第43話 反撃への一歩

 動き出した奏斗は早かった。この近くにあるという研究機関。そこから海羽へと連絡を取ることにしたのだ。

「ともかく連絡を取るのが先決だ。今の動きも解らないからな」

「ああ」

 しかし問題があった。奏斗の中に内蔵されているはずのIDカードだ。これがある限り、こちらの行動は筒抜けになってしまう。それを光輝が指摘すると、どうせ向こうも大人しくしていないと知っていると、しれっとした態度だ。

「それって、開き直りって言うんじゃ」

「そうだ。開き直り。これ以外に方法はない。全面的に対決するしか解決の手がないというのならば、他にやりようがないだろ?」

 一体何が奏斗の考えを変えたのか。さっぱり解らない颯斗は首を捻るしかない。しかもこの前向きさは何だろう。

「いや、IDカードが仕込まれていて、それを防御出来ないとなった時、取る行動は一つしかないなと気づいたんだ。どいつもこいつも諦めないし、かといって俺の身体を心配して他の方法を取ろうという。何か、自分で出来る方法を考えるしかないだろ?」

 ここまで来ると、さすがに腹を括るしかなくなった。奏斗は言うが、実は別のことが気になるせいだ。それは先ほども言ったように、データを解析しているはずだということにある。

「まあ、何はともあれ、一度地上に出ないと駄目だな。大河内さん。大丈夫か」

 光輝はある程度、奏斗の開き直りの理由が見えていた。だから心配しないことにする。それに奏斗が勝手に動き回れば、それだけデータが乱れるはずだ。それを考慮しているに違いなかった。

「大丈夫です。ここから数メートル先の公立図書館に抜けましょう」

 すでにルートの確認を終えた冬実が、こっちだと指差した。それは次の灯りが点く場所である。

「よし」

 奏斗は大丈夫だと、自らに言い聞かせると、先頭に立って歩き始めていた。





 その頃。尊はさらなる衝撃に出会うことになった。

「瑠衣」

「ダメだ。どうなっているのか解らないが、この子は今、ロボットと変わらない」

 冬馬の監視役として動く瑠衣が合流したことで、尊は感情のなくなった瑠衣と再会することになった。しかも瑠衣は過去の記憶が消されているのか、尊を見ても何の反応も示さない。これは冬馬の時と同じだ。

「そんな」

 どうしてこんなことをと、尊は後ろに控えていた燈葉を見る。しかし燈葉は冷然としたものだ。

「これで役者は揃ったな。後は奏斗がどう動くか。あいつのことだ。今までも少々頑張っていたわけだし、今回も何かしてくれるだろう」

 燈葉は以前に奏斗がこっそりSDカードを流していた事実を知っているのだ。それは予測していたものの、指摘されると腹が立つのは何故か。

「――つまり、今回の実験の意図を知らない奏斗であるものの、思った通りの行動を取るということですか」

 しかし、今は尊たちが反発しても事態の悪化を招くだけだ。そこで大人しく燈葉に従う態度を見せる。

「そうだ。まあ、あいつがどこまで引っ掻き回すかは不明だがな。IDカードを不能にして逃走するという手段が取れないと気づけば、奏斗が大人しくしているはずがない。他に打つ手がないとなった時、動かないで済ますなんて消極的なことは出来ない奴なんだよ」

 燈葉はだからこそ、あいつを支配者にするという案が採用されたのだと言う。

「いずれ脅威になると?」

「そうだ。科学者への締め付けを行うことは、最初から決まっていたことだ。データに関すること、IDカードに関すること。そしてどういう政策を取るにしろ、奴らの動きを封じておかないことには、抜け穴を作られてしまう。そうなった時に、どういう奴が反発しやすいか。そして中心になりやすいか。その候補の中に、穂積奏斗の名前は最初からあったんだ」

 あいつは、多くの人間から評価されているんだよと、燈葉は吐き捨てるように言う。

「まあ、そうだよな。あいつの名前は、この情報管理課が出来る前から知っていた。それは海羽だって同じだ。問題は、あいつはそれが普通だと思っていることだな」

 凄い奴って、自分より凄い奴にしか目が行かないもんなんだろうよと、冬馬は笑うしかない。そういう冬馬も凄いのではないのか、これは尊の疑問だった。そうでなれば、裏切りがばれた今、すぐに殺されているはずだ。

「そうだ。というわけで、何も俺だけがあいつを支配者に仕立てたかったわけではない。綾瀬遥香は解りやすい敵を作るという、その目的と俺を監視役に仕立てられるという、一石二鳥の方法を取ったに過ぎない」

 誰がどこまで凄いのか。そういう議論は無駄なのだろう。ただ目的に合致した。そして自分たちより上にいるのが遥香だ。そういうことなのだ。

「で、どうするんだ?俺はどうやって逃げるかまでは聞かされていないぞ」

 冬馬はそれより集めて何をするつもりなのか、それを言えとせっついた。ここで腹の探り合いをしても仕方がない。

「そうだな。尊君はこのままデータの解析を行ってもらおう。何か動きがあったら報告してくれ。長谷川は瑠衣を連れ、最後にIDカードの不能を観測した地点に行ってもらおう。そう遠くまで行っていないはずだ」

 実験を成立させるためにも、適度に追い詰めないとなと、燈葉は残忍な笑みを浮かべる。それに、尊も冬馬も息を飲んでいた。





 サイバー攻撃が役に立たないと気づいた海羽は不機嫌だった。自分よりも情報管理課が上であることが、なかなか認められない。初めての敗北だった。

「海羽。今は奏斗の合流が先だから」

 むすっとする海羽に、朱鷺は朗報よと冬実からの報告を述べる。それによると、奏斗が反撃に向けて動き出したのだという。そしてもうすぐ、パソコンを介して海羽に接触すると、手短な電話があったのだ。

「奏斗さんと組むならば、勝てるかもしれないですね」

 それにすぐ息を吹き返す海羽は、すでに復讐に燃えている。それほど負けたことがショックだったのだ。さすがは天才。初めての負けに対してどうするべきか。すぐにそっちに頭が動いたらしい。

「ただ」

「そうです。すでに攻撃は想定されて、システムは防御されている。どうするつもりでしょうねえ」

 組んですぐに何とかなる問題ではないことも確かだった。海羽はすぐにパソコンに向かうと、何かを計算し始めたのだった。

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