第46話 脅威となるのは?

  動き出した奏斗は早かった。さっさと自分で行動を決める。これはあの情報管理課の最上階に閉じ込められていた時にはなかったことだ。

「閉じ込めたくなる心境が解る日が来るとは」

 そんな奏斗について行けない颯斗は、思わずそう愚痴を零す。意外にも、あのムカつく燈葉の取っていた行動は正しいのかもしれない。

「何か言ったかい?」

「いえ」

 振り向いた奏斗は、テレビで見ていたアンドロイドの数倍活動的でアグレッシブ。そしてイケメンだった。腑抜けていたのも、おそらくうつ状態を作り出されていたからなのだろう。

 現在、四人は揃って堂々と街中を移動していた。もちろん変装はしていて、冬実がどこからか調達してきたスーツに身を包んでいる。これでサラリーマン感を演出しているのだ。

 時刻は夜の十時。たしかにサラリーマンでないと怪しまれる時間帯だ。これもまた、奏斗の提案である。

「先生から見て、どうなんだ?」

 仕方なく、颯斗は横にいるザ・サラリーマンな光輝に訊ねた。さすが教授とあってスーツを着慣れている。

「ほぼ学生時代と同じだな。ああいう奴だったよ。そしてきまぐれだ」

 大丈夫、おかしくなったわけではないと光輝は笑った。むしろ今までの奏斗の方が奇妙だった。

 それはもちろん、長く続いた軟禁生活によるせいだと理解していた。しかしまさか、脳に影響を及ぼす何かを施されているとは思っていなかった。朱鷺の指摘がなければ気づかなかっただろう。

「あれか。真広とかいう奴の実験」

「ああ。アンドロイドを作るためというのは口実で、実際は奏斗で人体実験をしていた。その過程で、抑うつ状態をどうやって作り出せるか。それも実験していたんだ」

 考えられるのは真広の行ったサディスティックな実験の数々だ。あれに奏斗は心底怯えていた。それは今の政情に判断が出来る奏斗に訊ねても、同じように怯えるだろう。だから、踏み込んで問えないものだ。

「ともかく、今は目の前の敵に集中するしかないな。どのみち、奏斗を完全に救うには、情報管理課を潰すしかない。対立は避けられないんだ」

 光輝はもう奏斗に任せるしかないよと、覚悟を決めていた。どんなに慎重に事を進めようとしても、こういうイレギュラーなことが起こる。そしてそれが正解であることは、往々にしてあることだ。

 今必要なのは、この流れを断ち切らないこと。それに尽きる。

「なるほどね」

 たしかに、もともと向こうに有利な勝負なのだ。どこかで力業に訴えるより他ない。が、この展開は誰も予想できていなかったわけだが。

「問題は、朱鷺さんかもな」

 ここまで慎重に慎重を重ね、様々な対策を立ててきた朱鷺。彼女はこの状況にどうしているのだろう。颯斗は不安になっていた。





「まさかこの状況に陥るとは」

 その頃。朱鷺は作戦の変更を各方面に伝えることに追われていた。奏斗救出作戦が、いつしか情報管理課破壊作戦に変更されている。これは大変な変更だ。

「大学側と繋がっておいて正解でしたね」

 パソコンを忙しく操作しながら、海羽が笑った。やはり戦いはこうでなければ。そんな感想がありありと浮かんでいる。

「そうね。ここを作戦本部にするだけでいいんだから」

 朱鷺はそれに同意しつつも、問題は山のようにあるとこめかみを押さえた。そう、情報管理課がすでに大学に対して動き出している事実だ。

「出身校を押さえられたのは大きいですか?」

「ううん。それは想定されていたから。むしろ、今まで必死に留めていた不満を一気に爆発させた感じがあるわね。誰だって、監視されながら研究はしたくない。しかし、情報管理課の隙のない監視とシステムを突破できない。そういう状況だったから」

 そう、連絡を取っているメンバーの多くが血の気の多い状態になっている。今から本部ビルに乗り込みかねない状態だ。

「まあ、そうですよね。私も色々と苦労しました」

 海羽はそう言いつつも笑顔だ。むしろ規制の多い中でどう抜け穴を探すか。それを楽しんでいたところがある。当初からテロ活動に参加していたのだから、それは当然だった。

「ともかく、いきなり本部に爆弾を投げ込むような事態だけは避けないと」

 どう熱量を調節するか。朱鷺の悩みはそこに向かっていた。




 その頃。情報管理課も慌ただしく動いていた。

「綾瀬博士から連絡ですか」

「ああ」

 課長室に真広が行くと、イライラを隠すことない燈葉の姿があった。これは確実に継母からの連絡があった証拠だ。

「どうしてあの人は総てを読むことが可能なんだろうね。まるでラプラスの悪魔だ」

 燈葉はデスクをイライラと指で叩きながら言う。どうやっても彼女を出し抜けない。それがより劣等感を生むのだ。

「仕方ありません。こちらは彼女の引いた図面を利用しています。設計者が有利なのは仕方ないことかと」

 真広はそう諌めるしかない。が、燈葉に勝ってもらいたいのも事実だ。どうすればいいのか。同じように悩む。

「まあ、そうだな。その設計をどう書き換えるか。システムを己のものにするかだ」

 真広の言葉を正しく理解した燈葉は、大きく深呼吸をする。ここでイライラしていても勝ちはない。それは理解している。

「問題は」

「大学ですか」

「ああ」

 自分の呟きだけで理解する真広に、燈葉は満足げに笑った。まったく、彼女こそよくできたロボットのようだ。

「捕虜からいくつか情報を得ていますが、素直に白状しているとは思えないですね。いつ、彼らはネットワークを作ったのか。それに」

「奏斗か」

 動きが活発になっているというのは、逐次報告が入っている。特に尊が正しく追跡してくれていた。

「もっと対策を立てておくべきだったな」

 あいつもまた脅威に変わりつつあるな。燈葉は思わず天井を見上げていた。自分の真上にはいつも、こんな感じで凄い連中がいるのだと、そう自覚させられる気分がしていた。

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