第34話 追われる立場へ

「政府より緊急ニュースです」

 急に街中に響いた声に、先を急ぐ三人はびくっとなった。

「ど、どこから?」

 外の世界を知らない奏斗はより動揺している。それはそうだ。近くに電光掲示板も大型スクリーンもない。当然、スピーカーも見当たらないのだ。

「これだ」

大輝がスマホを取り出してみせる。そこには勝手にニュースが映し出されていた。

「なっ、どういう仕組みで?」

「昔あった緊急地震速報の応用だ。政府から、というより情報管理課に関わるニュースはこうやってすぐに全国民に配信されることになっているんだよ」

 大輝は説明しつつも歩調を速める。多くの人がスマホに気を取られている今がチャンスだ。

「これ……」

 颯斗は大輝のスマホに映る映像に気付いて絶句した。なんと、情報管理課を脱出する時の映像だ。自分と奏斗が並んで歩いている様子が映っている。

「昨夜遅く、この少年が情報管理課に忍び込み穂積博士を連れ出した模様です。今のところ具体的な要求はなされていませんが、誘拐事件と断定。この少年はテロリストの仲間との情報があります」

  続けてアナウンサーが読み上げる声がした。それに颯斗のみのらず奏斗も大輝も何も言えなくなった。

「――まさか、こんな手を使ってくるとは」

 国民に姿を晒させるだけでなく、探させるつもりなのだ。しかも颯斗を危険に晒すことで、奏斗にも逃げ隠れ出来ないようにしている。

「この場を離れましょう」

 映像と照合されては拙い。そう気付いた奏斗はより細道を指差す。

「ああ。大久保の身の安全も確保しないと」

 まったく真っ直ぐに進めない。その状況に大輝は舌打ちする。さっと細道に身を隠すと、多くの人が噂話に興じている様子が解った。

「テロリストだって。マジでいるんだ」

「穂積がこの辺にいるかもしれないってことか?」

「あいつなんてテロリストに殺されればいいんだよ」

「俺、テロリストを応援しちゃうかも。奏斗がいなくなれば快適だもんな」

  口々に放たれる言葉は、どこか刺々しい。そして過激なものもある。

「ねえねえ。イケメンで金持ちよ。会えたらスゴくない?」

 そんな興味本位の声もする。そういった様々な反応に、奏斗は自分を知る手掛かりがあると耳を傾けた。

「あまり気にするな」

 しかしそればかりが奏斗の評価ではない。それにもっと辛辣な言葉を言う連中にも会うことになるだろう。あまり気にしては駄目だと颯斗が声を掛けた。

「でも」

「俺も朱鷺さんに会うまで、すんごいぼろっかすに言ってたんだぞ。人でなしだの変人科学者だの、変態だのマッドサイエンティストだのってさ。誰も本当のお前を知らずに言っているんだ」

 気になると、まだ身を乗り出して噂を聞こうとする奏斗に颯斗はそんなことを言う。その窘め方に大輝は苦笑し、奏斗はきょとんとしたような間の抜けたような変な顔をする。

「――少なくとも本人を前に言うことではないな」

 取り敢えず、発言が無責任だということは理解した。奏斗は盛大に溜め息を吐き出し、気持ちを切り替える。しかしまあ、よくそれだけ悪口を言っていたのに朱鷺に手を貸す気になったものだと、その颯斗の切り替えの早さに感心してしまった。

「まあ、身を隠す人数が増えてしまったわけだ。ここからどうするかだな」

 ずっと人通りのないところを通ったとすると、いつになれば朱鷺の待つアジトに辿り着けるか解らない。

「そう言えば、図書館がどうとか言ってなかったか」

 予定変更の当初は図書館に向かうところのだったはずだった。それがいつしか逸れている。

「そうそう。朱鷺の凄いところというか、策略家というか、街にある図書館の総てを味方につけているんだよ。そこでこっそり地下通路を作り、アジトに繋げてしまっているんだ。図書館の職員ってのはデジタル反対が多いからな。それは当然で、司書ってのは紙の本を愛している。だから、情報管理課に敵対する朱鷺の味方は歓迎だったらしい。しかも過激な思想を持ち合わせていないからテロに加わることもなく、一定の距離を置いてくれる。これほどいいパートナーはいないってわけだ」

 大学の研究者が当てにならないことは、自分も研究者をやっているからすぐに理解していた。そこで目を付けたのが図書館というわけだ。

「はあ、なるほどね。実行部隊になる味方がいないってだけで、実際には多くの人が朱鷺さん達に加担しているってわけか」

 颯斗は凄いなと素直に感心する。実行部隊に自分たちを引き入れるところに不安があったが、それは表面上のことだったようである。

「そういうことだ。まあ、多くがちゃんとした仕事を持っている、この社会では当たり前だけどな、そういう状況だから表立って情報管理課に反対できない。そこで色々とあるってわけだよ」

 科学者だって単なる言いなりではなかったんだけどなと、大輝は無駄な言い訳もしていた。しかし実際に何をと問われると、朱鷺のように具体性がない。

「じゃあ、どこか図書館に入ることが出来れば大丈夫ってことですね」

 奏斗も朱鷺の行動力に感心しつつも、その図書館を繋ぐというので思いつくことがある。

「おっ、この近くの大きな図書館以外にも何か図書館みたいなものがあるのか?」

 颯斗は朱鷺と奏斗が付き合っていたという、ちょっと信じられない事実を思い出した。

「ああ。何度かその、デートで行ったことがある」

 颯斗の視線で付き合っていた頃のことだとばれていると知る奏斗はごにょごにょと呟く。

「ほう。デートで図書館ねえ。今時の若者には珍しい。ま、お前らだからな」

 一方、大輝は勝手にそんな納得をしている。ともかく、行き先は決まった。

「行きましょう。そこは昔と変わっていないのならば人目に付くことなく行けるはずです」

 奏斗はこっちだと、街中に出て初めて自らの足で進路を決めた。





「これこそテロリストのようだけどな」

 奏斗と燈葉が卒業した大学。その正門に立った冬馬は思わず愚痴を零してしまう。これが情報管理課のやり方かと、絶対に批判されること間違いなしだ。

「総ては奏斗の指示となります。自らの過去を消そうとした。そういう言い訳が成り立つと、課長は考えられているんです」

 そんな冬馬の呟きに、相変わらず機械のような口調で瑠衣が言ってくる。

「そうそう。それに今頃、国民は奏斗がテロリストに連れ去られたことを知っている。誰が襲ったか、そんな議論をしている場合ではなくなりますよ」

 さらに合流した真広も顔の筋肉を動かすことなくそう言ってくる。こういう無表情が燈葉の好みなのかと、冬馬は違うことを考えて少々現実逃避してしまった。

 今、冬馬たちは情報管理課の実働部隊とともに大学を取り囲んでいる。大学の中では研究者たちが右往左往していることだろう。あちこちの校舎には電気が点いていて、奏斗への協力で集まっていたことを物語っている。

「全員の処遇はどうするつもりだ?」

 ここで全員を逮捕するというのは理解しているが、その場合は政治犯になるのか何なのか。冬馬はその先が気になる。

「さすがに全員を裁判にかけるのは批判を免れません。まあ、どいつが指揮しているか。それを聞き出すのがメインですね。そしてお灸を据えるという意味での逮捕というところです」

 楽しみだと笑う真広に、全員に拷問をする気かよと冬馬は自分の身に起こったことを思い出して鳥肌が立った。何とか助ける方法を考えなければならなくなる。

「さて、向こうが仕掛けてくれるとやりやすいですね。任せてください」

 冬馬の心配をさらに強めるように真広はやる気満々だ。このマッドサイエンティストで工学者の女はマジでヤバい。ポケットから取り出したスイッチを押すと、部隊の後から大学生風に作られたアンドロイドたちが姿を現した。

「彼らに撹乱してもらいましょう。出てきたところを逮捕する。それが最小限の労力で最大の効果を得る方法ですよ」

 真広がそう言うと、無表情のアンドロイドたちが大学の中に静かに進行していった。

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