そのタイミングで、上から消火剤の泡が降ってくる。そのもこもこした泡に、颯斗はビックリする。

「うわっ」

 しかも、身体に纏わり付くと取れない。これは一刻も早く、泡まみれになる前に外に出なければならないようだ。

「ま、これだけのコンピュータを置いているんだから、防火設備も相当なものというわけか。穂積颯天の亡霊は、まだまだ付き纏いそうだな」

 奏斗は颯斗を引っ張って外に向かいつつも、ここのコンピュータは無事に残ってしまうかと苦々しい。そして、それが意味することは一つだ。

「火元はどこだ?」

「警察は、情報管理課は何をやっている!!」

 本会議場を抜けると、外はスプリンクラーの水が降り注いでいた。火事の騒ぎで多くの人が廊下に出て、水に濡れながらそんなことを叫んでいる。一応は機能しているという国会だ。議院や職員がちゃんとどこかにいたわけだ。奏斗たちはそれを上手く避けながら外を目指す。

「穂積博士だ!」

「先生、こんなところで何を」

 だが、目敏く奏斗を見つけてそう問い掛ける人もいる。テレビやその他のメディアを通じて顔が知られている存在だ。そりゃあ相手が国会議員だろうと大騒ぎになる。

「ともかく避難を!」

 そんな人たちに、奏斗は避難しろと声を掛けて走る。すると、多くの人が冷静になるのだから、影響力の大きさもすぐに解る。

「奏斗」

「解ってる」

 現状を変えるには支配者であることを受け入れるしかない。自分がやった施策として、その失敗部分を回収するという形でしか変更が加えられないのだ。つまりは、遙香の目論見通り。

「ちっ」

 颯斗だってそんなことには気づいていて、思わず舌打ちをしてしまう。そして外に出た瞬間――

「穂積博士、よくご無事で」

 待ち構えていたのは情報管理課だった。ずらっと五十人はいる。その先頭にいるのは冬馬だ。

「冬馬、お前」

「黙ってろ。今、下手な動きをしたら、俺とお前は消されるぜ」

 食って掛かろうとする颯斗に向け、冬馬は僅かにネクタイを緩めて首輪を示す。それがどういうものか、説明されなくても颯斗には解った。そして、今だ奏斗の右腕に残る腕輪を見てしまう。

「燈葉と、綾瀬課長と話がしたいんだが」

「もちろんですよ。さあ、あちらから」

 そこまで大声で言って、

「どうするんだ?」

 冬馬はこそっと問い掛ける。爆発によって多くのメディアがすでに駆けつけている。中継用のドローンもあちこちに飛んでいた。今、情報管理課の制服を着る冬馬と親密に喋る姿が、全国民に向けて発せられている。

「大丈夫さ。やつらの思い通りに動きつつ、反撃する。そのためには、颯斗君の力が必要だ」

「お、俺?」

 もう蚊帳の外だと思っていたのに、いきなり自分に話が振られて驚いてしまう。

「そうだ。ともかく、早く移動しよう。朱鷺たちの安全を保証してくれ」

「それはもちろん」

「じゃあ、行こうか」

 奏斗はそう言うと、改めて颯斗の手を握ると歩き出したのだった。





 火事の被害はそれほど大きなものにならなかった。爆発はそもそも音だけで、ほぼ無害なものだったという。最初に大きな揺れをもたらしたものだけが本物で、それが火事の原因でもあったのだが、それも本会議場だけを狙ったものだったという。

「さて、茶番をさらに大事にして、ここに素直に戻ってきた理由はなんだ?」

 燈葉は非常に不機嫌にそう問い掛ける。目の前にいる奏斗は大学の頃と変わらず、しゃんとした姿になっているのが苦々しい。

「それはお前も解っているだろ。綾瀬遙香と穂積颯天の始めた実験を終わらせ、修正していく必要がある」

「ほう」

 そこまで読まれていると知っているのか。燈葉の目は冷たい。

「もちろん、それは百も承知だ。しかし、ぶっ壊すにはそれなりに受け入れるしかない。それは理解した」

「ふん。どこまでもあの女の読み通りだな」

「そう。そして、ここからが彼女には読めないことだ」

「ん?」

「人工知能を乗っ取る」

「――」

 それもまた読まれているのでは。燈葉の態度はまだまだ冷たかった。

「それも、颯斗や尊君がね」

 しかし、次に言われた言葉で、くくっと笑ってしまった。なるほど、自分が尊を引き込んだことさえ利用しようというのか。

「だが、あのおばさんのことだ。すでにそういうこともシミュレーションしているんじゃないか」

「ああ。海羽たちの力も借りて、かなりの大掛かりなことになるだろう。それでも、やらなきゃ何も変わらない」

「ふん。ようやく完全に目覚めたわけか」

 だが、それでも振り切れないのが遙香でありこの実験だろうと燈葉は思う。しかし、それでも奏斗が自らやるならばいいか。そう思うと、協力しようと頷いていたのだった。

 

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