第49話 抜け道を探せ

 奏斗を追う人数は、時間が経つにつれて増えている。それはSNSの反応を見れば解ることだ。誰もが奏斗がいないと不安。何をされるか解らない。いまさらいなくなられては困るという、複雑な感情を持っているせいだ。支配とはすなわち、あることが当たり前ということである。

「その意味で、今回の実験は成功に向かいつつあるな」

「そうですね」

 大学への捜査が始まるとともに、世間は騒がしくなった。燈葉はその様子に、もちろん喜びを感じている。問題は発動したのが遥香だという点だけだ。

 真広も集まるデータの多さには舌を巻いていた。蜂の巣をつついたようとは、このことを言うのだろうと感じる。それだけ、国民に不安が高まっているのだ。しかも大学に入ったというのが不安に拍車を掛けている。今度はテロリストが奏斗に何かさせるのでは。そう考えているのだろう。

「意思の決定権を奏斗が握っているわけではない。ただIDカードを通じて行動の情報と、そして政府の意向を汲んで作られた労働に関して把握されているだけだ。その脇を情報管理課が固めている。たったそれだけなのに、奏斗がいないと不安なんだ。颯斗君への風当たりの強さが、それを表している」

 そう、SNSでは奏斗を見たという目撃情報とともに、颯斗への怒りがつづられている。本来、怒るべきは奏斗でありそして情報管理課だというのに、国民は弱く解りやすい敵を攻撃しているのだ。

「尊君。そっちはどうだ?」

 二人の話を聞いて苦々しい顔をしている尊に、燈葉は仕事をしているかと訊く。尊は相変わらず、パソコンの前にいた。

「すでに颯斗に関する個人情報の削除は終わっています。高校生だという情報しか残していません。それと、あいつのSNSも封鎖し終えました」

 指示された内容は終わったと、尊は平静を装って答えた。そうしないと、今度は自分が実験に使われる。それはよく理解しているからだ。ついでにこれは颯斗を守るための行動でもある。個人を攻撃されると、いわゆる炎上を起こされると、それこそ手の付けられない状態になるからだ。

「よし。やはり優秀だな。その点は瑠衣と違う」

「――」

 ここで瑠衣の名前を出すかと、尊は舌打ちしそうになった。一体、燈葉は腹違いの妹をどう思っているのだろう。これは謎だ。少なくとも、瑠衣のように心を許してはいないらしい。

「このまま颯斗君に関しての情報を管理してくれ。炎上が起こった場合は放置しても構わないが、余計なことはさせないように」

「はい。それが最も怖いですからね。親族に関しては、絶対に漏れないようにします」

 尊は心得ていると頷いた。颯斗に関しては守れる限度で守っていればいい。こういう場合、怖いのは攻撃が本人だけでなく周囲にも及ぶことだ。これが最も警戒すべきことだろう。特に親。どういうわけか、問題が起こった時に親に謝罪を求めるケースが多い。ここにマスコミや一般人が関わらないように監視する必要がある。

「そういえば、奏斗には親族がいないんですか?そういう情報はないですよね」

 ふと、奏斗に関してそんな情報が出たことはないなと思い出す。すると燈葉は、真っ先に調べて手を打っているよと笑った。

「じゃあ」

「彼の実の両親はすでに他界している。育ての親である祖父も今はいない。彼は天涯孤独だよ。だから、情報を統制する必要はないんだ」

「――そう、ですか」

 何だかそれはそれでと、尊は気持ちが複雑だ。奏斗が狙われた一つの要因であることは、すぐに理解できる。しかしそれ以上の何かがあるような気がしてならなかった。

「まあ、奏斗の場合、支配者として以外で話題になるのは、本人のルックスが話題になるくらいだろう。早く戻って来いっていうのが、多いみたいだね」

「――ええ」

 ここでも成功を見せつけられる。尊は苦々しい思いだ。

「さて、二人は今、どこにいるか、だな」

 ここからが、ここからどうやって収束させるかが、最も気を使う部分だ。燈葉は気を引き締めていた。






 奏斗たちは再び地下道にいた。しかしずっと地下を進むわけではない。それは逃げ道を減らすことになる。

「ともかく地下と地上を上手く使って、朱鷺さんと合流するしかなさそうです」

「ああ」

 冬実の提案に、奏斗だけでなく颯斗も光輝も頷いた。

 地上に出た際、どういう状況かが確認できる。それでどこまでが危ないかを判断し、適宜地下道を使う。これ以外にない。IDはもう無視だ。

「奏斗がいずれ反撃するって、燈葉は解っていたんだな。あんだけ好き勝手やっておいて」

 颯斗はこの状況に苛々としてくる。というか、自分が犯人にされたことも腹が立つ。この怒りを、どこにぶつければいいのだろう。

「たしかに、今から考えれば、必要以上に痛めつけてくれたな。妙に研究を強要したり。総ては布石だったということか」

 研究者としての感覚が残っていることが重要だった。なるほどと、奏斗は腕を組む。

「腹黒い奴だな。昔からそうだったのか?」

 燈葉に関して、真面目以外の情報がないと、颯斗は奏斗と光輝を見る。

「いいや。あまり目立つ学生ではなかったな。研究も淡々とこなす感じだったし、うん。印象にない」

 それに対する光輝の答えは、全く情報が増えないものだった。これではヒントがない。

「あえて目立たないように行動していたのかもしれない。黒幕が継母の綾瀬遥香だとすれば、その指示をしていたことだろう。この実験は何年も前から、用意周到に用意されていた。何も俺を捕まえた五年前に考え出したわけではない」

 奏斗の分析に、それが妥当だろうと光輝は頷いた。

「IDカードの導入だけでも、相当の根回しが必要だ。当時の総理のバカな発言を実現する体でやっているだけで、中身の大半は綾瀬遥香が決めたんだろう」

 光輝の言い分に、総理って誰からも批判されるんだなと颯斗は思う。上に立つというのは大変だ。

「五年より前から、この時が計算されていた。果たして抜け道は残っているのか。これになりますね」

 奏斗は問題の解決が難しいという実感を、改めて持つことになる。あまりに複雑で、しかも自分が支配者として組み込まれてしまっている。悩みは尽きない。

「研究者としての感覚を残していたってのも気になるしな。しかし、捕まるわけにはいかん。そうだろ?」

 弱気になるなと、そこで奏斗ではなく光輝は颯斗の肩を叩いた。ここで最も緊張しているのは、興味本位で巻き込まれた颯斗である。

「なあ、奏斗って何の研究をさせられていたんだ。それってヒントにならないのか?」

「ならないだろうね。そちらは今後のためのものだろう。支配者として俺を君臨させた後の話さ。それより、俺に携わらせなかった部分。それを探した方がいい」

 颯斗の提案に、その逆ならば考える必要があると奏斗は断言していた。

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