第62話 国会議事堂の秘密

「何だって?」

 スマホに向かって急に怒鳴った燈葉に、横にいた真広と尊は驚く。

「ええ。解りました。すぐに向かいます」

「どうしたんですか?」

 緊急事態だと解る電話に、尊はおずおずと訊ねる。まさか颯斗たちに何かあったのか。心配で仕方がない。

「奏斗の居場所が解ったんだよ。まさかよりによってだ。真広、冬馬を連れてこい」

「はい」

 真広は詳しく聞くことはせず、すぐに地下牢へと向かった。今や冬馬が遙香の手先だと解っている。それでいて連れて来いというのは、最悪の事態に陥ったということだ。

「あの、どこで見つかったんですか?」

「国会議事堂だ」

「え?」

 意外な場所に、尊はきょとんとしてしまった。まさか、ここではなく国会議事堂。奏斗はこの国の中心に乗り込んだというのか。

「そのとおり。さすがは綾瀬遙香が認めただけのことあるよ。こちらの予測を上回ることをやってくれる」

「そう、ですね」

 尊は頷きつつも、これはどうすればいいのかと悩んでしまった。事態は大きく動いている。しかし尊は今、颯斗や朱鷺たちと連絡を取ることが出来ない。何一つ出来ない状態なのだ。それが、歯がゆくてならない。

「他にも動きがあって困るよ。やはり、奏斗という象徴が動いたことで総てが動き出した」

 燈葉も歯がゆさを抱えているようで、思わずぼやく調子になる。それに、尊はどういうことかと顔を上げた。

「この国はもう、穂積奏斗で成り立っているってことさ。総て、綾瀬遙香が仕組んだとおりにね」

「それって」

「奏斗が動き出したことで、科学者たちも動き出した。もちろん、すでに総ての大学はこちらで押させているから、動き出したところで微々たるものだ。しかし、その動き出したという事実が重要なんだよ。誰が頂点にいるか、この瞬間にはっきりしたということだからな。特に、詳しい事情を知らない一般市民たちは、奏斗が何かしているから科学者も何かしていると解釈する」

「ああ」

「そう。奴が中心だと、より印象づけられるわけさ。ま、こちらとしても実験は成功となるわけだが、それにしても、奏斗には裏を掻かれた」

「そうですね。どうやって国会議事堂まで移動したんでしょう」

 尊はそれが不思議だった。情報管理課の中央管理室にいる尊には、全国民の動きを把握することが可能だ。しかし、その情報の山の中に奏斗はもちろん、颯斗も朱鷺もなかった。

「情報管理課の制服だ。君と同じで、その制服を着ているというのは大きな威力を持つってことさ。ついでに制服を着ていれば多くの場所でIDをチェックされずに済む」

「そ、そうですね。でも、どうやって」

 燈葉の指摘に尊は普通に驚いてしまう。この制服に対し、奏斗はものすごい嫌悪感を持っている。それなのに袖を通したというのか。やはり、外に出た奏斗はここにいた奏斗とは別人のように動いている。

「連れてきました」

 どうしてかと尊が問おうとした時、真広が冬馬を連れてやって来た。冬馬は後ろ手に手錠を嵌められた状態で、顔全面に不満を掲げている。しかし、制服にはしわ一つない。真広によって着替えさせられたのだ。

「冬馬、呼ばれた理由は解ってるな」

「実験の最終段階ってことだな」

 しかし、それでも冬馬は平然と答え、にやりと笑ってみせる。相変わらずのその態度に燈葉はイラッとするが、今はそれどころではない。

「奏斗を連れ戻せ。その命を使ってな。綾瀬遙香に与したと判断すれば、すぐにスイッチを押すぞ」

「はいはい」

 冬馬は解ってるよと、首を反らせる。そこには首輪がはまったままだ。それに、尊は思わず眉をしかめてしまう。

「監視には瑠衣を付ける。あいつの判断は機械と同じだ。妙な動きはするなよ」

「はいはい」

 冬馬は燈葉の注意にことごとく適当な態度で頷く。それが虚勢を張っているせいなのか、それとも策があってなのか、まったく解らない。

「場所は国会議事堂だ。今頃、奏斗は度肝を抜かれているだろう」

 しかし、ヘラヘラしていられるのはここまでだとばかりに燈葉は言い放つ。

「度肝を?」

「ああ。どうしてこの国が、情報管理課の思いのままに動いていると思っているんだ?あそこには、大きな秘密があるんだよ」

「――」

 そこまでは知らなかったのか、冬馬が笑いを引っ込める。もちろん、尊も何のことか解らなかった。

「面白いぞ、あそこは」

 まだまだ秘密があるんだと、燈葉は暗い笑みを浮かべていた。






「なんじゃこりゃ」

「まさかこうなっているとはね。穂積颯天が絡んでくる理由が一発で理解でいたよ」

 その頃、国会議事堂の中に入り制服を脱ぎ捨てて私服に戻った二人は、参議院本会議場で呆然としていた。

 そこにあったのは整然と並ぶサーバーたちだ。そして議長席のあたりに、コントロールする場所がある。そこは、巨大なスパコンとなっていた。

「え?参議院は?」

「機能してないってことだな。衆議院は多分、機能しているという外観を保つために、ちゃんとやっている素振りを見せていることだろうけど」

 奏斗はここまでやるかと呆れた顔をしてる。しかし、これでようやく、情報管理課が好き勝手に出来る理由が解った。

「まさかと思うけど、国会を乗っ取っていたってこと」

「そのとおりだよ。そもそも、情報管理課が出来たのは政治家発案ってことになっているだろ。その流れで、政治を人工知能に置き換えてしまったというところか」

「ぐはっ」

 颯斗は思わず頭を抱える。それって結局、情報管理課が総てを決めていることにならないか。

「正確には綾瀬遙香と穂積颯天の二人だな。情報管理課はそれを具現化しているに過ぎないってことだ」

「な、なるほど」

「ICカードの導入や街中の監視システムを使って情報を集めれば、どういう施策が必要かなんて、すぐに理解できるってところだな。情報管理課とこの人工知能のコラボによって、完璧な布陣を敷いていたってことだ」

「もう、何が何やら」

 凄すぎて理解を超えていますと、颯斗はお手上げのポーズを取る。それにしてもまあ、自分の見てきた世界は何だったのか。そんな気分になることの連続だ。

「あら?いとも簡単にそこまで理解しちゃったのね。さすがは私の求めた天才」

 そんな二人の背後から、妖艶な声がした。驚いて振り返ると、そこには瑠衣に似た顔立ちの四十代くらいの女性がいた。服装はパンツスーツだ。

「綾瀬遙香」

「ええ。初めまして、かしら。もう、総てを理解しているんでしょ?王子様」

「ふん。俺の人生が、総てこの実験に使われていたってことですか」

「ええ」

 にっこりと笑って、あっさりと肯定してみせる。その異様さに、颯斗は背筋が寒くなる。

「逃げられないわよ。奏斗。あなたは私の大事な、あの人と作ったお人形ですもの」

 その遙香は、さらにそんなことを言ってのけた。その怖さと圧倒的な自信に、二人は呆然と遙香を見つめていた。

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