第61話 知らない天井

 目を覚ますと知らない天井だった。消毒液の匂いが鼻をつく。


 体のあちこちを包帯でぐるぐるまきにされたミイラみたいな格好で、寝かされていた。


 どうやら、病院のベッドの上にいるらしい。気を失う前の事を思い出す。

 

「殺されたかと、思ったんだけどなぁ」


 何故あの連続殺人犯が自分を見逃したのか、心当たりが全くなかった。


 独り言に少女の声が答える。


「縁起でもないこと言わないでよ」


「ーー椎堂さん。なんでいるんですか?」


 少女は、その言葉にため息をつくと、


「お見舞い?」


 と、首を傾げながら返す。


「なんで疑問系なんですか?」


「紀美丹君まで幽霊になっちゃったかと」


 椎堂さんが、お見舞いの花を花瓶にさしながらボソリとこぼす。


「それこそ、縁起でもない」


 僕の言葉に、ニヤリと笑うと椎堂さんは、


「何があったか聞いてもいい?」


 と質問してくる。


「それは、私も興味があります」


 僕の返事を聞く前に、いつのまにか部屋の中に入ってきていた女性が口を開く。


「・・・・・・えっと。どちらさまですか?」


 僕の問いかけに、女性の隣に立つ巌のような大柄の男性が、


「失礼しました。私共はこういうものです」


 と、手帳のようなものを出す。


「ーー警察の方ですか」


 僕のその発言を警戒ととったのか、女性が前に出る。


「この度は、ご愁傷様でした。お体がまだ万全ではないかと思われますが、少々お話をお伺いさせていただけないでしょうか?」


 女性は物腰は丁寧でも、しかしどこか有無を言わせぬ圧力があった。


「はぁ、わかりました」


 僕のその発言を、巌のような男が背中を丸めて早速メモし始めたのが印象的だった。


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