第42話 止まった部屋
久しぶりに入る自室は、いつもと変わらず、綺麗に整頓されていた。
ただ、少し埃が積もっているのが気になった。
どうやら、部屋はそのままにしてくれているらしい。
ただ、ダンボールに入った学校の教材が隅に置かれているのが、いつもとは違った光景で、その異質な存在が一つの事実を私に突きつけているようだった。
「私、本当に」
死んでるのね。そう口に出していたのは、無意識だった。
自分が死んだ事を信じたくなくて、ずっと否定していた。
だけど、遺影が、家族が、自分の部屋が、その現実を突きつけていた。
「私、じゃあなんでまだ消えてないのかしら。それとも、死んだ人はみんな幽霊になるのかしらね」
そして、誰にも認識されずにずっと一人で。
「それは」
嫌だなぁ。
タンスの引き出しを開ける。私服に着替えようと、服を触る。
すると、いつの間にか、今まで着ていた制服が着ようとした服に変化していた。
「ーーなにこれ」
何故か、泣けてきた。
「本当に、ーーなによこれ」
零れ落ちた涙は、タンスの服に触れる前に空中で霞のように消えていった。
タンスの引き出しを戻して、立ち上がる。自転車と、家の鍵をダンボールの中から見つけ出し、ポケットに入れる。
その後、薄ら埃が積もった机の引き出しを開け、メモ帳とボールペンを取り出す。
メモ帳から一枚切り取ると、簡単なメモ書きを残して、止まってしまった部屋を後にする。
どうやら、彼は先に外に出たようだ。まぁ、初対面の人と長い間一緒にいろって言うのも酷な話ではあるのだけれど。
彼、結婚の挨拶とか苦手そうだし。
そんな、私にはもう関係のない未来の話に想いを馳せていると、少しだけ今を忘れられた。
母が料理をする後ろ姿をじっと見つめる。
もう、会話もする事は出来ないけど。
いつか、メモに気づいたとき、私のことを思い出してくれたら、それでいい。
これは、ルール違反なのかもしれないけど、それぐらいは許してほしい。
未練を断ち切るように、目を逸らし、玄関へ向かう。
そして、扉を開いて外で待っているであろう彼のもとへ向かう。
ガチャリと、扉が閉まる音がする。
「・・・・・・恋?」
母のそんな問い掛けが、扉の向こうで聞こえた気がした。
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