第57話 命の価値

 男は、死体に興味を無くしたのか、こちらに向けて歩いてくる。


「なぁ、あんたはどう思う?」


 その声は、どうやら僕に対して問いかけているようだった。


「なんで人ってこんなに簡単に死ぬんだろうな。こんなに簡単に死ぬなら」


 なんで生きてるんだろうな。そういうと男は、僕の体を転がして仰向けにする。


「っつ!」


 無くなったと思っていた傷の痛みが再発する。


「あっ。さーせん。ふひひ」


 他人を馬鹿にした笑いを零しながら、男は、僕の脇腹の傷を弄る。


「あーらら。結構深いねー。このまま止血しないとあんた死ぬんじゃね?」


 男はどうでもよさそうに、そう言い放つと、


「で、どうなの?」 


「なにが、ですか?」


 声を絞り出す。

 男は、銀髪の女性と目を合わせると、やれやれと首を振る。


「だからさー。なんで生きてると思う?」


 僕が何故生きているか? そんなの。


「知りませんよ。いつのまにか生きてたから生きてる。ただそれだけです」


 男は、興味なさそうに、


「ふーん?」


 と呟いた後、


「じゃあ、別に死んでも構わないってこと?」


 と、言うとナイフを弄びながら切っ先を僕に向ける。

 

 いきなり現れていた大勢の人々が、こちらを見つめる。


 ああ、そういうことですか。


「尾張さんが、死んでからの僕ならーーきっとそう答えてたんでしょうけど」


 でも。と真っ直ぐに前を向いて、の顔を睨みつける。


「僕は、生きるって約束したので。尾張さんとまた会える時まで、自分の命を粗末にするわけにはいかないんです」


 その言葉に、男は納得がいったのかいかないのか、


「ふーん。だってよ?」


 と暗がりに佇む少女に声をかける。


 そこが限界だった。僕の意識は、ここで途切れる。

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