第48話 先手を打つのは?

  急に鳴り響いた音に、奏斗はびくっとなった。緊張を強いられる状況に、奏斗の反応が少しだが、情報管理課にいた時に似てきている。

「ヤバいんじゃないか?」

 颯斗が大丈夫かと奏斗の袖を引く。

「大丈夫。まだ、ね。それより今の音は?」

「緊急速報です。情報管理課が何か発表するようです」

 答えたのは冬実だ。すぐに朱鷺に連絡できるようにと、すでにスマホを取り出していた。

「あ、あそこで見られる」

 大きな交差点のビルにある巨大モニターに、緊急速報を伝えるニュース映像が流れていた。颯斗たちは見上げている人混みに紛れ込み、そのニュースを見ることにした。

「情報管理課からの発表です。誘拐された穂積博士が大学に連れ込まれたとの情報がありました。それにより、ただいまから各大学への調査を実施します。関係各位におきましては、冷静に、そして速やかに捜査に協力するよう要請が出ています。また、大学の各出入口の封鎖も求められています。管理課の許可がない限り、出入りはできません。繰り返します」

「マジかよ」

 あまりのことに、颯斗は思わず呟いていた。しかも、今から大学のパソコンを利用しようとしていた矢先だ。

「先手を打たれたな」

 光輝は舌打ちしたい気分だった。しかも、捜査することでこちらの連携を絶つつもりだ。

「作戦を変更しましょう。ともかく、ここを離脱すべきです」

 自分と颯斗の顔写真が画面に大写しになったところで、奏斗は拙いと冬実を見た。それを受けて冬実はゆっくりと三人を誘導した。あらゆる場合を想定して、この辺りの地図は細部に至るまで頭に叩き込んである。しかし、すぐに逃げ出したのでは犯人だと言っているようなものだ。このままどこかに逃げ込む方が目立つ。そのまま人混みに紛れたまま移動する方がいいと判断した。

「燈葉」

 次に映った燈葉の映像に、奏斗は思わず苦々し気にその名前を呼んでいた。






 その燈葉も苦々し気な表情をしていた。

「大学への一斉捜査か。ったく、あの方の考えることはえげつない」

「やはり綾瀬博士の指示でしたか」

 今にもデスクを蹴っ飛ばしそうな燈葉に、真広は無表情なままコーヒーを差し出した。真広にしては、珍しい気遣いである。

「悪い。しかし、今回の実験に関しては個別にやるかと思っていたし、こちらはそれで作戦を立てていた。しかし、利用された。どうやら奏斗に対して何か動きがあるんだろう。のんびりと実験をしていられないと手を打ってきたようだな」

 燈葉はコーヒーを一口飲み、大きく息を吐き出した。

「とすると、敵の動きも加速していたということでしょうか?連合のようなものが生まれていたということでしょうか?」

「だろうな。朱鷺に関して、ある程度自由に動かしていたのがよくなかったのかもしれない」

 朱鷺が動くことで、多くのことが上手く行っていたのは事実だ。テロの数が最小限だったのは、朱鷺が効率よくやっていたことと、頭数を減らしてくれたことにある。

「リーダーとして、彼女にはそれなりの資質があるのは確かです。しかし、あまりに奏斗を大事に思い過ぎている。アンドロイドを前にしただけで動揺するようでは、真のリーダーにはなれません」

 真広はこの間のことを思い出し、そう評価する。他者に影響されるようでは、いざという時に困る。それが真広の持論だ。真広ならば、いざ燈葉を切らなければならないとなったら、躊躇わずに切るだろう。自ら道を切り開くとは、そういう冷酷さも必要だ。

「手厳しいな。まあ、そうかもしれない。その点、奏斗は完璧なリーダになる。執着は薄いし、誰かを大事に思うことも少ない。この情報管理課を本気で使えるようになれば、それこそ支配者になるだろう。もちろん、そこを目指しているわけだが」

 燈葉は言いつつ、思わず顔を顰めていた。奏斗の実力を何より認めているのは、実は燈葉なのだ。その感情のせいで、時折どうしていいのか解らなくなることがある。別に奏斗を苛め抜きたいと思っているわけではないのだ。

「早く、そのことに気づいてくれるといいですね」

「どう、だろうな。奏斗ならば、もっといい方法が思いつくのかもしれない」

 情報管理課なんて方法ではない。政府に頼らなくていい。そんな方法すら、奏斗が本気になれば思いつくことだろう。本人は否定するだろうが、奏斗の発想は無限であり突飛だ。それは誰にも真似できない。

「なるほど。ますます、支配者として必要ですね。この国が、科学大国になるためにも」

 真広もまた、奏斗の有用性は理解している。ただ、気に食わないだけだ。何かと被害者感情があるから、イジメたくなる。それが燈葉と決定的に違うところだった。

「そうだな。実験の成功。それに集中しよう」

 今は個人的な感情は排除だ。それに、奏斗を使うのは自分であり遥香ではない。ここで負けるわけにはいかなかった。





「やられたわね」

 すでに動き出していたおかげで、全員が捕まることは免れそうだ。しかし、ただでさえ少ない同調者が、これでまた減ることになる。

「やはり人間、簡単で安全なことがいいんですよね。家族もあるし」

 海羽は忙しなく指を動かしながら言った。奏斗の狙われた理由の一つが、身内がいないというものだったことを思い出しての発言だ。

「ええ、そうね。それを上回る感情にするには、まだ弱いんだわ。少なくとも、奏斗がまた元のポジションに座っても困らないもの」

 社会秩序はすでに変化している。その中で、奏斗がより強権を発動したところで、またかと流されるだけなのだ。状況は明らかに奏斗に不利だった。

「まあ、そうですよね。奏斗という存在のおかげで、正確には情報管理課があるおかげで、科学予算は確実に増えました。もちろん、IDカードの維持やコンピュータ関係に予算が集中していますけど、それでも昔よりはマシ。見事に科学者を制圧することに成功しています」

 海羽は言いつつも、手を休めるつもりはない。燈葉と、そして何より遥香の専横を許すつもりはないのだ。

「奏斗は、どうして」

 色々と考えてしまう。朱鷺は奏斗のデータが全くなかったことが、今になって不安になっていた。

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