第59話 集合場所は本丸で

「まったく憎々しい」

 燈葉が思わずそう呟いたのも無理はない。冬馬に関わっている間に、状況が大きく変化していた。

「奏斗の行方が全く捕捉できなくなりました。何か策を用いたものだと思いますが」

「だろうな。しかし、これほど短時間で変えてくるとは、さすがに予測不可能だったよ」

 尊の報告を聞きながら、一体何がどうなっているのかと燈葉は焦る。が、さすがに今回ばかりは推理が出来ない。

 場所は課長室に戻っており、そこを作戦本部とすることが決まっていた。つまり、ここに情報が集約されることになる。尊はノートパソコンを持ち込み、ここで報告をまとめる役割を言い渡されていた。その横では瑠衣が、書類の分類を担当していた。

「――」

 その尊は、ひょっとしてと思う作戦が思いついた。しかし、あの時の奏斗の態度からして、それを採用するのか。難しいのではというのが正直なところだ。それに、もしその作戦だとしても燈葉に教えるつもりはなかった。

「失礼します」

 そこに真広が入って来た。こちらも無表情ながら慌てているのが解る。

「穂積颯天について何か解ったか?どうやらあの男、あの冬馬に何か吹き込んでいるようだが」

「でしょうね。そうでなければ、ここまでうまく情報を隠せるはずがありませんから」

 それは当然と、真広は頷いた。つまり、冬馬と颯天が繋がっている証拠が見つかったということだ。

「何があった?」

「こちらです」

 真広は持っていた書類の束を燈葉に渡す。そこに書かれていたのは、冬馬の卒業した大学の卒業生一覧だった。工学部だけのはずだが、かなりの人数がそこに連なっている。随分と遡って調べたのだろう。

「ふん。なるほどね」

 一覧表を見てみると、その中にいくつか蛍光マーカーでチェックが入っていた。おかげで一発でこれが証拠だと理解できる。

「まさか全員がここの出身だとはね」

「えっ?」

 尊は思わず立ち上がってその名簿を覗き見てしまう。すると、見覚えのある名前ばかりが飛び込んできた。

「これって」

「実験を考えたのはここ。という結論だな」

「――」

 意外な答えがあったものだと、燈葉は名簿を尊に押し付けた。そこにあった名前は、やはりどれも見知ったものばかり。

「こんなことって」

 尊はもう一度、そこに目を落とす。

 最初に目に付くのは、綾瀬遥香の名前。そして穂積颯天。少し下がったところに冬馬の名前があり、その間になんと燈葉の父、綾瀬優紀の名前があった。

「おいっ、あの一般人の振りをしている男を早急に逮捕しろ」

「よろしいんですか」

「愚問だ」

 燈葉の目には怒りだけがあった。お前まで欺していたのか。そんな憤りが見て取れる。

「直ちに」

 真広は頷くと、すぐに課長室を後にしていた。





「恐ろしく見つからないものだな」

「当然だ。この制服を見ただけで、一般人は引くからな。下手に関わってこようとはしない」

「なるほど」

 頷く颯斗はつい最近までの自分の行動を思い出す。たしかに情報管理課の奴が傍を通ったら、目を合わせずにやり過ごしてしまうだろう。顔なんて確認しない。

「しかし、いつまで持つか。そこが問題ね。今は奏斗捜索のおかげで、管理課の人間が固まって動いていても違和感がないんでしょうけど」

 そう心配するのは朱鷺だ。何度も対決しているだけに、侮れないと気を引き締めている。

 今、五人で固まって動いている。しかし、情報管理課は基本的に単独行動だ。もしくは二人。これだけ集団でいればいずれ目立つ。

「そうだな。そこは考えないといけない。どうする?二手に分かれるか?目的地ははっきりとしていることだし」

「そうですね」

 光輝の提案に、悪目立ちするよりかはいいかと奏斗は頷いた。その場合、誰と誰が組むか。ここがポイントになってくる。

「奏斗は当然、朱鷺とだよな」

「いや。それは良くない」

「そうなのか?」

 即答で否定されて、どうなんだと颯斗は朱鷺を見る。

「冬実さんと組んだ方がいいってことね」

「そうだ」

「そうなのか?」

 あっさりと納得した朱鷺に、どういうことだと颯斗は説明を求めた。まだまだ情報管理課については詳しくない。

「基本、同性同士のペアで動くことが多いのよ」

「ああ、そういうことね。つうか、意外とそういところは古風なんだな」

「扱う情報の差でしょうね」

「ふうん」

 よく解らんと、颯斗は腕を組む。何が何なのか。煙に巻かれたみたいだ。

「俺が教えよう。ということで、颯斗君と組むから。先生は一人で大丈夫でしょ?」

「途端に放任する気かよ」

 奏斗の提案に酷いなと笑うが、光輝はやる気満々だ。このおっさん、実はやんちゃだなと颯斗は思う。

「実力の問題です。颯斗を一人にするのは無理ですから」

「まあな。高校生の知識では、太刀打ちできないだろう」

「ええ」

 こちらもあっさりと納得し、話題の中心にいる颯斗はむすっとするしかない。ここまで来て子ども扱いを受けるとは思いもしなかった。

「仕方ねえだろ。自分でプログラミングも打てねえのに」

「ぐっ」

 そうですね、と認めるしかない事実を光輝から突き付けられ、颯斗は反論すら出来なかった。

 ともかく、ここから三手に分かれることになった。ルートも別々に向かう。

「本丸で集合だ」

「ええ」

「おうよ」

 奏斗の合図で、三方向へと別れた。颯斗は早足で歩く奏斗を追い駆ける。

「大丈夫なのか?」

「もちろん。体力を考えても、君がいてくれた方がいい」

「ああ、そう」

 要するに力仕事担当かと、颯斗は溜め息だ。まったく頭脳は当てにされていないようで、余計に腹が立つ。

「そんなことはないさ。俺は五年分の知識を欠いているに等しいからな。下手に頼りにされない分、君の方がいい」

「はあ?」

 また訳の分からない理由をと、颯斗は素っ頓狂な声を出してしまう。さすがにその声に何事だという視線が集まり、慌ててすまし顔をする羽目になった。情報管理課はエリート集団。あまり感情を表に出すことがないのだ。

「いいか?朱鷺たちにとって、俺は大学で働いていた頃と変わらないはずだという思い込みがある。実際は違うと解らせる時間はないからな。その点、君は俺がてきぱきと働いていた頃は知らないから、そういう思い込みがない。むしろ、本当かと疑っているだろうし」

 くくっと笑う奏斗に、自己評価の正しい奴と颯斗は呆れるしかない。

「ま、お前の動きが早くなったあたりから、天才だってのは信じてるぜ」

「余計な認識だな。ところで、向かう先に関して復習しておこう」

「ああ。でもさ、そんなところに入り込めるのかよ」

 本丸というからてっきり情報管理課のビルに乗り込むのかと思えば、まったく違う場所を言うのだからびっくりだ。

「入り込めるさ。そこに綾瀬遥香がいる限りな」

「ふうん」

 そういうものなのかと、よく解らない颯斗だが、その人物が重要だということは理解していた。

「で、あそこか」

「そう。その綾瀬がふんぞり返っている場所、そいつは国会議事堂ってわけだ」

「――」

 やっぱり無理じゃねえか、それが颯斗の率直な思いだった。

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